大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和51年(ワ)2564号 判決

原告 日本労働組合総評議会全日本造船機械労働組合三菱重工支部

被告 三菱重工業株式会社

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

一  被告は、原告に対し、金三二一〇万八三一二円及びこれに対する昭和五一年四月一三日から右支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、別紙謝罪文を朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日本経済新聞の全国版に掲示せよ。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  第一項につき仮執行の宣言

(被告)

主文同旨

第二当事者の主張

(請求原因)

一  当事者

1 原告は、全日本造船機械労働組合さん下の一組織で、被告会社に勤務する従業員約五八〇名で組織する労働組合であつて、肩書地に事務所を有し、昭和四八年四月当時、長崎造船分会(以下「長船分会」という。)、福岡工作分会(以下「福工分会」という。)、下関造船分会(以下「下船分会」という。)、広島造船分会(以下「広船分会」という。)、広島精機分会(以下「広機分会」という。)の五分会(以下、以上の五分会を総称して「五分会」という。)を有している。

2 被告会社は、船舶、原動機、各種産業機械等の製造・修理を業とする会社で、肩書地に本社を置き、全国一三か所に事業所を有し、そこに勤務する従業員は約八万人である。

3 被告会社には、原告のほか全日本労働総同盟全国造船重機械労働組合連合会三菱重工労働組合(組合員約七万五〇〇〇人、以下「重工労組」という。)がある。被告会社の原告に対する分裂攻撃により昭和四〇年一二月に右組合が発足し、今日に至つたものである。

二  被告会社の不法行為

憲法二八条は、労働者に対し団結する権利を保障し、労働組合法七条は、使用者の団結権侵害(不当労働行為)を禁止する。使用者が、故意又は過失によつて労働者の団結する権利を違法に侵害した場合、それは不法行為となり損害賠償責任が発生する。

被告会社は、次のとおり故意又は過失によつて原告の団結権を違法に侵害したのであるから、損害賠償責任を負う。

1 便宜供与打切りによる不当労働行為

(一) 被告会社は、昭和二〇年代から昭和四八年三月まで原告に対し、別紙便宜供与一覧表記載の組合事務所、電話、掲示板、構内郵便、チエツクオフ、組合専従、時間内組合活動の各便宜供与(以下これを「本件便宜供与」という。)を行つてきた。

(二) 本件便宜供与は、次のような法律関係に基づき、成立、継続されてきた。

(1) 労使慣行上の権利としての本件便宜供与

本件便宜供与は、昭和二〇年代から、原告と被告会社との合意に基づき、労使慣行上の権利として期間の定めなく維持継続されてきた。

昭和二七年以降は、労働協約が締結され、本件便宜供与のうち主要なものは労働協約上の権利としても維持継続されるようになつた。この労働協約には、期間が一年と定められていたが、これは、労働組合法一五条に基づき、形式的に定められていたにすぎず、本件便宜供与が労使慣行上の権利として期間の定めなく維持継続されることを否定するものではない。

また、昭和四六年以降は、協約期間が三か月(最終的には一か月)と定められるようになつたが、この定めは、別の意図によるものであつて、本件便宜供与が労使慣行上の権利として期間の定めなく維持継続されることを否定するものではない。

(2) 労働協約上の権利としての本件便宜供与

昭和二七年以降は、労働協約が締結され、本件便宜供与のうち主要なものは労働協約上の権利としても維持継続されてきた。この労働協約には、期間の定めがあつたが、本件便宜供与に関する規定は、昭和二八年以降約二〇年間にわたり期間満了ごとに更新されてきたのであるから、昭和四八年四月当時には、本件便宜供与に関する労働協約上の権利は、期間の定めのない労働協約上の権利に転移していたと解すべきである。

仮に、右のように解することができないとしても、本件便宜供与に関する労働協約上の権利は、昭和二八年以来労働協約の期間満了ごとに更新を重ねて昭和四八年四月当時には実質上期間の定めなき労働協約上の権利と異ならない状態になり、単に期間が満了したという理由だけでは被告会社において便宜供与の打切りを行わず、また原告もこれを期待、信頼し、このような相互関係が存続、維持されてきたものと解すべきである。

(3) 賃貸借契約又は和解契約上の権利としての本件便宜供与

原告は、昭和二六年七月二〇日、被告会社との間で、東京都港区所在の組合事務所及び同事務所付設の電話(以下「東京事務所及び同事務所付設の電話」という。)に関する賃貸借契約(期間の定めなし、賃料一か月金五〇〇〇円)を締結し、以後賃借してきた。以上のとおり東京事務所及び同事務所付設の電話は、賃貸借契約上の権利としても維持継続されてきた。

原告福工分会は、福岡地方裁判所昭和四三年(ワ)第一〇一号事件において、被告会社との間で、同会社は同分会に対し組合事務所(一か所)及び電話(二本)を貸与する旨の和解契約を締結し、以後これらを右契約に基づいて使用してきた。以上のとおり福工分会の組合事務所(一か所)及び電話(二本)は、和解契約上の権利としても維持継続されてきた。

(4) 使用者の団結承認義務の履行としての本件便宜供与

本件便宜供与は、憲法二八条の保障する団結権の下での使用者の団結承認義務の履行としても維持継続されてきた。

(三) しかるに、被告会社は、次のような経緯のもとに本件便宜供与を打ち切つた。

(1) 被告会社内の原告を除く三労働組合は、昭和四七年秋ころ、被告会社に対しそれぞれ労働時間短縮要求として完全週休二日制の要求を提出し、原告も同年一〇月三〇日、被告会社に対し、秋間第一回中央経営協議会(以下「中経協」という。)において、秋間要求の一つとして実働時間を延長せずに毎週土曜日を休日にすること(昭和四七年一月より隔週週休二日制が実施されていた。)を要求した。これに対して被告会社は、同年一二月二五日の第四回中経協において、(I)実働時間を八時間とする(現行七時間三〇分)、(II)毎週土曜日を休日とする、(III)昭和四八年四月一日から実施する、と回答した。更に被告会社は、昭和四八年一月二二日の第五回中経協において、原告に対し、時間管理の厳格化を求める「時間短縮にともなう諸対策」を提案し、生産対策上の協力を求めた。

原告は、被告会社に対し、同年二月八日の第六回中経協で、現在の労働協約が同年二月末日をもつて有効期間満了となるが、同年三月一日以降については、内容はそのままとし、その期間を一か年とする労働協約を締結するよう申し入れた。

被告会社は、原告に対し、同年二月二七日の第七回中経協において、労働協約について「これまで一部の分会の行為につき、問題点が改善されることを期待して三か月ごとに労働協約を締結してきたが現状は一段と厳しいものになつてきており、労働協約自体をどうすべきかという基本的な問題を考えざるをえなくなつてきている。しかしながら、会社としても次回交渉日まで、これまでの労働協約に基づく取扱いを継続する。」と回答し、同年三月一五日第八回中経協では、労働協約についての会社の考え方は前回どおりであるとしながらも、「これまでの労使関係も考慮して、今月一杯同一内容で締結する。」と表明し、更に「四月一日以降は、特定分会の問題もさることながら組合全体の問題として、労働協約の重要な要素となつている労働時間及び休日の問題について労使の協議が整わない以上、労働協約は締結できないことになる。」と表明した。これに対し、原告は、労働時間及び休日の条項については話合いがつかないにしても、他の条項では不一致はないことを理由に、労働時間に関する部分を除く労働協約の更新を主張したが、被告会社との交渉は進展しなかつた。

原告は、同年三月三〇日の第九回中経協において、時間短縮問題についての会社提案は了承できないと回答した。これに対し、被告会社は、同年三月三〇日の第九回中経協において、「労働協約については、三月末日までは締結することにしたいと前回言つたが、協約の規範的部分について本日の組合の態度から締結できないので、四月一日より効力を失うことになる。一切の便宜供与はなくなるが具体的には事業所より分会へ連絡する。」と通告した。

以上のとおり、被告会社は、原告が、被告会社提案の労働者に不利益を強いる労働時間短縮に同意しないとみるや、労働時間問題を除いては従前の労働協約事項に何ら争いがないにもかかわらず、労働協約の更新を拒否した。

(2) 被告会社は、別紙便宜供与一覧表「通告日」欄記載のとおり昭和四八年四月一日あるいは二日、原告及び各分会に対し、同表「通告内容」欄記載の便宜供与打切り通告を行つた。

そして、被告会社は、同年四月一日以降、新労働時間を実施するとともに、次のような行為をした。

(i) 同月三日広機分会の構内郵便の発送を停止し、広船分会の事務所までの集配を停止した。

(ii) 同月五日長船分会の電話施設八本のうち七本を断線し、同分会の事務所までの構内郵便の集配を停止した。

(iii) 同月六日下船分会の掲示板五か所をのこぎりで切り取り撤去した。

(iv) 同月一〇日福工分会の掲示板を撤去した。

(v) 同月二〇日全分会のチエツク・オフを拒否した。

(四) 被告会社の右行為に対し原告は、別紙便宜供与一覧表「仮処分申請月日」欄記載のとおり裁判所に対し仮処分申請をしその仮処分決定及び東京都地方労働委員会昭和四八年八月二一日付け不当労働行為救済命令、中央労働委員会昭和四九年一一月二〇日付け不当労働行為救済命令により本件便宜供与を回復したが、被告会社の便宜供与打切りに伴う違法状態は、右仮処分決定による回復あるいは労働委員会命令による救済まで継続した。

(五) 被告会社の本件便宜供与の打切りは、原告に対する不当労働行為(支配介入)であると同時に、民法七〇九条の定める不法行為に該当する。

すなわち、被告会社は、団結権侵害という結果が発生することを認識しながら、その結果の発生を容認して本件便宜供与をあえて打ち切つたものであり、仮に団結権侵害という結果が発生することを認識していないとしても、その結果が発生することを認識すべきであるのに、不注意のためにその結果の発生を認識しないで右の行為を行つたというべきであるから、故意又は過失があつたということができる。

本件便宜供与の打切りは、原告の団結権を違法に侵害したものであるから違法性が存するということができる。

被告会社は責任能力を備えており、原告は後に主張する損害を本件便宜供与の打切りによつて受けた。

2 増額分の賃金及び夏季一時金不払いによる不当労働行為

(一) 被告会社は、昭和四八年五月、六月の増額分の賃金及び同年の夏季一時金を原告の組合員以外の従業員に対しては支払つたにもかかわらず、原告の組合員に対しては支払わなかつた。

その経緯は次のとおりである。

(1) 原告は、昭和四八年三月一五日、春闘第一回中央経営協議会において、被告会社に対し、(i)賃金を二万円増額すること、(ii)退職金を増額し、勤続三〇年で六四〇万円とすること、(iii)時間外労働割増率を三割五分とすること、(iv)死亡災害弔慰金等を一五〇〇万円とすることなど一〇項目にわたる要求を行い、被告会社と同年五月八日まで八回にわたり団体交渉を行つた。その結果、同日、被告会社は次のような内容の回答を行つた。

(i) 賃金増額の件

(ア) 金額 社員一人平均税込み一万三八〇〇円プラス調整金二〇〇円

(イ) 配分 賃金増額分の五〇パーセントを職能給に、残りを勤務給にそれぞれ繰り入れる。具体的な配分については金額妥結後協議する。

(ウ) 実施期日 三月支払い賃金からとする。

(エ) 本給控除方法の改正

〈1〉 業務外傷病欠勤及び事故欠勤の場合の控除容赦取扱いを廃止する。

〈2〉 遅刻、早退及び私用外出の場合の控除容赦時間は一か月につき通算三回まで各回三〇分以内とする。

〈3〉 右改定に伴い、現在容赦取扱いの対象となつている総時間に対応する賃金部分は全体に還元する。

〈4〉 実施期日 昭和四八年四月一日

(ii) 退職金増額の件 略

(iii) 割増金引上げの件

(ア) 時間外労働割増金

就業規則所定の始業時刻前の労働及び就業規則所定の終業時刻後二時間以内の労働について現行二割五分を三割とする。

(イ) 休日労働割増金

就業規則所定の休日につき現行二割五分を三割とする。

(iv) 弔慰金等増額の件 略

(2) 原告は、同月一一日、第九回団体交渉において、被告会社に対し、次のとおり妥結する旨通告した。

(i) 賃金増額の件

(ア) 金額については会社回答で妥結する。配分について成案があれば示せ。

(イ) 本給控除方法の改正については反対。

(ii) 退職金増額の件妥結する。

(iii) 割増率引上げの件

割増率は妥結する。ただし、就業規則所定の労働時間、休日については「時間短縮」問題未解決のため保留する。

(iv) 弔慰金等増額の件妥結する。

(3) 右の通告に対し、被告会社は、「賃金増額について配分は成案を得ていないので改めて提示する。したがつて、三月、四月分は精算払とし、五月分は暫定払とする。しかし、割増率については、原告が一部保留している以上妥結にならない。」と主張し、三月、四月分精算払方法及び五月分暫定払方法について提案した。

(4) 被告会社は、同年五月二二日及び同月二五日、全従業員に対し、三月、四月分の賃金増額分について、所定の算定方式により、全額清算払を行つた。

(5) 被告会社は、同年五月一八日、同月の賃金増額分の暫定払を行うにあたつて、原告の組合員に対してのみこれを行わず、同年六月二〇日、同月分の賃金の支払にあたつても原告の組合員に対してのみ、増額部分を差し引いて支払つた。

(6) 原告は、同月一一日、被告会社に対し、次のような内容の夏季一時金要求を行つた。

(i) 金額 一人平均税込み三か月分(約三〇万六〇〇〇円)

(ii) 配分 賃上げ後の各人の理論月収の三か月分とする。

(iii) 指定回答日 六月二〇日

(iv) 支払日 七月六日

(7) 右の要求に対し、被告会社は、労働時間短縮に伴う賃金取扱いなどに付帯して提案していた期末一時金勤怠系数の改訂を改めて提案した。その内容は次のとおりである。

(i) 昭和四八年夏季一時金に用いる勤怠系数を次の通りとする。

勤怠調査期間を通算し、就業規則所定の労働日の欠勤三日以内の者は一〇〇パーセントとし、三日を超える三日ごとに一パーセントを減ずる。三日未満の端数は切り上げる。遅刻または早退により就業規則所定の労働時間の勤務を一部欠いた場合には、遅刻、早退四回をもつて欠勤一日とみなし、四回未満の端数は切り上げる。

(ii) 昭和四八年末以降の支給分に用いる勤怠系数を次の通りとする。

勤怠調査期間を通算し、就業規則所定の労働日の欠勤三日以内の者は一〇〇パーセントとし、三日を超える一日につき〇・四パーセントを減ずる。遅刻または早退により就業規則所定の労働時間の勤務を一部欠いた場合には遅刻早退四回をもつて欠勤一日とみなし、四回未満の端数は切り上げる。

右の改訂案中、ことさらに就業規則所定の労働日、労働時間としているのは、賃金増額分の支払と同様に、原告が「時間短縮」問題との関連でこれを保留した場合には、たとえ他のすべてについて妥結を表明しても、それでは妥結にならないとして一時金を支払わないことを暗に匂わすものであつた。

(8) 被告会社は、同年六月二五日の第三回団体交渉において、次のような内容の回答を行つた。

(i) 金額 一人平均年間で四三万円(夏季二一万円、年末二二万円)

(ii) 配分 略

(iii) 勤怠系数の改訂

先に提案したものに「私傷病による長欠者の欠勤控除は四五パーセントを限度とする。」を追加する。

(iv) 支給日 夏季七月五日、年末一二月三日

(9) 右回答に対し、原告は、夏季一時金として要求しているのに被告会社が年間として回答していることや金額があまりに低いことに不満を表明し、検討を求めるとともに、賃金増額の時と同じように、勤怠系数の改訂を認めなければ一時金を支払わない考えかとただしたところ、被告会社は明確にこれを肯定した。

(10) 被告会社は、同月二九日の第四回団体交渉において、修正回答を示すことなく、冒頭から原告の長船分会の組合員が賃金増額分支払請求仮処分を申請していることに不快の念を示し、原告は自主的交渉権限を放棄したのかなどと攻撃してきた。原告は、一時金の議題に入るよう求めたが、被告会社は重工労組との交渉ですでに示した金額四五万円の修正回答を示さず、昼ごろ、休会したいと言つて席を立つた。

(11) 同日午後四時五七分に団体交渉は再開された。被告会社は、この団体交渉において、すでに休会中に重工労組との間で妥結をみた内容を、原告にも最終回答として示した。それは、次のような内容であつた。

(i) 金額

一人平均年間で四五万五〇〇〇円(夏季二二万二五〇〇円、年末二三万二五〇〇円)

(ii) 支給率 夏季の場合は二・五五

(iii) その他は前回通り

(iv) 支給日

本日すべてが妥結できれば夏季七月五日、年末一二月三日

(12) 右回答に対し、原告は、金額、配分については了承し、勤怠系数の改訂についても了承するが、就業規則所定の労働日及び労働時間という部分は保留したいとの態度を表明した。これに対し、被告会社は、会社提案は一つであり、分離しては妥結とならないと繰り返し、原告の組合員に一時金は支払えないと答えた。原告は、理を尽くして被告会社の態度の不当性、合理的理由のないことを追及したが、会社は態度を変えず、交渉はついにもの別れに終つた。

(13) 被告会社は、重工労組の組合員に対しては同年七月五日に夏季一時金を支給したにもかかわらず、原告の組合員には夏季一時金を支給しなかつた。

(二) 原告の組合員は、賃金及び一時金支払の仮処分申請を行い、同年七月一一日、長崎地方裁判所で和解が成立し、被告会社は、同月一七日、原告の組合員に対し、同年五月、六月の増額分の賃金及び同年の夏季一時金を支払うに至つた。

(三) 被告会社が、昭和四八年五月、六月の増額分及び同年の夏季一時金を原告の組合員以外の従業員に対しては支払つたにもかかわらず、原告の組合員に対しては支払わなかつたことは、原告の「時間短縮」反対闘争に対する報復であり、不当労働行為(支配介入及び不利益取扱)であると同時に、民法七〇九条に定める不法行為に該当する。

すなわち、被告会社は、団結権侵害という結果が発生すべきことを認識しながら、その結果の発生を容認して右の行為を行つたものであり、仮に団結権侵害という結果が発生することを認識していないとしても、その結果が発生することを認識すべきであるのに、不注意のためにその結果の発生を認識しないで右の行為を行つたというべきであるから、故意又は過失があつたということができる。

右の行為は、原告の団結権を違法に侵害したものであるから違法性が存するということができる。

被告会社は責任能力を備えており、原告は後に主張する損害を右の行為によつて受けた。

三  原告の損害

1 弁護士費用 金一一一万五〇〇〇円

原告が、前記不法行為の継続を被告会社に中止させ、これを排除するための方法としては、前記仮処分申請及び労働委員会への救済申立て以外になかつた。しかるに、前記仮処分申請及び労働委員会への救済申立てのためには、弁護士に依頼するほかなく、弁護士費用を要した。したがつて、この弁護士費用は、前記不法行為と相当因果関係のある損害ということができる。

その内訳は次のとおりである。

(一) 便宜供与打切りによる不当労働行為によつて被つたもの

(1) 原告支払額 金六四万円

(2) 広機分会支払額 金八万五〇〇〇円

(二) 賃金及び一時金不払による不当労働行為によつて被つたもの

(1) 原告支払額 金二三万五〇〇〇円

(2) 長船分会支払額 金一三万円

(3) 福工分会支払額 金二万五〇〇〇円

2 裁判対策のための会議費、交通費等及び裁判所等への出頭費用 金九九万三三一二円

原告が、前記不法行為の継続を中止させ、これを排除するための方法としては、前記仮処分申請及び労働委員会への救済申立て以外になかつた。しかるに、原告は、労働者によつて構成され、大衆の自発的意思と行動によつてはじめて組織体として維持できるという本質的特質を有する団体であるから、前記仮処分申請及び労働委員会への救済申立てのためには、会議を行うことが必要不可欠であつた。また、原告は、事業所を異にする組合員によつて構成されているから、会議を行うためには、交通機関を利用することが必要不可欠であつた。更に、労働組合の大衆団体としての本質的性格からして、大衆的に決定された方針を実現し、勝利を得るために、前記仮処分申請及び労働委員会への救済申立てに関して裁判所及び労働委員会へ出頭、傍聴し、行動することが必要不可欠であつた。しかも、団結権が侵害された場合、労働組合が、それを中止させ排除するために会議を行い裁判所等へ出頭したりすることは、どのような労働組合でも常に行つていることであり、加害者たる被告会社は、予見していたか少なくとも予見可能であつた。したがつて、裁判対策のための会議費、交通費等及び裁判所等への出頭費用は、被告会社の前記不法行為と相当因果関係のある損害ということができる。

その内訳は次のとおりである。

(一) 便宜供与打切りによる不当労働行為によつて被つたもの

(1) 裁判対策のための会議費、交通費等 金一四万一九四五円

(i) 原告支払額 金二万一五八五円

(ii) 長船分会支払額 金五八一〇円

(iii) 福工分会支払額 金三万九三〇〇円

(iv) 下船分会支払額 金六〇五〇円

(v) 広機分会支払額 金六万九二〇〇円

(2) 裁判所等への出頭費用

(i) 長船分会支払額 金一二万三二〇〇円

(ii) 福工分会支払額 金一〇万六二一三円

(iii) 下船分会支払額 金五万四五七円

(iv) 広船分会支払額 金一万七四〇二円

(v) 広機分会支払額 金六万五〇〇〇円

(二) 賃金及び一時金不払による不当労働行為によつて被つたもの

(1) 裁判対策のための会議費、交通費等 金二四万一三五〇円

(i) 原告支払額 金一七万八四九〇円

(ii) 長船分会支払額 金五万二四三五円

(iii) 福工分会支払額 金一万四二五円

(2) 裁判所等への出頭費用 金二四万七七四五円

(i) 長船分会支払額 金一六万四八三三円

(ii) 福工分会支払額 金二万一〇〇〇円

(iii) 下船分会支払額 金一万二六二七円

(iv) 広機分会支払額 金四万九二八五円

3 非財産的損害 金三〇〇〇万円

前記不法行為によつて原告が受けた非財産的損害は、次の事情を考慮すれば、少なくとも金三〇〇〇万円が相当である。

(一) 被告会社の右の二つの不当労働行為は、究極的には原告の壊滅を企図する悪質きわまりないものであり、原告は、これらの行為により、分裂攻撃以来始めて組織の存亡を問われる状態に追い込まれた。

(二) 被告会社は、今日に至るも何の反省もせず、原告の便宜供与協定の締結申入れさえ拒否している。

(三) 被告会社は、日本における最大の巨大独占企業であり、その社会的責任はきわめて重大であるにもかかわらず、あえて法秩序に違反する行為をとつている。

四  謝罪文掲示による原状回復

1 民法七〇九条

民法七〇九条は、不法行為が成立した場合、加害者は「損害を賠償する責」がある旨定めるが、同条は、加害者は原則として金銭賠償責任を、必要に応じて原状回復責任を負う旨定めたと解すべきである。被告会社の本件不法行為による原告の損害は、金銭賠償だけでは償われず、原状回復が必要であるから、被告会社は、同条により、原告に対して原状回復責任を負うということができる。原状回復の方法としては、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日本経済新聞の全国版に別紙謝罪文を掲示するのが相当である。

2 民法七二三条

被告会社は、原告が理不尽な行為を行つたために、本件便宜供与の打切り並びに賃金及び一時金の不払を行つた旨会社内に広く流布し、これにより原告は、組合としての名誉を著しく毀損された。よつて、被告会社は、民法七二三条により、原告の名誉を回復するために適当な処分を行う義務がある。この処分としては、前記謝罪文の掲示が相当である。

五  結論

よつて、原告は、被告会社に対し、不法行為による損害賠償請求権及び原状回復請求権に基づき、金三二一〇万八三一二円及びこれに対する不法行為の日の後である昭和五一年四月一三日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払及び別紙謝罪文を朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日本経済新聞の全国版に掲示することを求める。

(請求原因に対する認否)

一  請求原因一について

1 1は認める。ただし、昭和四八年四月当時の原告の組合員数は約五六〇名である。

2 2は認める。

3 3のうち、被告会社の原告に対する分裂攻撃により昭和四〇年一二月に重工労組が発足したことは否認するが、その余は認める。

二  請求原因二の1の(一)は認める。

三  請求原因二の1の(二)について

1 (1)は争う。

2 (2)のうち、本件便宜供与が労働協約上の権利として維持継続されてきたことは認めるが、その余は争う。

3 (3)のうち、原告は昭和二六年七月二〇日被告会社との間で東京事務所及び同事務所付設の電話に関する賃貸借契約(期限の定めなし、賃料一か月金五〇〇〇円)を締結し、以後賃借してきたこと、東京事務所及び同事務所付設の電話は賃貸借契約上の権利として維持継続されてきたこと並びに原告福工分会は福岡地方裁判所昭和四三年(ワ)第一〇一号事件において被告会社との間で同会社は同分会に対し組合事務所(一か所)を貸与する旨の和解契約を締結したことは認めるが、その余は争う。

4 (4)は争う。

四  請求原因二の1の(三)について

1 (1)のうち、被告会社が昭和四八年三月三〇日の第九回中経協において「労働協約については、三月末日までは締結することにしたいと前回言つたが、協約の規範的部分について本日の組合の態度から締結できないので、四月一日より効力を失うことになる。一切の便宜供与はなくなるが具体的には事業所より分会へ連絡する。」と通告したこと及び被告会社は、原告が被告会社提案の労働者に不利益を強いる労働時間短縮に同意しないとみるや労働時間問題を除いては従前の労働協約事項に何ら争いがないにもかかわらず労働協約の更新を拒否したことは否認するが、その余は認める。ただし、経過の詳細は後記被告の主張二の2記載のとおりである。

2 (2)のうち、被告会社が昭和四八年四月二日原告に対し東京事務所及び同事務所付設の電話について便宜供与打切り通告を行つたこと及び被告会社が同日長船分会に対し組合専従者のうち一名は四月一日から職場復帰させる旨通告したことは否認するが、その余は認める。

五  請求原因二の1の(四)について

原告が、別紙便宜供与一覧表「仮処分申請月日」欄記載のとおり裁判所に対し仮処分申請をし仮処分決定を得たこと、東京都地方労働委員会昭和四八年八月二一日付け不当労働行為救済命令及び中央労働委員会昭和四九年一一月二〇日付け不当労働行為救済命令が存在すること並びに原告が本件便宜供与を回復したことは認めるが、その余は争う。

六  請求原因二の1の(五)は争う。

七  請求原因二の2の(一)について

1 (1)ないし(4)は認める。

2 (5)のうち、被告会社が昭和四八年五月一八日に同月の賃金増額分を原告の組合員に対して支払わなかつたことは認めるが、その余は否認する。

3 (6)は認める。

4 (7)のうち、改訂案中ことさらに就業規則所定の労働日、労働時間としているのは賃金増額分の支払と同様に原告が「時間短縮」問題との関連でこれを保留した場合には、たとえ他のすべてについて妥結を表明しても、それだけでは妥結にならないとして一時金を支払わないことを暗に匂わすものであつたことは否認するが、その余は認める。

5 (8)は認める。

6 (9)のうち、回答に対し原告が不満を表明し検討を求めたことは認めるが、その余は否認する。

7 (10)のうち、被告会社が同年九月二九日の午前中の団体交渉において重工労組との交渉ですでに示した金額四五万円の修正回答を示さなかつたことは認めるが、その余は否認する。

8 (11)は認める。

9 (12)のうち、回答に対し原告は金額、配分については了承し勤怠系数の改訂についても了承するが就業規則所定の労働日及び労働時間という部分は保留したいとの態度を表明したこと及び交渉はもの別れに終つたことは認めるが、その余は否認する。

10 (13)は否認する。

八  請求原因二の2の(二)は認める。

九  請求原因二の2の(三)は争う。

一〇  請求原因三のうち、各費用の内訳は知らない。その余は否認する。

一一  請求原因四は争う。

(被告の主張)

一  当事者

1 被告会社の概要

被告会社は、本社を東京都千代田区に置き、昭和四八年四月当時、長崎造船所、神戸造船所、下関造船所、横浜造船所、広島造船所、高砂製作所、相模原製作所、名古屋機器製作所、三原製作所、京都精機製作所、広島精機製作所、明石製作所、名古屋航空機製作所の一三の事業所を有し、八万七七一名(ただし、休職派遣者を含む在籍人員。これを除いた実在人員は七万七四六二名)の社員を擁していた、船舶、原動機、工作機械、航空機、各種産業機械等の製造、修理を業とする株式会社である。

2 被告会社における労働組合組織の状況

(一) 昭和四八年四月当時、被告会社の社員が組織する労働組合には次の四つがあつた。

(1) 全日本労働総同盟全国造船重機械労働組合連合会三菱重工労働組合(重工労組、当時の組合員数は約七万五千名。)

(2) 原告である全日本造船機械労働組合三菱重工支部(当時の組合員数は約五六〇名。なお、同組合は昭和四九年三月、日本労働組合総評議会に加入し、日本労働組合総評議会全日本造船機械労働組合三菱重工支部となつた。)

(3) 三菱重工長崎造船労働組合(当時の組合員数は三〇余名。以下「長船労組」という。)

(4) 全日本造船機械労働組合横浜造船分会(当時の組合員数は四〇余名。なお、同分会は、昭和四八年七月、原告に加入し、その一分会となつた。以下「横船分会」という。)

(二) 原告は被告会社の分裂攻撃により重工労組が発生したと主張するが、そのような事実はない。以下、その経緯を述べる。

被告会社は、昭和三九年六月一日、新三菱重工業株式会社が三菱日本重工株式会社及び三菱造船株式会社を吸収することにより、右三社が合併し、三菱重工業株式会社と社名を変更して発足したものである。

合併直前においては新三菱重工業株式会社には日本労働組合総同盟新三菱重工業労働組合(以下「新三菱重工労組」という。)、三菱日本重工業株式会社には三菱日本重工労働組合連合(以下「菱日重労連」という。)、三菱造船株式会社には全日本造船労働組合三菱造船支部(原告のことである。その後名称を変更した)が存在したが、三社合併に伴い、右三労働組合の本社部門がそれぞれの労働組合から分離独立して三菱重工業本社労働組合(以下「本社労組」という。)を結成し、被告会社内には四労働組合が存在することとなつた。

四労働組合の間で組織統一の準備が進められ、昭和四〇年に至り、原告を除いた三労働組合は、それぞれの大会で企業合併に伴う労働組合組織の統一を決定した。しかし、原告は同年九月から一〇月に開催された第三二回定期大会において組織統一の執行部案を否決した。そこで、他の三労働組合は、やむをえず原告を除いた三労働組合による組織統一の具体的準備に取りかかつた。

一方、原告の組合員の間には自分達だけが取り残されるという危惧の念が次第に高まり、昭和四〇年一一月には原告さん下の広島造船職員分会が、原告が組織統一に加わらないこと等を不満として、原告から一括脱退することを分会定期大会で決定し、次いで同年一二月七日には長船分会が分裂し、同月八日一括組織を離脱した広島造船職員分会とともに同月九日に三菱重工労働組合西日本連合会(以下「西連」という。)を結成した。その後、福工分会、下船分会の順で組織分裂が相次ぎ、昭和四一年一月一〇日には広機分会が一括組織を離脱し、最後に広船分会が組織分裂し、いずれも西連のさん下に入つた。

西連結成後、原告から西連さん下の各組合に加入する組合員が相次ぎ、二万余人の組合員を擁していた原告の組合員数は二、三か月の間に一〇〇〇余名に減少した。

同年一一月、本社労組、菱日重労連、新三菱重工労組及び西連の四労働組合は、三菱重工労働組合連合会(以下「連合会」という。)を結成し、これが昭和四三年一二月には前記(1)の重工労組として単一化されて今日に至つている。

一方、菱日重労連が昭和四一年一一月に連合会に加入するに先立ち、菱日重労連さん下の全造船横船分会は、同年九月全造船を脱退したが、これに反対する少数組合員が、そのころ結成したのが、前記(4)の全造船横船分会である。

また、昭和四五年九月に原告の長船分会から一部組合員が脱退して結成したのが前記(3)の長船労組である。

二  不法行為成立要件の欠如

1 団結権侵害と不法行為

憲法二八条は、労働者及び労働組合の団結権を保障しているが、この規定は、国に対して労働者が団結しまた労働組合が団結を維持することを積極的に保護し、保障する責務を課し、この責務に対応する権利として団結権を保障しているので、この団結権は、公法上の権利である。また、労働組合法は、憲法二八条を承けて、使用者の一定の行為を不当労働行為として禁止し、使用者に対し義務を課しているが、これは国が労働者に対し団結権を保障する責務において使用者に対して公法上の義務を課しているのであつて、これをもつて使用者が労働者に対して具体的な私法上の義務を負担するということはできない。以上のとおり団結権は、労働者あるいは労働組合が使用者に対して具体的な私法上の権利として主張しうるものではない。

不法行為制度は私法秩序における私法上の権利を保護法益とし、この私法上の権利に対する侵害を権利侵害ないし違法性として捉え、私法秩序を維持しようとするものであるから、右のとおり私法上の権利とはいえない団結権を侵害したからといつて不法行為が成立するわけではない。

2 不当労働行為と不法行為

我が国における不当労働行為制度は、労働基本権の保障を徹底せしめるため、使用者によるその侵害行為を簡易かつ迅速に是正する制度であつて、その救済機関は行政機関たる労働委員会であり、審理も民事訴訟手続とは異なつた独自の手続によつて簡易かつ迅速に進めることができる。また、その救済方法についても、民法の不法行為が損害賠償を原則としているのに対し、将来に向つて労使関係の回復を図ることを目的として原状回復主義を採用し、成立要件もそれに沿つた形で構成されている。このように不当労働行為は、不法行為とは、その目的、救済方法、救済機関、成立要件等を全く異にするものであり、不当労働行為が成立すれば直ちに不法行為が成立するということはできない。当該事案につき不法行為が成立するか否かについては、具体的にその事案に即して不法行為の成立要件を満たすかどうかが論じられなければならない。

3 権利ないし法益侵害の事実の不存在

以下のとおり、被告会社が原告の権利ないし法益を侵害した事実はなく、不法行為は成立しない。

三  本件便宜供与の打切りについて

1 本件便宜供与の法律関係

(一) 本件便宜供与の成立経緯

被告会社においては、昭和二一年の長崎造船所における労働組合の結成をはじめとして各事業所に労働組合が結成された。当時は終戦直後の混迷期であり、便宜供与に関する法的性格づけも不明確な時代であつたが、被告会社では、労働組合からの要求、労使の交渉、被告会社の承諾という経過を経て、労使の合意により組合事務所貸与等の便宜供与が行われていた。

昭和二五年一月、被告会社は、東日本重工業、中日本重工業、西日本重工業の三社に分割された。昭和二六年二月六日、西日本重工業において、労働組合が一本化され、原告の前身である西日本重工労働組合が結成された。同組合は、会社との間で労働協約締結のための多数の交渉を行い、その結果、昭和二七年四月一日付けで労働協約が締結された。この労働協約は、便宜供与について次のとおり規定していた。

「第一六条 組合は、会社の了解を得て、会社の諸施設その他を利用することができる。但し、使用料については会社と組合とで協議する。

第一七条 組合は、組合費、組合加入費の徴収、専従者給与計算事務、専従者保険関係事務を会社に委託することができる。但し代行手数料については会社と組合で協議する。」

その後、被告会社の各事業所と原告の各分会との間で、協議、交渉を経て労働協約付帯事業所協定が締結され、これによつて労働協約に定めのない、便宜供与に関する細部事項が取り決められた。以後、労働協約及び同付帯事業所協定を根拠として本件便宜供与(東京事務所及び同事務所付設の電話を除く、以下被告の主張については同じ。)が行われてきた。なお、東京事務所及び同事業所付設の電話は、原告主張のとおり、民法上の賃貸借契約に基づく貸与であつた。

(二) 労働協約及び同付帯事業所協定等について

(1) 労働協約について

昭和四八年二月末日をもつて終了した労働協約には、便宜供与について次のとおり定められていた。

「第七条 (組合活動の時間および給与)

(1) 組合員の組合活動は所定労働時間外に行なうものとするが、次の各号の一に該当する場合はこの限りでない。

1 中央経営協議会に出席するとき

2 事業所経営協議会に出席するとき

3 団体交渉に出席するとき

4 あらかじめ会社の了解を得たとき

(2) 前項の場合は賃金を支給しない。ただし、第1号及び第2号の場合は所定労働時間内に限り賃金を支給する。

第八条 (組合活動参加と離席の手続)

(1) 組合は前条第一項第四号により、会社の了解を得る場合は、そのつど事前に会合の種類、日時、参加者等を記載した文書を会社に提出しなければならない。

(2) 組合員が前条による組合活動のため会社業務を離れる場合は、あらかじめ別に定める様式により、所属上長を通じて会社に届出るものとする。

第九条 (報道告知)

会社は組合が報道、告知及び教育宣伝のため会社内所定の場所に掲示することを合意する。

第一〇条 (施設の利用)

組合は会社の了解を得て、会社の諸施設その他を利用することができる。ただし、使用料については会社と組合とで協議する。

第一一条 (組合業務の代行)

組合は組合費及び組合加入費の徴収、専従者の給与計算事務並びに専従者保険関係事務を会社に委託することができる。ただし、代行手数料については会社と組合とで協議する。

第一三条 (組合業務専従者)

組合は組合業務に専従させるため会社の了解を得て、組合員中より組合業務専従者を置くことができる。

第一四条 (組合業務専従者の取扱)

組合業務専従者については会社は次のとおり取り扱う。以下略

第一五条 (上部労働団体の業務執行)

(1) 組合は会社の了解を得て、組合員中より上部労働団体の専従者を置くことができる。

(2) 前項の場合の取扱は前条に準ずる。」

右のとおり、本件便宜供与のうち、組合事務所、電話及び構内郵便は一〇条で、掲示板は九条で、チエツクオフは一一条で、組合専従は一三条ないし一五条で、労働時間中の組合活動は七条及び八条でそれぞれ定められていた。

(2) 労働協約付帯事業所協定等について

便宜供与に関する細部事項は次のとおり労働協約付帯事業所協定等によつて定められていた。

(i) 長船分会

被告会社長崎造船所と原告長船分会との間で昭和四三年一〇月一日付けで締結された労働協約付帯事業所協定には、便宜供与について次のとおり定められていた。

「第二条 (組合活動)

分会が分会の組合員(以下組合員という)を所定労働時間中に組合業務に従事させるため事業所の了解を求めるに当つては、原則として二四時間前までに文書をもつて組合業務の種類、日時、場所、参加者氏名および所要時間につき勤労部経由事業所の了解を求めるものとする。

第三条 (離席手続)

組合員が前条の組合業務のため会社業務を離れる場合は、所定の離席票を所属上長に届出るものとする。

2 前項の場合離席票には組合業務の種類、行先、離席期間(時間)を明記するものとする。

第四条 (分会掲示板)

事業所は分会が報道、告知および教育宣伝のため別紙2の掲示板を使用することを認める。

第五条 (施設の利用)

分会は事業所の了解を得て、事業所の施設その他を利用することができる。

2 分会事務所の利用については別紙3の定めによる。

第六条 (組合業務の代行)

事業所は分会の委託により、組合費および組合加入費の徴収、専従者および書記の保険関係業務を代行する。ただし、一人一カ月一円五〇銭の代行手数料を徴収する。」

「別紙2

1 分会掲示板は次のとおりとする。

立神正門脇

船殻工作部F棟入口脇

八軒屋旧ペイント調合所外壁(自転車置場脇)

M棟上構工場入口脇

製缶工場ガスメーター室前

病院門入口脇

第二事務所入口脇

幸町工場正門通路

幸町北門入口脇

2 課工場の分会掲示板については別に定める。」

「別紙3

1 事務所はその所有にかかる次の土地建物を事務所として分会に貸与する。

事務所名

建物番号

所在地

本部

W二六

長崎市飽ノ浦町五番三号

水ノ浦地区

D一

第三事務所二階

飽ノ浦地区

A六四

飽ノ浦第一食堂二階

向島地区

M一九

船渠課詰所一部

立神地区

T一三

立神総合事務所一階

浦上地区

B二六

旧幸町配給所

2 使用料は一カ月九、〇〇〇円とし、毎月末日までに支払うものとする。

3 前項の使用料は第一項の土地建物ならびに器具備品の使用料のほか、電気料、水道料および電話使用料とする。分会の使用する市外電話料およびガス代は分会の負担とし、毎月支払うものとする。

4 貸与物件に対する公租公課は事業所の負担とし、分会の使用に必要な一般維持費は分会の負担とする。

5 貸与物件に対する天災その他不可抗力による損害は事業所の負担とし、火災、盗難等で分会の責に任ずべき原因による損害は分会の負担とする。

6 貸与物件が毀損し、またはこれを改造する必要が生じた場合は、分会は遅滞なく事業所に通知する。この場合の補修改造費等は分会の負担とする。

7 分会は貸与物件を分会事務所以外に使用し、あるいはその権利を転貸譲渡してはならない。

8 貸与期間は本協定の有効期間と同一とする。ただし、右の期間中といえども事業所が福祉施設その他の用途に使用する必要が生じた場合は、事業所は分会と協議するものとする。」

右の労働協約付帯事業所協定は、昭和四四年二月二八日をもつて期間満了となつたが、その後も労働協約は存続していたし、また便宜供与の内容について事業所と分会との間で争いがなかつたので、被告会社は従来通りの便宜供与を続けていた。

(ii) 下船分会

被告会社下関造船所と原告下船分会との間で昭和四〇年九月一日付けで締結された労働協約付帯事業所協定には、便宜供与について次のとおり定められていた。

「第一条 (組合活動)

協約第一二条第一項第四号(前掲第七条第一項第四号にあたる。)により分会が組合員を所定就業時間中に組合活動に従事させようとするときは、原則として二四時間前までに書面を以て事業所に申出て、事前に了解を受けるものとする。

第二条 (離席手続)

協約第一三条(前掲第八条にあたる。)に定める様式は組合執務票とする。

第三条 (掲示)

協約第一四条(前掲第九条にあたる。)に定める所定の場所は分会掲示板とし、その設置場所は次のとおりとする。

(1) 江の浦総合事務所西北側面

(2) 第二船渠西側

(3) 第三通用門打刻場横

(4) 第二工場打刻場横

(5) 大和町工場変電所前通路北側

(6) 舟艇工場事務所玄関西側

第四条 (施設の利用)

協約第一五条(前掲第一〇条にあたる。)に定める諸施設のうち、常時利用できるものは次のとおりとする。

(1) 常時利用できる諸施設

(ア) 組合事務室    一八坪

(イ) 会議室      一四坪

(ウ) 大和町組合事務所 一二坪

(2) 使用料は次のとおりとし、毎月末分会は事業所に支払うものとする。

(ア) 事務所および会議室 月額 一、〇〇〇円

(イ) 電燈料金      月額 五〇〇円

(ウ) 電話料金      月額 実費

(エ) 水道料金      月額 五〇円

第五条 (代行手数料)

協約第一六条(前掲第一一条にあたる。)に定める組合業務の代行には、分会の雇用する者の給与計算事務ならびに保険関係事務を含めるものとし、代行手数料は月額二、一〇〇円とする。

第六条 (組合業務専従者)

協約第一八条および二〇条(前掲第一三条及び第一五条にあたる。)に定める組合業務専従者は合計一〇名以内とする。」

右の労働協約付帯事業所協定は、昭和四一年一一月三〇日をもつて期間満了となつたが、その後も労働協約は存続していたし、また便宜供与の内容について事業所と分会との間で争いがなかつたので、被告会社は従来通りの便宜供与を続けていた。

(iii) 福工分会

被告会社福岡油圧機器部と原告福工分会との間で昭和三八年一一月一日付けで締結された労働協約付帯事業所協定には、便宜供与について次のとおり定められていた。

「第一条 (組合活動)

労働協約第一二条第一項第四号(前掲第七条第一項第四号にあたる。)により支部が組合員を所定時間中に組合活動に従事させるための場所(事業所の意)の了解を求めるに当つては原則として二四時間前までに別紙(1)の様式により文書を以て組合活動の種類、日時、場所、参加人員及び所要時間につき、総務課経由場所(事業所)の了解を求めるものとする。

第二条 (離席手続)

労働協約第一二条(前掲第七条にあたる。)による組合活動のため会社業務を離れる場合は、所属上長を通じて場所(事業所)に届出るものとする。

第三条 (組合掲示)

労働協約第一四条(前掲第九条にあたる。)により、分会が報道、告知および教育宣伝のため掲示するときは、場所(事業所)の定めた別紙(2)の掲示板を使用するものとする。

第四条 (施設の利用)

労働協約第一五条(前掲第一〇条にあたる。)により、会社施設を組合事務所として使用する場合の使用料は月額三〇〇円とし、細部に関しては別紙(3)組合事務所賃貸借契約による。

第五条 (代行手数料)

(1) 労働協約第一六条(前掲第一一条にあたる。)により、場所(事業所)は毎月分会組合員の賃金より分会に代り、分会組合員の組合費を徴収してこれを分会に渡す。

(2) 分会は前項の代行手数料として毎月二〇〇円を場所(事務所)に支払うものとする。」

「別紙(2)

掲示板

一  正門左側掲示板 九一cm×一二七cm

二  食堂内組合事務所出入口右側壁 一〇〇cm×二六〇cm

三  更衣所内入口衝立掲示板 九一cm×一七〇cm」

「別紙(3)

賃貸借契約書

三菱造船株式会社福岡機械製作所(以下甲と称す)と全日本造船労働組合三菱造船支部福岡機械分会(以下乙と称す)とは、次の賃貸借契約を締結する。

第一条 甲はその所有に係る次の建物(以下賃貸借物件と称す)を乙に賃貸し、乙はこれを組合事務所として使用する。

事務所名

建物番号

所在地

構造

建坪

組合事務所

D1

食堂西南側

パイプ構造

8.5坪

第二条 賃貸料は一ケ月三〇〇円とし、乙は甲の請求により支払うものとする。

第三条 前条の賃貸料は第一条の建物並びに器具備品の使用料の外、電気料、水道料及び局線でない構内電話使用料とする。

乙の使用する局線二日市局三〇八一番の通話料及び暖房料は乙の負担とし、乙は毎月甲の請求により支払うものとする。

第四条 賃貸借物件に対する公租公課は甲の負担とし、乙の使用に必要な一般維持費は乙の負担とする。

第五条 賃貸借物件に対する天災その他不可抗力による損害は甲の負担とし、火災、盗難等で乙の責に任ずべき原因による損害は乙の負担とする。

第六条 賃貸借物件が毀損し、又はこれを改造する必要が生じた場合は、乙は遅滞なく甲に通知する。

前項の場合の補修改造費等は乙の負担とする。

第七条 乙は賃貸借物件を組合事務所以外に使用し、或いはその権利を転貸譲渡してはならない。

第八条 賃貸借期間は労働協約の有効期間と同一とする。但し、右の期間中と雖も甲が福祉施設その他甲の用途に使用する必要が生じた場合は、乙と協議するものとする。以下略」

被告会社は、原告福工分会に対し、昭和四一年五月一六日、業務上の必要等を理由に右組合事務所及び事務所付設の電話の明渡しを求め、別個の建物を提供する旨申し入れた。ところが、原告福工分会はこれを拒否したので、被告会社は、昭和四三年、明渡請求訴訟を提起し、昭和四四年一一月二五日、裁判上の和解が成立した。その内容は、原告福工分会は右組合事務所及び電話を被告会社に明け渡し、被告会社は別紙「分会事務所及付属設備使用貸借契約書」のとおり別個の組合事務所及び事務所付設の電話を原告に貸与するというものであつた。この貸与の契約は、一年後の昭和四五年一一月三〇日をもつて期間満了となつたが、その後も労働協約は存続していたし、また便宜供与の内容について事業所と分会との間で争いがなかつたので、被告会社は従来通りの便宜供与を続けていた。

(iv) 広船分会

被告会社広島造船所と原告広船分会との間で昭和三九年九月一日付けで締結された労働協約付帯事業所協定には、便宜供与について次のとおり定められていた。

「第一条 (組合活動)

(1) 協約第一二条第一項第四号(前掲第七条第一項第四号にあたる。)により分会が事業所の了解を求めるときは、

原則として開催の前日までに所要事項を記載した書面により行なうものとする。

(2) 略

第二条 (離席手続)

協約第一三条(前掲第八条にあたる。)にいう離席手続には所定の休業票を使用するものとする。

第三条 (掲示)

協約第一四条(前掲第九条にあたる。)にいう所定の場所とは次の各号をいう。

1 観音及び江波工場正門掲示板

2 観音渡船場掲示板

3 各課工場内一カ所(分散している課工場にあつては事務所乃至作業場単位)

4 観音及び江波食堂前掲示板

第四条 (施設の利用)

協約第一五条(前掲第一〇条にあたる。)にいう分会が利用できる施設その他は次の通りとする。

1 事務室及び会議室

(ア) 広船分会

観音工場旧本館北端棟階上東側六九坪及び江波工場木工場西北側一六坪

(イ) 広船職員分会 以下略

2 分会が予め事業所の了解を得た施設その他

第六条 (代行手数料)

協約第一六条(前掲第一一条にあたる)にいう代行手数料は次のとおりとする。

広船分会 月額三、五〇〇円

広船職員分会 以下略」

右の労働協約付帯事業所協定は、昭和四〇年八月三一日をもつて期間満了となつたが、その後も労働協約は存続していたし、また便宜供与の内容について事業所と分会との間で争いがなかつたので、被告会社は従来通りの便宜供与を続けていた。

(v) 広機分会

旧広機分会(現在の広機分会とは異なる。)は原告の一分会であつたが、昭和四一年一月、原告から一括組織を脱退し、名称を三菱重工広島精機労働組合(以下「広機労組」という。)と変更して西連に加入した。その結果、被告会社広島精機製作所には原告の組合員は一名も存在しないことになつた。昭和四一年一一月、西連は会社内の他の三労働組合(本社労組、菱日重労連、新三菱重工労組)とともに連合会を結成し、広機労組もそのさん下の単位組合となることとなり、広機労組に対する便宜供与は被告会社と連合会との労働協約に基づいて労働協約付帯事業所協定を締結して行われるようになつた。そして昭和四三年一二月に至り、連合会は連合会組織から単一組織の重工労組に移行することとなつたが、広機労組においてこの単一組織への移行をめぐつて内部対立が起こり、これが組織分裂にまで発展した結果、約一二〇〇名が広機労組を脱退して重工労組に加入し、残り約一〇〇名となつた広機労組も結局、翌昭和四四年四月解散して約七〇名が重工労組へ加入し、約三〇名が原告へ加入して新たに現在の広機分会を構成した。

そこで、被告会社広島精機製作所と原告広機分会との間で、労働協約付帯事業所協定締結のための交渉を開始したが、合意に達せず、労働協約付帯事業所協定締結には至らなかつた。しかし、被告会社としては、原告との間に労働協約が存するので、交渉の結果具体的内容につき争いのないものについては、便宜供与を実施していた。

(三) 本件便宜供与の法律的性質

被告会社の原告に対する本件便宜供与は、右(一)、(二)記載のとおり、労働協約を唯一の根拠とし、労働協約付帯事業所協定の補完を受けて実施されてきた。また、便宜供与の改廃は一貫して労働協約又は労働協約付帯事業所協定の改廃によつてのみ行われてきたし、労働協約が締結されていない他の労働組合(長船労組及び全造船横船分会)に対しては、地方労働委員会での和解に基づき創設的に供与されることとなつたもののほかは何らの便宜供与も行われていないのであり、これらのことからしても本件便宜供与が労働協約を唯一の根拠としていることは明らかである。原告は、本件便宜供与は、労使慣行上の権利等複数の法律関係の併存によつて成立していた旨主張するが、この主張は以下のとおり失当である。

(1) 労使慣行上の権利であるとの主張について

昭和二七年四月一日付け労働協約締結以前に行われていた便宜供与は、前記(一)記載のとおり労使間の合意に基づくものであり、「慣行」に基づくものではない。そもそも、これらの便宜供与は、いずれも被告会社が労働組合に対して物件を貸与するとか、サービスを供与するといつた内容であり、被告会社の積極的な事実行為を必要とするから、自然発生的に事実として存在するようになつてしまう事柄ではなく、「慣行」が成立する余地はない。

昭和二七年四月一日付けの労働協約は、前記(一)記載のとおり、労使間で多数の交渉を行つて締結したものであり、また、労働組合が一本化した後の最初の労使の取り決めであつたのであるから、形式的なものではなく、便宜供与について新たに権利義務を創設したものである。したがつて、それまで個々の労働組合において労使間に取り決められていた便宜供与に関する合意は、新法は旧法を改廃するという論理により、その効力を失つたということができる。

仮に、労働協約締結以前に「労使慣行上の権利」が存在していたとしても、それは昭和二七年四月一日付けの労働協約締結によつて労働協約上の期間の定めある権利に改変されているのであり、労働協約締結以降も存在することを認める余地はない。

(2) 労働協約上の権利として労働協約の期間の終了によつては終了しないものとして存続していたとの主張について

(i) 期間の定めのない労働協約上の権利に転移したとの主張について

一般的に有期の契約が反覆更新されると無期の契約に転移するという法理が存在しているわけではない。もしそのような法理が存在するとすれば、契約両当事者の自由な意思に基づいて契約の期間を定めたにもかかわらず、契約の反覆更新によつて、期間がなかつたという当事者の効果意思と異なる法律効果を生ぜしめることになり、契約法の基本原則が否定されることになる。

(ii) 単に期間が満了したという理由だけでは被告会社において便宜供与の打切りを行わず、また原告もこれを期待、信頼し、このような相互関係が存続維持されてきたとの主張について

単に労働協約が反覆継続されてきたというだけで原告主張のような権利義務の関係が生じることはない。

労働協約は一方的に組合側の権利、会社側の義務を定めたものではなく、労使双方が権利を得、かつ義務を負うという双務的関係を定めたものであるから、労働協約失効の後も組合側の権利、会社側の義務のみが残るとするのは著しく均衡を欠く。原告は、労働協約が期間満了により失効となつた以降は、従前労働協約によつて義務づけられていた争議行為の事前予告を本社に対しては全く行つておらず、事業所に対しても労働協約で定められた方法では行つていない。

しかるに、本件便宜供与のように自らの都合のよい部分についてのみ存続を主張することは許されない。

原告は、労働協約が失効すればそれに基づく双方の権利義務はすべて消滅し、便宜供与のみが存続することはないと考えていたことは、次の諸点から明らかである。

(ア) 昭和四七年一一月原告発行の「時短斗争の問題点と斗い方について」という文書において、原告は無協約の結果として便宜供与が撤廃になることを予想し、あらかじめその対策を検討している。

(イ) 原告は、チエツクオフについては、その委任契約が終了したとの立場に立つて、予告期間に相当する三か月間を限つてチエツクオフを行うことを求める仮処分申請を行つている。

(ウ) 昭和四八年四月以降原告はチエツクオフの控除簿の提出をしていない。

(3) 賃貸借契約等の権利であるとの主張について

原告福工分会の組合事務所及び電話についての賃貸借契約は、前記(二)の(2)の(iii)記載のとおり、労働協約付帯事業所協定に基づくものであつた。前記(二)の(2)の(iii)記載のとおり、右事務所及び電話について昭和四一年ころから労使間で紛争が生じたが、これは、便宜供与を受ける権利があるか否かが争いとなつたものではなく、労働協約に基づく便宜供与を受ける権利があることを前提として、その物件、場所などの特定をめぐつて争われたものであつた。その争いは、前記(二)の(2)の(iii)記載のとおり、裁判上の和解によつて解決したが、これは、福工分会に新たに事務所及び電話の使用権を得させるものではなく、労働協約に基づく便宜供与を受ける権利があることを前提として、単に事務所の設置場所を定めたにすぎない。このことは、有効期間が、労働協約の有効期間に合わせて昭和四四年一二月から一か年とする旨定められていることからも明らかである。以上のとおり、原告福工分会は、組合事務所及び電話を労働協約とは別個独立の権利に基づいて使用していたのではなく、労働協約上の権利に基づいて使用していたのであつた。

なお、東京事務所及び同事務所付設の電話は、前記(一)記載のとおり、民法上の賃貸借契約に基づく貸与であつたので、労働協約が失効した際にもこれを理由とする明渡しは求めておらず、本件とは無関係である。

2 労働協約の失効

被告会社と原告との間の労働協約は、昭和四八年二月末日をもつて期間満了となり、一か月間効力を延長したが、最終的には同年四月一日以降失効した。労働協約が失効するに至つた原因は、一つには、原告の広機分会において頻発した暴行傷害行為を含む労働協約違反事件に対して、被告会社としてはなんとかこれを円滑に解決すべく原告の組織統制責任を問い、労働協約の遵守を強く要請して二年近くにわたり粘り強く話し合いによる解決の努力を重ねたにもかかわらず、原告が労働協約遵守について誠意ある態度を示さず、徒らに事態を悪化させ労働協約の存続を不可能ならしめたことにあり、いま一つには、労働協約の極めて重要な要素である労働時間及び休日に関する制度の改正につき、原告との間では遂に合意を得るに至らず労働協約を締結しようにも締結できなくなつたことにある。以下、この二つの原因について詳しく述べる。

(一) 広機分会問題

(1) 労働協約違反事件の頻発

広島精機製作所(以下「広機」という)と広機分会との間において、昭和四四年から昭和四六年の間に、次のような事件が発生した。

(i) 違法な政治ストライキの強行

当時の労働協約には、

「第一条 組合員の労働条件及び労使関係の設定に関する協議、交渉は、すべて会社と組合及び組合が委任した者とのみ行う。ただし、次に掲げる事項についての協議、交渉等は、事業所と分会とで行うことができる。

1 本協約で事業所と分会との協議、交渉等に委ねられた事項

2 本協約に定めのない事項で会社、組合が適当と認めた事項

3 事業所のみに適用される事項」

という「交渉の原則」が定められていたが、昭和四五年六月、広機分会は、なんら原告の指令、指示又は委任に基づくことなく、突如として「安保反対・三菱侵略兵器生産抗議スト権」なる違法なスト権を確立し、広機に通告してきた。

これに対し、広機は、同月二二日、広機分会と団体交渉を開催し、安保反対ストについては、「政治ストについては会社として解決の道を持たない。労組法にもあるように政治ストは法の保護を受けない。万一、分会がストを行うことになれば、ストによる損害賠償の請求と責任の追及を行う権利を留保する。」との警告をし、三菱侵略兵器生産抗議については、「広機では兵器生産はしていない。仮に兵器産業を前提としても三菱重工全体の問題であり、労働協約の協議、交渉事項に照らしても広機が団交に応ぜられる内容ではない。分会も支部(原告)に問合せてはどうか。分会も三菱支部のさん下にあるのだから会社と三菱支部が締結した労働協約は遵守してもらいたい。」と申し入れ、更に翌二三日にも重ねて同様の申入れを行つたにもかかわらず、広機分会はこれに耳をかさず、同日午後一時五五分より所定労働時間内に二時間にわたるストライキを強行した。

これに対し、広機は、文書をもつて厳重に抗議するとともに、ストライキを指導した広機分会執行委員長及び書記長を昭和四五年九月、出勤停止処分に付したところ、同人らは懲戒処分無効確認訴訟を提起したが、広島地方裁判所は昭和五四年一月二四日懲戒処分が有効であることを認め、会社勝訴の判決を下した。

(ii) スト権濫用による職場離脱

当時の労働協約第七条第一項には、前記二の2の(1)記載のとおり、「組合活動労働時間外の原則」が定められており、同条同項第四号については、所定労働時間中に行わざるを得ない特段の必要性がある場合に限り、業務上の支障の有無を勘案のうえ、組合活動に従事することを許容するという運用が行われてきており、街頭デモ・政治活動への参加等の場合にはこれを許容しないのが慣行となつていた。

広機分会は、昭和四四年一二月二三日に「不当解雇撤回のための斗争体制」を、昭和四五年九月一八日に「分会二役の不当処分に伴う組織防衛のための斗争体制」をそれぞれ確立したと称し、これらのスト権に基づいて極めて頻繁に重点指名ストを実施した。「不当解雇撤回のための斗争」の解雇とは昭和四四年一〇月二一日の国際反戦デーにおいて逮捕、勾留され無断欠勤した二名の分会員の解雇を指し、「分会二役の不当処分に伴う組織防衛のための斗争」の分会二役の処分とは昭和四五年六月二三日の前記(i)記載の政治ストに関し、同年九月、広機分会執行委員長及び書記長を出勤停止処分に付したことを指す。

これら両事件は、それぞれ該当者からの提訴により既に広島地方裁判所で審理が行われており、その後広機と広機分会の間では両事件について交渉が行われることはなかつたことからしても、またスト対象者が特定の者に限られていることや、その頻度やその間の対象者の行動からしても、右のストライキは労使間の紛争を解決するための手段として行われる争議行為ではなく、明らかに政治活動等の目的のための離席の手段であり、労働協約の組合活動時間外の原則の制約を免れることを意図した行為であつた。

かかる正当な争議権の範囲を逸脱したストライキに対して、広機は昭和四六年四月二二日、文書をもつて「かかる行為が今後も引き続き行われるとすれば、労働協約の存在自体を無意味にし、会社として誠に不本意ながら協約の存続いかんについて検討せざるを得なくなる。」と広機分会に対して厳重に抗議して反省を促すとともに、原告に対しても同文の写を送付した。

しかるに、その後も、広機分会の態度にはなんらの変化はなく、昭和四六年五月末までの間に広機分会(二〇余名)が行つた両スト権に基づくストライキは、発令回数一四五回、対象延人員二三七名、スト延時間一一六九時間を数えるに至つた。

(iii) 集会禁止場所での集会、構内ビラ配布等の強行とこれに伴う暴力行為

当時の労働協約には、

「第二七条 組合員が次の各号の一に該当する場合はけん責に処する。……

5 事業所の許可なく事業所内又は施設(社宅及び寮の私室を除く)で集会、演説、放送、各種印刷物の掲示・貼付・配布、署名運動、募金その他これに類する行為をしたとき………」

と定められていた。被告会社においては職場秩序維持の必要から、生産の場である事業所内、施設内においては、政治・宗教活動はもちろんのこと、職場の安寧を損うおそれのある前記行為は原則としてこれを禁ずることとしており、現に過去においてこの種の行為を被告会社が事業所内、施設内で行うことを許可したことは一度もない。

構内における組合活動もこの原則の例外ではなかつたが、組合活動については組合活動の実質的な保障と職場秩序との調和する合理的範囲において、労使間の慣行として一部例外的な取扱いが行われており、これをめぐつて広機において次のような事件が発生した。

(ア) 無許可集会・演説・放送の強行とこれに伴う暴力行為

被告会社と原告との労働協約では、その第一〇条に「組合は、会社の了解を得て、会社の諸施設その他を利用することができる。……」と、会社施設利用に際しては会社の了解を要する旨を規定し、また各事業所においては、危険防止、職場秩序維持の必要から労使間で集会禁止場所等が慣行として定められ、各分会もこれを遵守してきた。

広機は、極めて精密な工作機械を製作する事業所で、その作業の性格上作業者は作業中に高度の集中力を要求されるため、昼休みには完全に休養できる場所を確保する必要性が特に強かつた。そこで、広機においては、構内食堂及びその周辺の広場、芝生、植込みを休養の場所に当て、これらの場所における集会・演説・放送その他けんそうにわたるおそれのある行為を禁止することにより、社員に十分な休養を与えるよう配慮してきた。特に被告会社長崎造船所において複数組合が併存するようになつて以来、両組合間で拡声器の音量をあげての放送合戦、集会場所の奪い合いといつたトラブルが発生しており、そうした先例に鑑みても、やはり複数組合の併存する広機においては、食堂及びその周辺における組合集会等を禁ずる強い必要性があつた。

しかるところ、広機分会は、昭和四四年四月二五日、広機の了解を得ることなく、昼休みに食堂内で春闘総決起集会を開催し、勤労課員の解散命令を無視してこれを強行した。

広機は、直ちに広機分会幹部に抗議したが、広機分会は、開催場所については分会の自由だとの態度をとつたため、広機は更に同年五月七日付け書面をもつて広機分会に厳重抗議し、反省を求めた。

同年六月に、広機分会から広機に対して、六月二八日昼休みに食堂前広場で総決起集会を開催したいとの書面による申入れがあつた。広機は同月二七日付け書面をもつて、食堂前広場での集会は許可できないが、組合事務所周辺の空地でなら差し支えない旨回答するとともに、その理由についても十分説明したが、広機分会はこれを無視して六月二八日の集会を食堂前広場で強行した。

これに対し、広機は、前回同様直ちに広機分会幹部に抗議するとともに、広機分会に対しても同年七月一六日付け書面をもつて厳重に抗議し、広機分会の反省を促した。

しかるに、広機分会には一向に反省の色はなく、かえつて広機の事前了解を求めることもなく集会を強行するようになり、同年一一月からは集会後にデモ行進を行うようになつた。更に翌昭和四五年四月ころからは大きな立看板を設置し、拡声器を使つて休息中の社員に演説を行うようになつた。同年六月三〇日には、集会の中止を求めに行つた勤労課員に対し広機分会の幹部である者がのどを突き、あるいは突き倒す等の暴行を加え、負傷させるという事件も発生した。

このような無許可集会は、昭和四四年には五件であつたものが、翌昭和四五年には一九件、昭和四六年五月末までには合計三一件を数えるに至つた。

(イ) 不当なビラ掲示・貼付の強行とこれに伴う暴力行為

会社構内において、むやみにビラを掲示・貼付することは、美観を損ねることはもちろんのこと、生産能率面、災害防止面からも生産現場においては極めて不具合である。作業場の周辺に「オヤツ」というようなものがあり、それに気をとられたために作業ミスをおかしたり、けがをしたという事例は枚挙にいとまがない。生産会社においては、ハウスキーピングという担当者を特に決めて職場の整理整頓から環境整備まで非常に気を使つており、例えば工場見学者がある場合においては、時間・場所等を十分検討し、作業服に着がえてもらい案内員を置くなどできるだけ作業者の邪魔にならないよう配慮を行つている。

右の事情からすれば組合は、ビラの掲示・貼付をどこにしてもよいということはできない。被告会社では、原告との労働協約の第九条で「会社は、組合が報道、告知及び教育宣伝のため、会社内所定の場所に掲示することを認める。」と定め、具体的には事業所・分会の協議により、作業場周辺でない例えば通路等に掲示板を設け、それ以外の場所へのビラの掲示・貼付は一切禁止してきた。

当時、広機分会に対しては、組合分裂によつて二組合が併存するに至つたという経緯もあつて未だ掲示板を貸与しておらず、労使間で設置場所等について協議中であつたが、広機分会は、一方的に掲示物を現に使用中の他組合の掲示板や会社の掲示板に強行掲示し、広機の抗議を無視してこうした行為を繰り返していた。

また、昭和四五年四月二三日、広機分会は一二時五五分から一五時五五分まで重点指名ストライキを行つたが、この際、正規の作業服を着用していないスト対象者が、広機の退去命令にもかかわらず、他の一般社員が作業している職場内をほうこうし、スト対象者の機械に「スト決行中」と大書した半紙大のビラを貼付した。勤労課員がこれを撤去しようとしたところ、そのスト対象者は大声でわめき、押す、突くなどの腕力をもつて妨害し、約三〇分間にわたり周辺で作業をしている多数の社員の正常な業務の運営を妨げた。

更に、同月二八日一二時〇五分から翌二九日八時〇五分までの全員ストライキに際しては、広機分会組合員が、会社の禁止命令を無視して「スト決行中」なるビラを広機分会組合員使用の機械、器具、机上等に貼付し、これを制止しようとした勤労課員に対して広機分会執行委員長をはじめとする分会組合員数名が大声でわめきながら組み付き、実力をもつて妨害した。ある勤労課員は三名の分会員によつて組み付かれ、首を絞められ、鉄製部品の上に押し倒されて負傷した。また、はち巻、腕章をつけた多数の広機分会組合員が工場内をほうこうしたため、一時間以上にわたつて職場の秩序が乱された。

こうした広機分会による掲示板、機械、器具等への不当なビラ貼付事件は、昭和四四年四月から昭和四六年五月末日までの間に四四件発生するに至り、これに伴つて暴力行為も頻発した。

(ウ) 構内における不当なビラ配布の強行とこれに伴う暴力行為

会社の構内におけるビラ配布は、職場の秩序を乱し、また、ときによつては職場における従業員の集中力を散漫にさせ、更にビラの内容によつては職場内に対立感情を持ち込ませる等の弊害が少なくないため、被告会社においては、構内におけるビラ配布それ自体を禁止することとしており、労働組合にもこの原則を適用している。しかし、組合が自らの組合員に対して組合機関紙及び連絡文書を構内において休憩時間中に配布することはなんら禁止していないし、また組合が不特定多数の者にビラを配布しようと思えば入場時又は退場時に門前で配布することもできるのであるから、構内におけるビラ配布を禁止しても組合活動上大きな支障をきたすことはない。

こうした状況の中で、広機分会も従来は構内でビラ配布をすることはなかつたが、昭和四四年一〇月二一日に突如、休憩時間中に食堂前でビラ配布を開始した。そこで、広機は直ちに口頭で抗議したが、その後も数回にわたつて同様の行動を繰り返したので、広機は同年一一月一〇日付けの書面をもつて厳重抗議した。

その後もたびたび同様の事件があり、昭和四五年四月一六日に理由を付した抗議文を広機分会幹部に手交し、話し合つた際には「会社の見解は理解できた。分会としても検討する。」との回答を得たが、その後も構内におけるビラ配布は繰り返され、その回数は昭和四六年五月末日までに二四回に及んだ。

(2) 被告会社と原告との交渉

広機分会がひき起した右の一連の事件は、いずれも被告会社と原告とが締結していた労働協約に違背し、これを踏みにじるものであつた。

原告は単一組合であり、分会及び組合員に対して完全な統制権能を有しており、分会及び組合員の行動に関する責任はすべて原告に帰すべきものであつたから、広機分会のこうした一連の行為は、労働協約の誠実遵守義務違反の問題として、本来は被告会社と原告の間で処理さるべき問題であつた。

しかしながら、被告会社としては、原告の中で広機分会だけがこうした事件を起していることから、まずは広機と広機分会の間でなんとか円満な解決を図りたいと考えて、右のとおり、広機において時間をかけて話し合う努力を続けてきた。

ところが、こうした広機の努力にもかかわらず、広機分会の態度は右のとおり一向に改善されず、最初に事件が発生した昭和四四年四月から昭和四六年五月末日までの約二年間に違反件数は一〇〇件を超え、事態はかえつて悪化の一途をたどるばかりであつた。しかも、昭和四五年ころからは、違反行為の中止を求める勤労課員に対して執行委員をはじめとする広機分会組合員が、集団でば言を浴びせる、突き飛ばす、組み付く、シヤツを引つ張つてズタズタに引き裂く、飛蹴りをする等の暴行を働くことが再三に及び、負傷者も出る状況であつた。

このような状況になつたのでは、被告会社としてももはや広機と広機分会との間で問題の解決を図ることは断念せざるをえず、被告会社内で本社と広機が相談の結果、本来の原則に立ち戻つて、本件について被告会社と原告との話合いによつて解決を図ることとした。

(i) 被告会社と原告との間では、労働協約は有効期間一年をもつて締結され、有効期間満了に際しては当該労働協約の更新規定によつて一年間に限り更新され、更新期間満了に際しては新たに有効期間一年の協約が締結される。即ち、二年毎に新協約が締結されていたのが通例であつた。当時の労働協約は、昭和四四年六月一日付けで有効期間一年として締結され、同協約第八八条第三項に基づき、昭和四五年六月一日から一年間を限り更新されており、これが昭和四六年五月末日をもつて有効期間満了となることになつていた。

そこで、同年五月二四日に開催した被告会社と原告との交渉において、組合側から「六月一日から一か年間現行労働協約の内容をもつて新協約を締結のこととしたい。」との提案がなされた。これに対し、会社側は「会社としては一部の分会の最近の争議行為等の状況を見ると、すでに該当勤労課より抗議を行つているが、どうも協約及びその精神にもとつた行為が多いのではないかと考える。このような行為が今後も引き続き行われるとすれば、協約の存在が無意味になると考えるのでそういう点の約束がどうしても必要である。今の状況のままでは新協約の締結を見合せざるをえない。」と表明し、原告の広機分会に対する統制責任を追及して、広機分会に協約を遵守せしめることを確約するよう強く要請した。なお、この席には広機分会代表者も出席していた。

これに対して、原告は「組合としては考え方として労働協約の精神に沿つたやり方で来たし、今後もそのとおり進めるつもりである。ただ、現実的、具体的な問題としては、広機の事業所・分会間で問題が発生しているかも知れないが、もし会社側で分会に行きすぎがあると判断されたのであれば、それはそれとして指摘されれば、支部においてまた必要があれば分会において論議すべきと考える。組合としては協約の精神に違反する運営をする意思は毛頭ないことを表明する。」と述べ、広機分会の行動について事実上非を認めるような態度を示したが、広機分会に対し協約を遵守せしめる旨の確約は示されなかつたので、被告会社としては協約遵守の確約を更に求めて当日の交渉を終えた。

広機における現状を見るとき、被告会社としては、原告が広機分会に対する統制責任を全うして協約を遵守する姿勢を示さない限り、今後労働協約を締結しても無意味であると考えていたが、組合としても内部における検討・調整に相当の時間が必要であろうと考え、また当時の労働協約第八八条第二項の「前項の協議が有効期間満了までに成立しない場合は期間満了後三か月間を限り、本協約の効力を存続させる。」という規定をも考慮して、取りあえず三か月間の労働協約を締結し更に協議を続けることとした。そして労働協約の満了期限であつた同年五月三一日の交渉において、被告会社は「前回会社としては残念ながら今の状況では新協約の締結を見合せざるを得ないと考えていると申し上げたが、卒直にいつて協約の期限切れとなる本日においてもその気持に変わりはない。しかし、これまでの労使関係を考えると直ちに無協約にしたり一部の分会のみを適用除外にしたりすることは望ましくないと判断するので、取りあえず三か月間に限り延長(新協約締結の意)のこととしたい。」と原告に提案した。

原告は、同年六月二二日の交渉において、三か月の労働協約締結の会社提案をやむをえず了承する旨の態度表明を行い、労働協約は六月一日に遡つて三か月間の有効期間で締結された。

その間にも広機分会は、同月一六日に食堂前において「沖縄返還協定に抗議しよう」という政治ビラを不当に配布したり、同月一七日に食堂前で無許可集会を開く等の行動をとつていたが、被告会社としては原告の統制に期待して、広機から広機分会に対して口頭及び書面で抗議するにとどめた。

(ii) その後も広機分会の態度は一向に改善されず、就中、前記(1)の(ii)記載の「組織防衛スト権」なる違法なスト権に基づく重点指名ストは同月一日から同年八月末日までの間に延べ二四三時間という空前の規模にのぼつた。

しかしながら、被告会社は、原告との話合いが緒についたところでもあつたので、更に原告に検討の期間を与え、今後の話合いの中で円満な解決を図ることを念願して、同月一八日の交渉において「去る六月一日付けで締結した労働協約に関する協定は、八月末をもつて期間満了となるが、この協定締結の際にも申し上げた組合さん下の一部の分会の協約の趣旨に反する行動は遺憾ながらその後も改まつていない。労働協約を締結するということは、少なくとも協約の有効期間中は労使紛争の防止に努力しようということで、これが協約は労使のマグナカルタと言われる所以であるが、一部の分会では変わつた形のストライキを多発しており、これは協約締結の趣旨にもとるものと言わざるをえない。こうした状況について会社としても検討した結果、労使関係の紛糾は本意ではないので、取りあえず九月一日以降も前回と同様有効期間三か月の労働協約を締結することとしたい。しかしながら、今後ともこうした紛争が続く場合は、新たに締結する労働協約の有効期間満了となる一一月末の時点で、そのままの状態で協約を締結できるかどうか考慮せざるをえないと思われるので、あらかじめこうした会社の考え方を申し上げるとともに、組合として労働協約締結にふさわしい態度をとられるよう努力されることを要請する。」と原告に申し入れた。

これに対し、原告は「組合としては期間一年間の協約を締結したいと考えている。現在のところ、会社と組合、事業所と分会の関係で一部に発生している事件を含めて考えてみても、これまでの労使慣行に照らして協約の精神に沿つて行われていると判断している。」などと述べて当日の交渉を終わつた。

引き続いて同月二七日の交渉においては労働協約に関しておおむね次のような論議が行われた。

原告「前回、会社は提案理由として協約の精神に反する行為があることを挙げているが、現在締結している協約のどの辺に問題があるのか明確にされたい。」

被告会社「協約は、本社と支部の関係だけでなく、事業所と分会の関係も規定しているのであり、各分会とも協約の精神に則つた行動をとつてほしい。広機分会の問題としては、ストライキひとつをとつてみても、既に組合に広機から広機分会に対する抗議文の写を送付しているとおり、裁判所で係争中の案件についてスト指令を頻発し、その頻度やその間の該当者の行動を見るとき、単に離席の手段としてスト権を行使しているとしか考えられない状態であり大いに問題である。その他広機から広機分会に対して不具合な行為に対しては何回となく抗議あるいは要請を行つているが、これら不具合な行為も協約の精神に反するものである。」

原告「協約が、組合のみならず全分会、全組合員に適用される点は理解している。しかし、第三者機関に投げかけている問題についてはストライキはできないという見解には問題があり、我々は抗議のためのストライキはあつてもよいと考えている。」

被告会社「係争になつたらストは一切いけないといつているのではなく、広機分会の場合、スト権濫用と考えられるような状況にあることを問題にしているわけである。また、協約で制限されている構内の集会、ビラまき等に関しても同様に協約の規定を無視した不具合な行為であると考えている。」

原告「従来から会社は政治闘争は違法であるとか、一企業内で解決し得ない事項に関するストライキは違法であると主張しているが、その見解は必ずしも正しくない。最終的には最高裁で決着をつけなければ解決しえない問題であるが、我々は労働者全体の問題を対象に活動しており、抗議ストも合法と考えている。一企業で解決しえない問題については、一企業では処罰しえないとも言えるが、それを懲戒処分に付したのは会社の方であり、それに我々が抗議してもおかしくないと考えている。」

被告会社「政治ストが違法か否かという問題は協約とは無関係である。兵器生産の問題は広機では解決しえない問題であり、組合全体として本社に問題を提起するのであればともかく、広機分会から広機へ投げかけられてもいかんともし難い。また、一つの問題でスト権をとり、別の目的に行使することは協約の趣旨に反する。」

原告「会社構内で休憩時間にビラを配布したり演説したりするのは当然の権利であり、少しも問題はないと思う。また、我々としては分会組合員だけでなく、すべての労働者を対象に活動しているが、暴力をふるつたり、施設を毀損したりしなければ問題は生じない。これが協約なり規則なりに抵触するというのであれば、その協約なり規則なりに違法性がある。」

被告会社「会社としては組合活動として何が正しいか、間違つているかというような介入がましいことをここでいうつもりは毛頭ない。ただ、協約を結ぶ以上守つてもらう必要があり、それが守れないなら無協約にする以外にない。」

原告「我々は無協約にする考えは全然もつていない。事業所においては会社が挑戦的であることも紛争(暴力事件の意)が起りやすい原因と思う。」

被告会社「会社は挑戦的ではない。ただ、協約とか規制とかを逸脱する行為を放置するわけにはいかない。協約を締結する以上は組合の方でも統制に努力してほしい。」

原告「組合内部で解決すべきことは解決したい。統制の問題も十分認識している。協約締結についてはやむをえず会社提案どおりで了承する。」

以上のとおり、原告は、広機分会代表が中央執行委員として出席している交渉の席上において、はじめて内部統制問題に触れて善処を約束し、労働協約は、同年九月一日から三か月間の有効期間で締結された。

(iii) 前記の原告の態度からして、被告会社はその後の内部統制に大いに期待をしていたのであるが、広機分会の「組織防衛スト」は相変わらず多発され、昭和四六年九月一日から一一月末日までの間に延べ一二三時間に及んだ。また同年一〇月二一日には、広機勤労課員の制止を実力をもつて排除して、拡声器を使用して「佐藤政府打倒、沖縄返還粉砕、一〇・二一国際反戦デー広島集会参加」等の政治問題に関する演説を食堂前で行うとともに同趣旨のビラを配布し、食堂周辺を混乱に陥れた。

更に、同年一一月一三日には「沖縄返還協定批准阻止」のスト権を確立し、同日一〇時以降闘争体制に切りかえた旨の通告を広機に行い、広機が同月一六日付け書面をもつて中止を申し入れたにもかかわらず、これを無視して同月一九日一四時五五分から一時間の全員ストを決行した。もつともこのストライキは「不況合理化(低操業対策)反対」という名目になつており、不況による受注減に伴う残業減少等に反対し、過去一年間の平均残業に見合う時間外労働賃金の補てんなどといつた要求を満たすための闘争という形式はとつていた。しかし、この問題に関しては広機が既に同月一三日に団体交渉に応ずる用意がある旨を回答し、広機分会の都合を打診していたにもかかわらず、広機分会は団体交渉開催日時についてなんらの返答もなさぬまま突如としてストライキという手段に訴えてきたこと、その後右不況合理化問題について広機分会からなんの交渉要求もなかつたこと及び一一月一九日は沖縄デーであり、広機分会は食堂前における無許可集会で「沖縄返還協定阻止……」との横断幕を張り、同趣旨の演説を行つていること等からすれば、本件ストライキが「沖縄返還協定批准阻止」という政治目的のストライキであつたことは明らかである。

しかも、このストライキにおいては、赤旗、プラカードを押し立てて笛を吹き、シユプレヒコールを行いながら構内デモ行進を行つて業務遂行中の他の社員の正常な業務運営を妨げたほか、静粛に組合事務所へ引き揚げるよう命ずる勤労課員に対して肘あるいはげん骨で意識的に顔面、腹部を突く等の暴力行為を行つた。

こうした状況の中で、同年一一月末日をもつて有効期間満了となる労働協約の再締結交渉が同月一三日に行われた。この交渉において、原告からは同年一二月一日以降一か年間の労働協約締結の申入れがあり、被告会社との間におおむね次のような論議が取り交わされた。

被告会社「前回の協定締結に際して三菱支部全体として事態の改善を図られることを御要請した点については遺憾ながら依然として改まつていないと考えられる。したがつて、会社としては労働協約を存続していく基盤が欠如していると判断せざるをえないが、労使関係を紛糾させるのは本意でないので、再度三菱支部全体として事態の改善について努力することを条件として、一二月一日以降も前回同様三か月間の労働協約を締結することといたしたい。」

原告「依然として改まつていないとは具体的にどういうことか。」

被告会社「前回も指摘したが、広機分会は相変わらず違法なストライキを頻発している。労組法上の組合である以上団結権、団交権等を持つていることは申すまでもないが、協約の枠内で行わないのであれば、協約締結の基盤が欠如していると言わざるをえない。広機分会の争議行為の実態は協約締結の趣旨を大いに逸脱していると考える。」

原告「例えば、事業所で解決できない政治的問題につき分会がストライキを打つてもそれが協約の精神に反するかどうかは協約の解釈の問題である。中経協で協約の解釈につきもつと論議すべきと思う。我々としては協約に反したことをする考えはもつていない。もし、事実があるのであれば内部指導をしたいと考えている。三か月間締結し、その間様子をみるという会社の姿勢は問題である。」

被告会社「会社としても協約は三か月でよいと考えているわけではない。前回は取りあえず三か月結んでおいて、その間、組合としても内部統制、内部指導に努めるということになつたはずである。しかし、三か月経過しても広機分会の実態は全然改まつておらず、そのため今回も前回同様の会社提案にならざるをえなかつた点十分認識してほしい。」

同日はこうした論議が行われたが、協約の内容なり精神なりに関する特段の論議はなく、続く同月二六日の交渉において組合側から「三か月の締結には問題があり不満であるがやむをえず了承したい。」との態度表明があり、同年一二月一日から有効期間三か月とする労働協約が締結された。

(iv) 昭和四六年一二月一日からの三か月間、「組織防衛スト」は四六時間と減少したが、今度は昭和四四年一二月二三日に確立した「不当解雇撤回スト権」による違法な重点指名スト等が激増した。この解雇問題については広機分会からなんらの交渉要求もなく、したがつて広機と広機分会との間ではなんら交渉はなかつたにもかかわらず、全体としては一五七時間という前三か月間のスト時間数を上まわる状況であつた。

更に、広機分会は、昭和四六年一二月二三日午後三時三〇分ころ、昭和四四年の国際反戦デー首都圏暴動に参加して逮捕・勾留され懲戒解雇(広島地方裁判所に係争中)となつた淵上正之(広機分会執行委員)及び鈴木範雄二名をして、突如として広機所長執務室に乱入させ、これを制止し退去を命ずる総務部長以下の者に殴る、蹴るの暴行を加え、更にはその後約四〇分間にわたつて広機分会委員長以下七名(いずれも重点指名スト対象者)が本事務所玄関及び裏口を占拠し、トラツクを構内に乗り入れ、会社の退去命令を無視して、横断幕を張りマイクを使用してアジ演説を行う、シユプレヒコールを行う、座り込む等のけんそうにわたる行為を行つて会社業務を阻害し職場の秩序を乱し、これを制止せんとする勤労課員に殴る、蹴る、金属パイプや旗ざおで突く、後ろから飛びかかる等の暴虐な行為を行い、多数の者を負傷させた。

これは被告会社にとつて極めて由々しき暴力事件であつたが、被告会社としては、当時原告と事態改善について話合い中であつたことも配慮して一応偶発的な事件として処理することとし、昭和四七年二月七日付け書面にて厳重抗議するにとどめた。

こうした状況の中で、同月二五日、同月末日をもつて有効期間満了となる労働協約の再締結交渉が行われたが、同月一二日の交渉における原告からの有効期間一年間の協約締結要求を受けて、おおむね次のような論議が行われた。

被告会社「依然として協約の精神にもとるような状況が一部に見られ、このままでは協約の締結が難しいと思う。組合として責任ある回答を求める。」

原告「会社の就業時間内の組合活動に対する了解が厳しすぎるためストライキを発令する面もある。内部的にも指導すべきものは指導して昨年一一月以前と比べてもストライキの数は減少しているはずだ。」

被告会社「労働協約の精神は、正常な労使関係を維持していこうというところにあり、そういう点から見るとやはり釈然としない。」

原告「政治ストについても過去にやつた事例があり、会社交渉事項以外のストはやつてはいかんというのであれば、協約の精神について論議しなければならない。」

被告会社「ストライキと就業時間内の組合活動とは別問題である。ストライキは、問題の解決を目的として使用者側に対して労働者側が行使するものであるが、その前提として労働協約は労使十分話し合つて解決していくという協議の精神を決めており、ストライキは話し合つて解決することが難しい場合の対抗手段であるはずである。今一つの就業時間内の組合活動については、会社として特に厳しくしていこうという気持はなく、各分会との過去の慣行に基づいて必要なものについては従来から認めていると思う。会社が就業時間内の組合活動をすべて了承しなければ直ちにストライキに訴えるというのはおかしい。」

原告「争議状態にある場合、問題が解決しなければ権利を行使するしかない。」

被告会社「組合として必要を認めればすべて認めろとか、認めなければストとか、慣行を拡げることを容認しないからストでやるというのは、過去の問題処理の仕方からしてもどうかと思う。」

原告「我々としては協約の精神を踏みにじる気持は毛頭ないし、また今後もそのようなことのないよう指導していくつもりである。」

被告会社「釈然としないものがあるが、労働協約の精神を尊重してもらうということで、協約を三か月間締結することとしたい。」

以上の論議の後休憩に入り、休憩後組合側から「労働協約は最低一年間で締結したいと考えているが、会社提案をやむをえず了承する。」との回答があり、同年三月一日以降有効期間を三か月とする労働協約が締結された。

(v) 昭和四七年三月一日以降の三か月間にも依然として「組織防衛スト」等のストライキ権の濫用は続き、七〇時間余(春闘ストライキを含めると三〇二時間余)のストライキが打たれた。また、食堂前の無許可集会は二一件と急増し、構内ビラ配布三件、ビラ貼付一一件となつている。

同月三一日食堂内において拡声器を使用して演説を行つた際には、それを制止しようとした勤労課員に暴行して負傷させ、食堂内をけんそうと混乱に陥れた。また、同年四月一二日に全員ストを行つた際には、会社の退去命令を無視して、赤旗やプラカードを押し立て、マイクで呼びかけシユプレヒコールする等しながら工場建屋内をデモ行進し、約一〇分間にわたり多数社員の業務の正常な運営を妨げ、職場秩序を乱したし、同月一八日には約二五分間、同月二一日には約一時間、同月二六日には約三〇分間、同月二八日には約三〇分間それぞれ同様の行為を行つた。この間同月二七日には、昼休み直前に食堂入口の扉等へ多数のビラを不法に貼付した。

その後、同年五月一三日には「沖縄返還政策粉砕、全軍労支援、沖縄闘争勝利」なる政治目的のスト権を確立し、この違法ストを実施した。

このような状況の中で、同月一二日、同月末日をもつて有効期間満了となる労働協約の再締結交渉が行われ、原告から有効期間一年間の労働協約を締結したい旨の申入れがあつた。これに対し、被告会社は、同月一八日の交渉において「会社としては既に何度も繰り返し申し入れているような協約の精神にもとる行為が一部で継続しており、全く不本意ではあるが、組合としては是正に努力されているということでもあり、それに期待して再度三か月間協約を締結することとしたい。労働協約の精神に沿つて運営しているといわれるならばその実績を作つてもらいたい。これから三か月間で組合の努力の成果を見せてもらい、その上で会社としても考えてみたい。」と述べ、同月三〇日の交渉で組合側から「三か月間ということでやむをえず了承したい。」との回答があり、被告会社は原告の行為是正に期待して同年六月一日以降有効期間三か月の労働協約を締結した。

(vi) 同日以降三か月間の「組織防衛スト」等の違法なストライキは延べ九四時間と、前三か月間に比してまた増加した。更に、食堂前の無許可集会は四件、構内ビラ配布は五件、ビラ貼付は五件という状況であつた。

同月二四日会社の業務伝達用掲示板に広機分会が貼付したビラを勤労課員が撤去し、再度貼付せぬよう命じたところ、突如広機分会組合員が数名で突き上げる、蹴る、殴る、飛蹴りをする等の暴力行為を行い、負傷者が出た。

同年八月七日、同月末日をもつて有効期間満了となる労働協約の再締結交渉が行われ、原告から労働協約を有効期間一年間で締結したい旨の申入れがあつた。これに対し、被告会社は、同月二五日の交渉において「会社としてはこれまで何度も申し上げて来たような状態が依然として継続していると考えるので、遺憾ながら更に三か月間労働協約を締結のこととしたい。労働協約を三か月ごとに締結することは好ましいとは思つていないが、組合において労働協約の精神に沿つた運営が行われていない以上やむをえない。昨年五月以降会社から申し上げたことをよく反省して頂けば会社のいうことが御理解頂けると思う。」と述べた。同年九月四日の交渉において原告は「やむをえず今回は三か月間で締結することとしたい。」と表明し、同年九月一日付けで有効期間を三か月とする労働協約が締結された。

(vii) 昭和四七年九月、広機において広機分会による集団暴行事件が発生した。その経緯は、次のとおりであつた。

重工労組所属の尾方正紀なる社員が、飲酒の上乗用車を運転して死傷事故を起し、有罪判決を受けたので、広機が懲戒処分を行おうとしたところ、同人は同組合を脱退して原告に加入したので、広機は広機分会と懲戒委員会をもつた上で同人を出勤停止一〇日の処分に付した。ところが、広機分会は、労働協約第二八条第一項第一三号の「刑罰法規に定める違法な行為を犯したとき」という懲戒条項の適用は法律に違反し処分は無効だと主張し、あらかじめ重点指名ストを打つた上で同人の出勤停止期間である同年九月一三日から同月二六日にわたりスト対象者である執行委員長以下八、九人の広機分会組合員が同人を先頭に立てて職場に乱入し、これを警告、制止しようとした勤労課員に対して入門時に殴る、蹴る、首を絞める、乗用車で突込む等の暴行を連日にわたつて繰り返して多数の者に傷害を負わせ、また尾方の職場である第一大型機械工場に乱入して居座り、拡声器でアジ演説をして一般社員の業務遂行を妨げ、更には勤労課長宅糾弾闘争と称して夜間に勤労課長宅に多数で押しかけ無断で侵入してかさで机をたたく等脅迫し、その家族までも恐怖せしめる等した。この事件は、その規模・内容からしても従来の比ではなく、その計画的、組織的なやり方からしても極めて悪質であつたので、多数の社員からは厳重処分すべきだとの声があがり、この事件の被害者達も忍耐の限度を超えた行為であるとして独自に告訴の準備を進めた。このような状況の中で、広機としては広機分会に対してなんらかの処分をしなければ企業秩序を維持することは極めて難しい状態となつたが、被告会社としては原告との労使関係に及ぼす影響の重大さにも考慮を払い、泥沼状態に陥らないようにとの配慮から、処分については、慎重の上にも慎重を期して対処することとした。

(viii) 折柄、同年一一月一三日の交渉において、原告から有効期間を一年間とする労働協約の締結要求が提出された。この要求に対して、被告会社は慎重に検討を行つた結果、暴力事件に関する処分が未だ決定しておらず、かつ被告会社にとつても原告にとつても極めて重要な問題である労働時間短縮等に関する交渉が継続中であり、この段階においてこの事件を持ち出して原告の責任を追及して労使関係を紛糾させることは好ましくないとの判断から、ここは、被告会社が隠忍自重することとして、取りあえずは同年一二月一日から有効期間三か月間の労働協約を締結した。

(ix) 広機分会は、昭和四七年一二月一日以降三か月間に実に延べ二四二時間余に及ぶ違法ストを実施した。

一方、同年九月に発生した前記暴力事件に関して広機は、泥沼状態に陥ることを避けるという慎重な配慮から、暴力行為を行つた他の者に対する処分は一応留保し、広機分会執行委員長の今川澄男と前記尾方正紀についてのみ処分を行うこととした。広機は、懲戒委員会開催に先立ち、あらかじめ両名のいい分を聞き公正な審議を行うために、同月一二日、一三日の両日にわたり、両名に対する事情聴取を実施した。そして、同月一五日に、懲戒委員会を同月一八日に開催する旨、広機分会に対し申し入れたが、広機分会はなんら合理的理由を示すことなく延期の申入れを行つてきた。そこで広機は日時を改めて懲戒委員会の開催の申入れを三回行つたが、広機分会はこれらに対しても同様に延期の申入れをなすのみであつた。

広機分会は、このように懲戒委員会の審議に応じようとしないのみならず、今川及び尾方に対し事情聴取を行つたことは広機分会に対する支配介入であるなどと主張して団体交渉の開催を申し入れてきた。広機は、ともかく広機分会の団体交渉開催申入れに応ずることとし、会社側委員を団体交渉の会議場に待機させた。しかしながら、広機分会は、自ら団体交渉を申し入れたにもかかわらず、団体交渉に出席せず、更に日時を改めて開催した団体交渉にも出席しなかつた。そこでやむなく広機は、同月二六日に懲戒委員会を開催することを、同月二五日、広機分会に申し入れた。しかしながら、広機分会側委員は依然として出席しなかつたため、やむをえず会社側委員だけで懲戒委員会を開催し、暴力事件の責任者である今川委員長に対し出勤停止七日、尾方正紀に対し出勤停止三日の処分をすることを決定して広機所長に答申した。

広機所長は答申どおり処分を決定し、同月二八日以降の出勤停止を両名に命じたところ、広機分会は、再度両名の強行就労を企て、前回と同様、連日にわたつて総務部次長及び勤労課員に対する集団暴行をほしいままにし、多数の者を負傷させた。

こうした広機分会の度重なる暴挙に対して、広機としても遂に耐えかねてこれを告発し、暴行事件の被害者も各自加害者を告訴するに及び、昭和四八年二月一八日には執行委員を含む広機分会組合員六名が逮捕され、更に、同年三月二二日には同じく三名が逮捕され、そのうち、広機分会執行委員長今川澄男以下五名は、その後約二・五か月間にわたつて勾留された。広機分会は、これらの者が逮捕・勾留されている期間中、欠勤扱いになるのを回避する目的で、これらの者を重点指名ストの対象とした(この一例を見ても広機分会の重点指名ストがいかにでたらめなものであつたかをうかがい知るに十分である。)。

なお、逮捕・勾留された今川澄男委員長以下五名は、その後起訴され、広島地方裁判所において四名が有罪の判決を受けた。また、被告会社は、これら五名を懲戒解雇処分に付したが、これら五名から地位保全の仮処分が申請され、現在も広島地方裁判所に係属中である。

(x) 以上のような昭和四四年以来の広機分会の協約否定の行為に対して、被告会社は、右のとおり、耐え難きを耐えて広機分会の反省を求め、昭和四六年五月以降は原告に対してその統制責任を追及して労働協約の遵守を強く要請し、なんとか話合いによる事態の改善を希求して粘り強い努力を重ねてきた。しかしながら、右のとおり、広機における事態は一向に改善されないばかりかかえつて悪化する一方であり、遂に昭和四七年一二月から昭和四八年一月にかけて発生した一連の悪質な暴力事件にまで発展するに及んでは、被告会社としても果して原告に統制責任を全うしようとする気があつたのか、労働協約を遵守する気持があつたのかという強い疑念を抱かざるをえなかつた。

そこで、原告からの同年三月一日以降有効期間一年間の労働協約を締結したいという申入れに対し、被告会社は同年二月二七日の交渉において「これまで広機分会の行為につき、問題点が改善されることを期待して三か月ごとに協約を締結しその都度話合いを行つてきたが、現状は一段と厳しいものになつてきており、協約の有効期間の論議以前に協約自体をどうすべきかという基本的な問題を考えざるをえなくなつてきている。」と述べて、今回の暴力事件に関する原告の責任を厳しく追求した。これに対し、原告からは、広機分会の暴力事件についてなんら遺憾の意の表明もなければ、労働協約の遵守についての特段の態度も示されなかつた。

しかしながら、被告会社は、労働協約の再締結には同意しなかつたものの、あらためて原告が統制責任を自覚して協約遵守について誠意ある態度を示すことを期待して「会社としてもここで直ちに無協約とするのでなく、取りあえず次回交渉日までこれまでの協約に基づく便宜供与等の取扱いを継続するので、組合内部においても協約の趣旨を生かす道を検討されたい。」と述べて更に話合いによる解決の道を残した。

しかし、次回交渉日の同年三月一五日、原告からは、やはり労働協約の遵守について特段の態度は示されなかつた。

(二) 労働時間短縮問題

(1) 完全週休二日制の実施要求

被告会社は、原告その他の各労働組合からの要求を受け、昭和四七年一月一日から隔週週休二日制を実施した。これは、従来、週休一日(日曜日)、一日の労働時間七時間であつたのを、日曜日に加え、毎月第一、第三、第五の各土曜日を休日にするとともに一日の労働時間を七・五時間とする制度であつた。

しかしながら、更に同年秋には原告を含む被告会社内の四労働組合のすべてから各々独自に完全週休二日制の要求が提出されるに至つた。

各労働組合の要求を列挙すれば次のとおりである。

(i) 原告の要求

原告の要求は、同年一〇月三〇日に提出され、その内容は次のとおりであつた。

「(ア) 一日の所定内労働時間は現行どおりとし、毎週土曜日を休日とする。

(イ) 賃金は時間短縮前の基準内賃金を確保する。

(ウ) 実施期日は妥結後とする。

(エ) 昭和四七年一月一日実施の始終業基準を次のとおり改正する。

更衣、手洗い、洗面(入浴)は時間内とし、休憩時間は完全に与えることとする。

具体的には、事業所・分会間で協議する。」

右にいう「昭和四七年一月一日実施の始終業基準」とは、隔週週休二日制の実施に際し、それまであまり明確でなかつた始終業に関する基準を制度として明確化したものであり、原告とも交渉の上妥結し、協定を締結して実施してきたものであつて内容は次のとおりであつた。

始業前

始業に間に合うよう更衣などを完了し、作業場に到着する。

始業

所定の始業時刻に作業場において実作業を開始する。

午前の終業

所定の終業時刻に実作業を中止し、その後、食堂、休憩所へ向う。

午後の始業前

午後の始業に間に合うよう遊戯などをやめて、作業場に到着する。

午後の始業

所定の始業時刻に作業場において実作業を開始する。

終業

所定の終業時刻に実作業を終了する。

終業後

手洗、洗面、入浴、更衣などを行う。

残業時

前記各項に準ずる。

(注)1 管理、設計部門等においても、この基準に準じて運営する。

2 船内作業者(沖係留船を除く)については「船」を作業場とする。

したがつて、作業場到着とは乗船を完了することをいい、終業時に実作業を終了し作業場を離れるとは、下船を開始することをいう。

3 用語の定義は次のとおりとする。

(1) 実作業

始業付帯作業、本作業及び終業付帯作業

(2) 始業付帯作業

準備体操、朝礼、動力源・治工具・材料等の段取、図面・作業指示書等の点検、機械装置の注油・点検及びならし運転等の作業

(3) 本作業

本来の作業

(4) 終業付帯作業

製品・部品の整理・防錆その他保全処置、機械・装置・運搬車両等の停止・火止め・点検整備、治工具・計測具等の整理、残材の回収・整理等の作業」

(ii) 重工労組の要求

重工労組の要求は、同年一一月一一日に提出され、その内容は次のとおりであつた。

「(ア) 労働時間

〈1〉 労働日の労働時間は、一日八時間とする。

〈2〉 始業・終業時間および休憩時間については、支部・事業所間で別途協議決定する。

(イ) 休日

休日はつぎのとおりとする。

〈1〉 日曜日

〈2〉 土曜日

〈3〉 以下略

(ウ) 時間外勤務

〈1〉 時間外勤務は、三〇分単位とする。

〈2〉 具体的には、支部・事業所間で協議決定する。

(エ) 交替制勤務 略

(オ) 特殊勤務  略

(カ) 賃金措置

〈1〉 所定内賃金は、現行賃金を維持する。

〈2〉 時間割賃金の算定にあたつては、一か月平均の所定労働時間数を一六五時間とする。

(キ) その他

〈1〉 本要求に伴つて生ずる諸問題については、会社交渉の中で処理する。

〈2〉 これに伴う労働協約については、別途協議する。

実施期日

昭和四八年四月一四日より実施する。」

(iii) 長船労組の要求

長船労組の要求は、同年一一月三日に秋季闘争要求の一項目として提出され、その内容は「実働一日七時間、週休二日とする」というものであつた。

(iv) 全造船横船分会の要求

全造船横船分会の要求は、同年一一月二日に提出され、その内容は原告の要求とほぼ同様のものであつた。

(2) 被告会社と労働組合との交渉

(i) 労働時間短縮に関する被告会社の回答

被告会社としては、各労働組合より前記のような要求を受けたもののいまだ隔週週休二日制実施以来一年も経過していない時点での再度の労働時間短縮要求であつただけに、その対応に苦慮したが、四労働組合とも完全週休二日制の要求という点では一致しており、従業員の意識は、隔週週休二日制の実施を歓迎し、更に充実した休日制度を望んでいると考えられたので、被告会社としてもあえてその実施に踏み切ることとした。しかしながら、現行の一日当たりの労働時間七・五時間をそのままとして完全週休二日制とすると大幅な労働時間短縮となり、生産の低下を来して、会社の収支上現行賃金額を維持することは不可能であつた。そこで、次のような内容の労働時間短縮回答を昭和四七年一二月、各労働組合に対し行つた。

「被告会社は、生産対策上の問題、賃金取扱い上の問題その他関連諸問題について労働組合の協力が得られることを前提として、次の内容で完全週休二日制を実施する。

(ア) 労働日の所定労働時間は八時間とする。

(イ) 毎週土曜日を休日とし、その他の休日は現行どおりとする。

(ウ) 所定労働時間内賃金は現行どおりとする。

(エ) 実施期日は昭和四八年四月一日からとする。」

この回答は、前記隔週週休二日制実施の際に一日の労働時間を七時間から七・五時間に改訂したのと同様の趣旨に基づくもので決して妥当を欠くものではなかつた。のみならず、これまでの隔週週休二日制に比し、平均してみると年間で二三日の休日増、四八・五時間の労働時間短縮となり、年間の所定労働日数は二四八日、所定労働時間は一九八四時間という当時(現在でもそうであるが)の産業界における労働時間短縮の動向の最先端を行くものであつた。

原告に対する右回答は一二月二五日の交渉において行われたが、同日、原告は「会社回答を伺つたが、組合の要求は一日の所定労働時間を現行どおりとした上での休日増であり、この点に相違がある。会社として折角毎週土曜休日まで踏み切られたが、一日の労働時間について我々の要求と異なつているので、要求に沿つた線で検討されたい。」との態度を表明した。

なお、重工労組は、右回答を昭和四八年一月一八日に了承した。また、長船労組及び全造船横船分会は、原告同様、一日の労働時間の延長に反対するとの態度を表明し、引き続き協議が重ねられた。

(ii) 生産諸対策に関する被告会社の提案

前記の労働時間短縮実施の前提となる生産諸対策について、被告会社は昭和四八年一月、各労働組合に対し提案した。その内容は次のとおりである。

「(ア) 時間外労働時間の計上単位 略

(イ) 交替制勤務者        略

(ウ) 特殊勤務者         略

(エ) 完全週休二日制実施に伴う諸対策

〈1〉 隔週週休二日制実施時に協定した事項の完全励行

前回、時短に伴う諸対策として八項目にわたり協定し、事業所ごとに推進をはかつてきたが、不十分な点が多々みられ、この際次の点を中心に完全励行を期したいと考えているので御協力願う。

(a) 始終業管理の基準

改善すべきは改善し、前回設定した全社統一の始終業基準の完全励行を期す。

(b) 勤怠把握方法の改善

自己申告と所属長の確認に基づく新しい勤怠把握方法をいまだ導入していない事業所については、できる限り早期に実施する。

(c) 時差勤務の活用

連続操業を要する業務、事前準備作業、メインテナンス業務あるいはサービス応待業務等の時差出勤および時差休憩はより一層積極的に活用する。

(d) 特定の者に関する休日振替の活用

特定の者についての休日振替は、週休二日制の趣旨を生かすためにも必要であり、この際、修繕船工事、現地据付工事あるいは動力及び設備の保守・整備部門、連続操業を要する部門をはじめとして、進水入出渠関係機械計算関係等についても、必要に応じ積極的に活用する。

〈2〉 休日労働の運用 略

〈3〉 変則勤務の活用 略

〈4〉 修繕船部門対策 略

〈5〉 現地工事対策  略」

労働時間の短縮が従業員にとつて望ましいものであることはいうまでもないが特に製造会社にとつては、労働時間の短縮は直ちに生産高の減少に結びつき、製品のコストを引き上げ、競争力の低下をもたらすといつた重大な問題をはらむものであつた。それ故、労働時間を短縮するに際しては、各種の生産諸対策を講じることにより、なんとかしてこれらの問題をカバーすべく努力するのが産業界の常識となつていた。しかし、被告会社の場合は、昭和四七年一月一日から隔週週休二日制を実施した際、既に原告ほかの労働組合の同意も得て各種の生産諸対策を実施してきており、同日の提案のうち多くは既に実施されている諸対策を更に励行するといつた程度のものにすぎなかつた。

原告に対する右提案は昭和四八年一月二二日の交渉において行われた。また被告会社は、右交渉において原告よりの始終業基準改正要求には応じられない旨の回答を行つた。そして同日の交渉では右提案等に関し、主として次のような論議が行われた。

組合「一日の所定労働時間を延ばすことについては大きな問題を感ずる。本来は一日の所定労働時間を短縮する方向で進むべきと考えているが、我々としても現段階では、現行の七・五時間の短縮ではなく、そのままでの休日増を要求しているわけである。会社としても一日の所定労働時間延長を伴わない休日増を検討されたい。」

会社「会社としては、年間の所定労働時間の短縮も含めて総合的に判断していただきたいと考える。」

引き続き、同年二月八日に交渉が行われた。生産諸対策等に関する質疑が交わされた後、原告は、再度「一日の労働時間を延長しない方向で考えてほしい。」と述べ、これに対し被告会社より「一日の労働時間を延長せずに時間短縮に踏み切ることは全く考えられない。この点を十分理解し御検討願いたい。」と要請した。

(iii) 賃金取扱いに関する被告会社の提案

その後、昭和四八年二月に、被告会社は、労働時間短縮に伴う賃金取扱いについて各労働組合に提案した。その内容は次のとおりである。

「(ア) 時間割賃金算定の基礎数値等改正の件

〈1〉 時間割賃金算定の基礎数値

被告会社は時間割賃金の算定に際しては、基準内賃金を一年における一か月の平均所定労働時間数で除することとしている。そして、この一か月の平均所定労働時間数について、労働時間短縮前は、年間所定労働時間が二〇三二・五時間であつたので、これを一二で除した一七〇時間としていたが、労働時間短縮後は、年間所定労働時間が一九八四時間となるので、これを一二で除した一六五時間に改める。

〈2〉 賃金控除の基礎数値

(a) 勤務を欠いた場合には、被告会社では三〇分単位で賃金を控除することとしており、その算式については、一か月平均所定労働時間数を二倍した数値を用いることとしている。それ故、労働時間短縮前は、勤務を欠いた時間三〇分につき、基準内賃金の三四〇(一七〇時間の二倍)分の一を控除することとしていたが、労働時間短縮後は、これを三三〇(一六五時間の二倍)分の一を控除することに改める。

(b) 所定労働日の一日分勤務を欠いた場合の賃金控除については、労働時間短縮前は一か月の平均所定労働日数を二三日として、基準内賃金の二三分の一を控除することとしていたが、労働時間短縮後は、これを一日の所定労働時間分を控除すること、即ち、一般者については一六五分の八を控除することに改める。

(c) 略

〈3〉 実施期日

昭和四八年四月一日

(イ) 保安勤務者の手当等改正の件      略

(ウ) 特定の者に対する休日振替え取扱いの件 略

(エ) 変則勤務の取扱い改正の件       略

(オ) 本給控除方法改正の件         略

(カ) 期末一時金勤怠系数改正の件      略」

(iv) 原告の態度

昭和四八年三月一五日の交渉において、原告は「労働時間短縮に関する会社回答は、一日の労働時間を延長し、生産諸対策を前提とするものであつて、現段階では了承できない。」との最終的な態度表明をなすに至つた。

これに対し被告会社は「生産諸対策は前回時短に際して提案し、組合の了解も得て実施しているものを基本的に変えようというものではなく、今回時短に際して新たに提示した条件ではない。中央で妥結できないので事業所でその具体的内容を提案することもできず、このままでは事業所で協議する時間もなくなつてしまう。したがつて早急に事業所から分会に対して補完説明することとしたい。」と申し入れたところ、原告もこれを了承したので、被告会社はその後、事業所において、更に生産諸対策の細部等について説明を行い、原告の了承を得るべく努力を重ねた。

重工労組は生産諸対策等を含めて、同月七日にすべて妥結した。また、長船労組は同年四月六日、全造船横船分会は同年三月二六日、それぞれ労働時間及び休日については会社回答をもつて了承するに至つた。このようにして被告会社内の九九パーセントをこす大多数の従業員は昭和四八年四月一日以降、新しい労働時間及び休日により勤務することとなつた。被告会社は船舶等を製造・修理する会社であつて、その作業は共同作業が多い。したがつて、従業員が同じ労働時間帯で働かなければ意味がなく、安全上も問題がある。それ故、被告会社としては、原告の組合員についても四月一日以降は、他の従業員と同様に、新しい労働時間及び休日で勤務してもらわざるをえない状況であつた。

ところで、労働時間及び休日は、基本的な労働条件として労働協約の重要な要素をなしているため、被告会社が右のような状況に置かれた中で、原告があくまでもこれと異なる労働時間及び休日に固執すれば、労働協約は締結しようにも締結できないことになる。そこで、被告会社は、同年三月一五日の右交渉の際、「協約締結についての会社の考え方は前回(同年二月二七日の交渉)申し上げたとおりであるが、これまでの労使関係も考慮して今月一杯は前回までと同じ内容の労働協約を締結する。」と原告に対し提案するとともに、「四月一日以降は広機問題もさることながら、労働協約の重要な要素となつている基本的な労働条件としての労働時間及び休日の問題について労使協議が整わない以上、協約は締結できないことになるので、あらかじめお含みおかれたい。」と念のため申し添えた。これに対し、原告は「検討する。」と回答した。

3 労働協約の失効

原告は、昭和四八年三月三〇日の交渉において、広機問題については何ら善処する態度を示さず、また労働時間短縮問題については、「会社提案は、生産諸対策への協力を前提に時間短縮を実施するというものであり、これを了承することはできない。我々は、一日の労働時間を延長せず週休二日制を実施するよう要求しており、会社は更に検討し、我々の要求を受け入れてほしい。」と述べて会社回答に同意できない旨の最終態度を表明するに至つた。これに対し被告会社は、「時短については、昨秋組合の要求を受けて以来、長期にわたり誠心誠意解決の努力をしてきたが、土壇場になつて本日のような組合態度を伺い、誠に残念である。会社の業務は各人が同じ労働時間帯で働かなければ意味がなく、むしろ安全上問題のある業務がほとんどであり、四月一日以降大多数の社員が新しい労働時間で勤務につくことになつている中で、貴組合員についてこれと異なる取扱いをすることはできない。会社としては、会社員に同一の労働条件で働いていただく以外に方法はないと考える。」と述べ、更に、「広機問題について態度表明がないことは遺憾であるが、それはさておくとしても、極めて重要な労働時間及び休日について妥結できないということであれば、会社としては四月一日以降協約を締結しようにも締結できない立場に追い込まれたことになる。したがつて、四月一日以降協約は効力を失うこととなるので、会社としては残念ながら一切の便宜供与を撤廃せざるをえなくなる。具体的には事業所から分会に対して申し入れる。」と表明した。

なお、同年三月一五日の交渉において被告会社から今月一杯締結する旨提案した点については、原告からその後もなんらの態度表明も行われなかつた。それどころか、原告は、同年三月下旬の段階において、広機問題の協議の過程で組合用務離席のための重点指名ストライキがスト権濫用として問題になつたにもかかわらず、「組織防衛スト権」なる違法なスト権を確立した。しかも、この段階においては、労働協約は締結されていなかつたが、被告会社は労働協約存続時と同様の便宜供与を行つていたのであるから、原告がこのようなスト権の確立を行つたことは、労働協約第七二条覚書「中央経営協議会または事業所経営協議会の開催前および開催期間中は、会社または組合はその付議事項に関する争議行為の準備に該当する行為(会社が行なうロツク・アウトの準備または組合が行なうスト権集約の指示、スト権投票等)は一切行なわないものとする。」の精神を踏みにじるものであつた。

以上のような経緯で、同年四月一日以降は、被告会社と原告との間で労働協約を締結することができなくなり、労働協約が締結されぬまま現在に至つている。

4 結論

本件便宜供与は、前記1記載のとおり、労働協約を唯一の根拠として実施されてきたものであり、労働協約が前記2記載のとおり失効した以上、本件便宜供与の撤廃は、これに伴う当然の措置にすぎない。また、本件便宜供与の供与物件は、いずれも被告会社が所有し管理する構内施設及び施設物であり、原告の使用中も被告会社の施設管理権を離脱したものではなく、その管理下にあるものであるから、その撤去行為も施設管理権の適法な行使として許されるものである。したがつて、本件便宜供与の打切りは何ら違法に原告の権利を侵害したなどと評価さるべきものではない。

なお、労働協約の失効後においても被告会社は原告に対して従前と同一内容の便宜供与を事実上行つているが、これは裁判所の仮処分命令及び労働委員会の命令の履行行為として行つているものであり、私法上の権利として認めたわけではない。また、本件に関し中央労働委員会が不当労働行為であるとの判断を下し、被告会社がその命令を争うことなく従つていることは事実であるが、これは被告会社が中央労働委員会の判断に承服したからではなく、労働時間短縮問題については始終業基準等は妥結していないものの労働時間及び休日に関しては原告も昭和四八年七月に妥結の態度を表明するに至つており、また、広機分会問題については違法ストはあるものの暴力事件は改善されていたので、このような状況を踏まえて、原告との間の労使関係の円滑化を希求し、あえて行政訴訟により争うことを避けたものである。前記一の2記載のとおり不当労働行為制度は労働者の団結権、団体交渉権を保障するため、使用者の行為について行政的抑制を加え、団結権、団体交渉権を強化しようとするものであつて、使用者に労働協約上の債務が消滅している場合であつても、法の目的に沿い行政目的から便宜供与を継続させることが必要と判断される場合には、労働委員会は私法上の義務としてではなく、公法上の義務として供与の継続を命じ得るところであり、その救済命令があつたからといつて原告に私法上の権利があるとか、不法行為の被侵害権利が存するということはできない。

四  賃金増額に伴う昭和四八年五月暫定払及び六月払賃金並びに夏季一時金について

1 新しい労働時間及び休日の実施

労働時間短縮問題についての被告会社と原告との交渉の経緯は、前記三の2の(二)記載のとおりであり、昭和四八年四月一日の時点では、原告はいまだ労働時間短縮に同意していなかつた。しかし、被告会社としては、会社の九九パーセントを超える従業員が新しい労働時間及び休日で勤務することとなつている中で、原告の組合員についてのみこれと異なる取扱いをすることは職場規律上も安全上も極めて問題があると判断し、原告にも表明したうえで就業規則を適法に変更し、原告の組合員をも含めた従業員全員に周知撤底を図つて、同日より新しい労働時間及び休日を実施した。これに対し、原告は、「時短斗争」と称して従前どおりの労働時間及び休日により就労する闘争を行つた。

2 五月暫定払について

(一) 原告の賃金増額要求

昭和四八年度の賃金増額交渉は、同年三月、社内の四労働組合から各々独自に要求が提出されることにより開始された。このうち、原告の要求は同年三月一五日の交渉において提出され、その内容は次のとおりであつた。

「(1) 賃金増額要求の件

(i) 金額 重工一人平均税込み 二万円

(ii) 配分

(ア) 一律給六〇パーセントとし、新賃金項目を設定して一律同額配分する。

(イ) 本給比四〇パーセントは、平均本給により支給率を算出し、勤務給にくり入れる。

(iii) 実施期日 三月支払分よりとする。

(2) 最低賃金協定要求の件      略

(3) 年齢別最低保障賃金協定要求の件 略

(4) 退職金増額要求の件       略

(5) 慶弔規則一部改正の件      略

(6) 所定時間外労働割増率引上げ要求の件

(i) 所定時間外労働割増率を三割五分とする。

(ii) 休日出勤割増率を三割五分とする。

(iii) 深夜割増率を三割五分とする。

(iv) 早出割増率を一割五分とする。

(v) 休日超過労働手当を三割五分とする。

(vi) 以上はそれぞれ併給とする。

(vii) 実施期日 妥結後よりとする。

(7) 住宅手当要求の件        略

(8) 家族手当増額要求の件      略

(9) 有給休暇増加要求の件      略

(10) 通勤交通費全額負担要求の件  略

(11) 具体的回答を三月三〇日にされたい。」

(二) 被告会社の本給控除方法改正提案

被告会社における同年二月二七日当時の賃金控除方法は次のとおりであつた。

「(1) 所定労働日の全日勤務を欠いた場合

(i) 本給

勤務を欠いた日一日につき二三分の一を控除する。(二三分の一を控除するのは一年を平均した一か月の所定労働日数が二三日であつたことによる。)ただし、

(ア) 業務外の傷病欠勤(健康保険法に定める傷病手当金が支給される日は除く。)及び真にやむをえない事情による事故欠勤で会社の認めたものについては、一か月につき通算三日までは控除しない。

(イ) 右のほか、傷病手当金の支給対象となる業務外の傷病による連続欠勤については、傷病手当金の支給開始までの待機期間中の所定労働日に限り、一か月につき通算三日までは控除しない。

(ii) 勤務給・職能給・直接員手当

勤務を欠いた日一日につき二三分の一を控除する。

(2) 所定労働日の一部勤務を欠いた場合

(i) 本給

勤務を欠いた時間三〇分につき三四〇分の一を控除する。(三四〇分の一を控除するのは一年を平均した一か月の所定労働時間数が一七〇時間であつたため、三〇分単位とする場合は三四〇分の一となることによる。)

ただし、遅刻・早退・私用外出については、一か月につき通算三回までは各回一時間に限り控除しない。なお、業務外の傷病又は真にやむをえない事情による場合には一時間を超える時間についても控除しない。

(ii) 勤務給・職能給・直接員手当

勤務を欠いた時間三〇分につき三四〇分の一を控除する。

ただし、遅刻・早退・私用外出については、一か月につき通算三回までは各回三〇分に限り控除しない。」

右のとおり、この賃金控除方法は、本給と勤務給・職能給等とによる差異や事例による差異が錯綜し、極めて複雑な内容となつており、給与計算の実務上、この簡素合理化は被告会社にとつて緊要な課題となつていた。また、このように特に本給について一定限度をもつて控除を容赦するとの取扱いを行つて来ていたものの、実際の適用例を見ると、結果として出勤不良者がもつともその恩恵に浴するという不具合な実態となつていた。

そこで、被告会社としては、折から労働時間短縮問題が提起され、それにより完全週休二日制が実施されることとなれば、従来の控除方法を設定した昭和四四年当時に比し休日は年間四九日、月当たり四日強の増加になることから、月三日以内の控除容赦取扱いはこの休日増によりカバーされるとも考えられるので、この際、本給についての特別の控除容赦取扱いは廃止し、勤務給・職能給等の取扱いと同一にしたいと考え、昭和四八年二月二七日、労働時間短縮に伴う賃金取扱い等の一項目として次のような内容の提案を行つた。

「本給控除方法改正の件

(1) 改正内容

(i) 業務外傷病欠勤及び事故欠勤の場合の控除容赦取扱いを廃止する。

(ii) 遅刻・早退及び私用外出の場合の控除容赦時間は、一か月につき通算三回まで各回三〇分以内とする。

(2) 還元措置

前記改正に伴い、現在容赦取扱いの対象となつている総時間に対応する賃金部分は全体に還元することとしたい。」

この提案は同時期に他の労働組合に対しても同一内容で行われた。しかし、この提案に関する交渉は、いずれの労働組合との交渉も進展を見ぬまま賃金増額の交渉時期を迎えた。

被告会社は、本件は、賃金取扱い上の問題であつて賃金増額問題と密接な関係があるので、本件を賃金増額交渉の中において同時に解決したいと考え、原告に対しては、同年四月二〇日、賃金増額の一項目として、二月二七日提案したものと同内容の「本給控除方法改正の件」をそのままあらためて提案した。

(三) 被告会社と原告との交渉

(1) 被告会社の回答(四月二五日)

被告会社と原告との間で、賃金増額交渉が続けられたが、同年四月二五日、被告会社は次のとおりの回答を行つた。

「(i) 賃金増額要求の件

(ア) 金額 社員一人平均税込み一万二五〇〇円

(イ) 配分

賃金増額分の内五〇パーセントを職能給に、五〇パーセントを勤務給にそれぞれ繰り入れることとする。具体的内容については金額妥結後協議したい。

(ウ) 本給控除方法の改正

四月二〇日の提案どおり

(ii) 退職金増額要求の件 略

(iii) 業務上死亡の弔慰金及び業務上傷病による退職見舞金改正要求の件 略

(iv) 割増賃金率一部改正要求の件

(ア) 次のとおり改正する。

〈1〉 時間外労働割増金

就業規則所定の始業時刻前の労働並びに就業規則所定の終業時刻後二時間以内の労働について現行二割五分を二割八分とする。

〈2〉 休日労働割増金

就業規則所定の休日につき現行二割五分を二割八分とする。

〈3〉 その他

現行どおり

(イ) 実施期日

妥結時から実施する。

(v) その他の諸要求の件 略」

原告はこの回答に不満の意を表明し、妥結するに至らなかつた。

(2) 被告会社の修正回答(四月二七日)

同年四月二七日、被告会社は次のとおり修正回答を行つた。

「(i) 賃金増額要求の件

前回の回答を一万三五〇〇円に修正する。

(ii) 割増賃率一部改正要求の件

(ア) 時間外労働割増金

就業規則所定の始業時刻前の労働並びに就業規則所定の終業時刻後二時間以内の労働について現行二割五分を三割とする。

(イ) 休日労働割増金

就業規則所定の休日につき現行二割五分を三割とする。

(iii) その他

前回回答どおり」

この修正回答に対しても原告は不満の意を表明し、妥結するに至らなかつた。

(3) 被告会社の修正回答(五月八日)

同年五月八日、被告会社は次のとおり修正回答を行つた。

「(i) 賃金増額要求の件

一人平均税込み一万三八〇〇円プラス調整金二〇〇円とする。

(ii) 退職金増額要求の件 略

(iii) その他

前回回答どおり」

(4) 原告の態度

同年五月一一日の団体交渉において原告は、右五月八日の回答に対し次のとおり態度表明した。

「(i) 賃金増額要求の件

(ア) 金額 了承する。

(イ) 配分

金額妥結後協議したいとのことであつたので会社側から具体的な提案をされたい。

(ウ) 本給控除方法の改正 反対である。

(ii) 退職金増額要求の件

了承する。

(iii) 割増賃率一部改正要求の件

現行二五パーセントの割増率を三〇パーセントに引き上げることは了承する。しかし、就業規則による労働時間及び休日については現在話合いを続けており組合としては認めていないので保留する。

(iv) 業務上死亡の弔慰金及び業務上傷病による退職見舞金改正要求の件

了承する。

(v) その他の諸要求の件

更に検討をお願いする。」

これに対し、被告会社は、本給控除方法改正については、配分を提案する際(同日はいまだ配分についての成案は得られていなかつた。)、改めて会社の見解を明らかにすると述べ、金額妥結に伴う三月・四月払の精算方法及び五月暫定払の方法について提案を行つた。

(四) 三月・四月払の精算及び五月暫定払についての協議

(1) 三月・四月払の精算方法の提案

被告会社は、賃金の増額については組合の要求を受けて三月払賃金より実施する旨回答したものの、妥結時期は既に五月に入つていたため、既往の三月払及び四月払賃金について次のような体系によつて精算することを提案した。

「(i) 精算対象者

精算対象期間中に在籍し、精算日当日在籍の者とする。ただし、昭和四六年一一月一日付および昭和四五年一一月一日付の雇用延長者で本年四月末日をもつて退職した者並びに精算対象期間中に在籍し、その後精算日までの間に業務災害により死亡した者については精算する。

(ii) 精算額

(ア) 一般社員

次表の算式により算出した額とする。ただし、精算対象期間中の勤務を欠いた日及び勤務を欠いた時間については勤務給に準じ社員賃金規則どおりの控除を行う。

〔算式〕

{(昇給前本給6万円未満の者 昇給前本給×0.1467+1150円 昇給前本給6万円以上の者 昇給前本給×0.0709+5700円)+職群等級別金額(別表1〔略〕のとおり。職群等級は3月払の職能給の基礎となつたものによる。)}×{1+1/170×(3月払超過労働時間計+3月払所定割増率計)}+(昇給後本給6万円未満の者 昇給後本給×0.1467+1150円 昇給後本給6万円以上の者 昇給後本給×0.0709+5700円)+職群等級別金額(別表1〔略〕のとおり。職群等級は4月払の職能給の基礎となつたものによる。)}×{1+1/170×(4月払超過労働時間計+4月払所定割増率計)}

(イ) 雇用延長者 略

(iii) その他

(ア) 前記(ii)による精算の他、時間割賃金リンクの手当については精算する。

(イ) 平均賃金リンクの手当については精算を行わない。

(ウ) 私傷病療養見舞金については精算する。

(エ) 本精算額は平均賃金算定基礎額に算入する。

(オ) 公傷病による欠勤については所定労働時間労働したものとみなして精算する。

(カ) 所得税および失業保険料は精算日に控除する。」

(2) 五月暫定払の方法の提案

賃金増額は、単に一人平均の金額につき合意を得るのみでなく、その配分、即ち新しい賃金体系をいかに設定するかについても合意が成立してはじめて、各人毎の新しい賃金額が具体的に算出できることとなる。ところで、昭和四八年の場合、原告との金額についての妥結時点は五月一一日であつて、たとえ同日直ちに新しい賃金体系についての合意も併せて得られたとしても、支払日が一週間後の五月一八日に迫つている五月払賃金を新しい賃金体系で支給することは事務的に到底間に合わない状況にあつた。そこで被告会社としては、五月払賃金の増額分につき比較的簡便な算式を用いて算出・支給することとし、これを五月暫定払として、次の内容の提案を行つた。

「(i) 支給額

(ア) 一般社員

次表の算式により算出した額とする。

〔算式〕

(本給6万円未満の者 本給×0.1467+1150円 本給6万円以上の者 本給×0.709+5700円)+職群等級別金額(略)

(イ) 雇用延長者 略

(ii) 支給条件その他

(ア) 本支給額は、時間割賃金及び平均賃金の算定基礎額に算入する。なお、時間割賃金の算定に際しての「一年における一か月平均所定労働時間数」は「一六五時間」とする。

(イ) 割増金の算定に際しての所定労働日、所定休日、所定就業時刻及び所定終業時刻は社員就業規則に定めるところによる。

(ウ) 勤務を欠いた場合については、勤務給に準じ社員賃金規則又は同細部取扱いの定めるところにより控除を行う。」

(3) 原告の態度

右の会社提案に対し原告は、右団体交渉の席上、三月・四月払の精算方法については直ちに了承したが、五月暫定払の方法については休憩をとつて検討した後、次のとおり態度を表明した。

「第一項の算式については了承する。第二項の支給条件については割増賃率と同様の理由で保留する。現在労使に意見の不一致があるので保留という他ない。これによつて処理されたい。」

しかしながら、この五月暫定払についても欠勤に伴う控除や時間外労働割増は行われるのであるから、そのために必要な支給条件についての合意がない以上、算式について合意が得られても、個人ごとの具体的な金額を算出することは不可能である。

(4) 協議の続行

被告会社は、原告が右のとおり金額算出不可能な回答を行つたので、その見解をただしたところ、原告は、「現実に処理できないかもしれないとは思う。協議を続けることとしたい。」と述べた。このようにして五月暫定払については協議続行となつた。そのため、被告会社は、原告の組合員に対しては五月暫定払を行うことができなかつた。そこで、被告会社は、やむをえず増額前の賃金を取りあえず支払つた。

この点を他の労働組合についてみると、重工労組は同年五月八日に、賃金増額の金額並びに三月・四月払の精算方法及び五月暫定払の方法につき支給額、支給条件共了承したので、同労組員に対する三月・四月払の精算は同年五月二二日に、五月暫定払は同月一八日にそれぞれ実施された。長船労組は同月一一日に、同様に了承したので、同労組員に対する三月・四月払の精算及び五月暫定払はともに同年五月二五日に実施された。また、全造船横船分会は同月一五日に、同様に了承したので、同労組員に対する三月・四月払の精算及び五月暫定払はともに五月二五日に実施された。この種問題は会社と労働組合との間の交渉により合意をみてはじめて実施されるものであるから、各労働組合との交渉状況いかんによつて実施期日が変わることは当然のことである。

なお、被告会社としては従来よりベースアツプ、一時金等についてはすべて少数の労働組合との間においても各組合との協議を尊重し、たとえ多数を占める労働組合との間で妥結したからといつてそれを一方的に実施するが如きことは一切行つておらず、本件についてもあくまでも原告との間の協議を尊重したものである。ちなみに、後日、同年六月五日の団体交渉において原告が「時短関係では実施しており、ベア、割増金等は実施できないというのはおかしい。」と述べたので、被告会社より「強行実施して欲しいということか。」と原告の意向を確認したところ、明確に否定されている。

3 六月払賃金について

(一) 賃金増額に伴う賃金体系一部改正の被告会社提案

被告会社と原告との間では、その後も団体交渉が続けられ、同年五月二一日の団体交渉において、被告会社は原告に対し「賃金増額の配分及び賃金体系一部改正の件」について提案を行うとともに本給控除方法改正の件についても一部内容を修正する提案を行つた。

「賃金増額の配分及び賃金体系一部改正の件」についての提案は、同月一一日に妥結した賃金増額一人平均税込み一万三八〇〇円プラス調整金二〇〇円の配分について増加額の約五〇パーセントを職能給に繰り入れ、約五〇パーセントを勤務給に繰り入れることとし、更にその際、本給控除方法改正に伴う還元分として約四〇〇円を加えて賃金体系を一部改正するという内容であつた。

前記1の(二)記載のとおり、本給控除方法改正にあたつて、被告会社は、従来控除を容赦してきた不就労時間に対応する賃金の総額についてはこれをまとめて全体に還元することとし、その旨原告にも説明してきたのであるが、諸般の事情を勘案し、右のとおり実績額約一五〇円(全社員一人当たり平均月額)を上回る、社員一人平均約四〇〇円の賃金増額を賃金体系一部改正の中において行うこととした。被告会社は、右交渉において右賃金体系一部改正の中には本給控除方法改正に伴う還元分が含まれていることを説明のうえ、賃金増額の配分及び賃金体系一部改正の件については、本給控除方法の改正が条件であると述べた。

(二) 原告の態度

右の提案に対し、原告は同年六月五日の団体交渉において次のとおり態度を表明した。

「(1) 本給控除方法改正の件

会社提案は内容的には労働条件の低下する部分、良くなる部分があるが、会社提案を了承する。ただし、所定労働時間および休日に関係する問題については現在労働時間、休日について労使間で協議中であるので保留する。

(2) 賃金増額の配分及び賃金体系一部改正の件

我々の考え方は終始して職能給の拡大には反対であり、会社提案は組合の配分案とは異なつている。我々の主張は変えないが問題解決のためやむをえず会社提案を了承する。」

(三) 協議の続行

原告の右回答は、本給控除方法改正の件並びに、賃金増額の配分及び賃金体系一部改正の件を了承したかの如き形をとつてはいるが、所定労働時間及び休日について保留している以上、実質的に新しい賃金体系及び本給控除方法を了承したとはいえず、また所定労働時間及び休日について合意がない以上、個人ごとの具体的な賃金額の算定は不可能であつた。それ故、被告会社としては、六月払賃金は従来の賃金体系により支払わざるをえなかつた。

なお、重工労組は同年五月一八日、長船労組は同月二八日、全造船横船分会は同月二九日、新しい賃金体系に関する会社提案を本給控除方法の改正も含めてすべて了承し、各労働組合の組合員は六月払賃金より新しい賃金体系による支給を受けている。

4 期末一時金について

(一) 原告の要求

昭和四八年の夏季期末一時金について、原告は同年六月一一日の団体交渉において、次のとおりの要求を提出した。

「(1) 金額

重工一人平均税込み三か月分

(三か月分の金額設定は四八年四月末理論月収プラス賃上げ分「四月精算払金」)

(2) 配分

四八年四月末における各人理論月収プラス賃上げ分(四月精算払金)の三か月分とする。

(3) 支払日 七月六日

(4) 具体的回答を六月二〇日されたい。」

これに対し、被告会社は検討を約した。

(二) 被告会社の勤怠系数改正提案

被告会社は同年二月二七日、労働時間短縮の件に関する交渉の席において、労働時間短縮に伴う賃金取扱い等の一項目として、期末一時金勤怠系数の改正を原告に提案した。その内容は次のとおりであつた。

「(1) 昭和四八年夏季支給分に用いる勤怠系数を次のとおりとする。

勤怠調査期間を通算し、就業規則所定の労働日の欠勤三日以内の者は一〇〇パーセント支給するものとし、欠勤三日を超える三日ごとに一パーセントを減ずる。三日未満の端数は切り上げる。

遅刻又は早退により就業規則所定の労働時間の勤務を一部欠いた場合には、遅刻・早退四回をもつて右欠勤一日とみなし、四回未満の端数は切り上げる。

(2) 昭和四八年年末以降の支給分に用いる勤怠系数を次のとおりとする。

勤怠調査期間を通算し、就業規則所定の労働日の欠勤三日以内の者は一〇〇パーセント支給するものとし、欠勤三日を超える一日につき〇・四パーセントを減ずる。

遅刻又は早退により就業規則所定の労働時間の勤務を一部欠いた場合には、遅刻・早退四回をもつて右欠勤一日とみなし、四回未満の端数は切り上げる。」

これは、労働時間短縮により勤怠調査期間における所定労働日数が減少することに伴う改正であつた。昭和四八年夏季一時金については、勤怠調査期間は前年一一月一日から当年四月末日までであつて労働時間短縮が影響する期間は四月一日からの一か月間にすぎないため従来どおりとし、昭和四八年年末一時金以降について改正することとした。内容的には、従来の取扱いは三日未満の端数を切り上げていた関係もあつて欠勤一〇日まではむしろ改正案の方が控除が少なくなる場合が多く、一〇日を超える場合は改正案の方が控除が大きくなるものであつたが、所定労働日数の減少に伴う改正であるので勤怠調査期間中すべて欠勤した場合でみれば控除額は四八~四九パーセントとなり、従来の勤怠系数を設定した当時の数値とだいたい合致するものとなつていた。

右の改正は、遅くとも昭和四八年夏季一時金支給時までに解決すべきものであるから、被告会社は期末一時金問題の一項目として、右六月一一日の交渉においてあらためて原告に提案した。

(三) 被告会社と原告との交渉

(1) 被告会社の回答(六月二五日)

被告会社は、原告の前記夏季一時金要求を検討の結果、同年六月二五日の団体交渉において、次のとおりの回答を行つた。

「(i) 金額

社員一人平均年間税込み四三万円

(ii) 配分

(ア) 夏季一時金  二一万円

(イ) 年末一時金  二二万円

(ウ) 各人への配分 略

なお、先に提案している期末一時金勤怠系数の改正も期末一時金問題の一項目として同時解決したい。

(iii) 支給日

(ア) 夏季一時金 七月五日

(イ) 年末一時金 一二月三日

なお、支給日については妥結日が遅れれば当然支給日も延びることになる。」

また、被告会社は同日の交渉において、同年六月一一日に提案した期末一時金勤怠系数の改正のうち、昭和四八年年末以降の支給分に用いる勤怠系数について「私傷病による長欠者の欠勤控除は四五%を限度とする。」との項目を追加した。

しかし、この回答をもつて原告の了承を得るには至らなかつた。

(2) 被告会社の修正回答(六月二九日)

同月二九日の団体交渉において、被告会社は次のとおりの修正回答を行つた。

「(i) 金額

社員一人平均年間税込み四五万五〇〇〇円

(ii) 配分

(ア) 夏季一時金 二二万二五〇〇円

(イ) 年末一時金 二三万二五〇〇円

(ウ) 各人への配分については既に提案しているとおり。

(iii) 勤怠系数については既に提案したとおり。

(iv) 本日期末一時金についてのすべての問題が解決した場合には、支給日は、夏季は七月五日、年末は一二月三日となる。」

(3) 原告の態度

これに対し、原告は、休憩をとつて検討した後、次のとおり態度を表明した。

「(i) 金額については要求に比し低いし、組合の夏季のみ要求に対し年間で回答され不満であるが、夏冬ともに妥結したい。

(ii) 配分についても不満であるが了承する。

(iii) 勤怠系数の改正については年末以降若干条件低下となるが、内容的には了承する。ただし、提案の中にある「就業規則所定の労働日、労働時間」については今日なお協議中であるので保留したい。」

(四) 協議の続行

原告の右の態度表明には、右のとおり賃金増額関係と同様の保留が付されており、このような保留がある以上遅刻・早退・欠勤等の認定ができず、個人ごとの具体的な金額が算出できなかつた。

そこで、右の交渉の席上、被告会社は、「一部保留ということでは解決にならない。」と繰り返し述べた。これに対し、原告は、「会社は四月一日以降労働時間関連の事項について強行実施しているのだから問題ないのではないか。」と述べたが、一方では、一時金算定に不可欠な勤怠系数の算定基礎としての労働日、労働時間については保留との態度を変えなかつた。そのため、被告会社としては、原告の組合員に対する夏季一時金の個人ごとの具体的支払金額を算出することができず、夏季一時金を支払い得なかつた。

なお、重工労組は同年六月二九日に勤怠系数の一部改正も含めてすべて妥結して、同労組員は同年七月五日に夏季一時金の支給を受け、長船労組は同月二日に同様に妥結して、同労組員は同月六日に夏季一時金の支給を受け、また、全造船横船分会は同月三日に同様に妥結して、同労組員は同月一〇日に夏季一時金の支給を受けた。このように各労働組合との交渉状況いかんによつて支給日が異なつてくるのは当然のことである。

5 五月暫定払・六月払賃金増額分及び夏季一時金の支払

右のとおり、原告との間では合意に至らなかつたため、五月暫定払、六月賃金増額分及び夏季一時金については、支払を保留していたが、その後原告の長船分会員より仮処分申請がなされ、裁判上の和解が成立したことを契機に、同年七月一七日、すべて支払つた。その間の経緯は次のとおりである。

(一) 長船分会員よりの仮処分申請

賃金増額及び一時金について右のとおり被告会社と原告との交渉が続いていた同年六月二二日、原告の大多数を占める長船分会員約四四〇人から、長崎地方裁判所に対し、賃金増額部分の支払を求める仮処分申請がなされた。

この申請において、右分会員らは「五・六月についての増額部分算式を会社が提案し、既に九九パーセント以上の従業員がそれによつて支払を受け、申請人らもそれに何等異存がないのであるから……」支払えという主張をしていた。

この主張は、団体交渉での具体的金額の算出に不可欠な部分について保留するという原告の態度とは矛盾するものであつたので、被告会社は前記六月二九日の団体交渉において、組合の真意をただした。

これに対し、原告は、「個々人と団体意思は違う。組合としては本席(団体交渉の席)において申し上げることが組合意思である。」という態度を表明した。

(二) 裁判上の和解

右のとおり、原告は団体交渉の席上では一部保留の態度をとつているにもかかわらず、原告の組合員の大多数から委員長自身も申請人に名を連らねて、「何等異存がない」ので支払えという仮処分申請がなされ、被告会社としては原告の真意をはかりかねたのであるが、いずれにせよ大多数の組合員から会社提案に異存はないとの申請がなされたので、同年七月一一日、夏季一時金を含め会社提案どおりの支給条件で支払うということで裁判上の和解が成立した。

そして同月一七日、被告会社は、五月暫定払、六月払賃金の増額分及び夏季一時金を、仮処分申請をしなかつた残余の原告の組合員をも含めて全員に対して支払い、これはすべて異議なく受領された。

(三) 七月払以降の賃金

七月払賃金については、被告会社は、六月払賃金の増額分を右のとおり支払つたことを踏まえて、新しい賃金体系で支払つた。

その後、同月二三日の団体交渉の席で、原告より「会社より提案のあつた労働時間及び休日については、七月一日以降につき時短の提案と切り離して了承したい。したがつて賃金増額、一時金、割増金について労働時間と休日との関係で保留していた部分についても同様解決したい。」という態度表明があり、これによつて支給条件について労使間においても解決されることになつた。

6 結論

賃金増額及び期末一時金については、その都度、会社と組合との間での交渉により、金額、支給条件等を決定して支給している。この点に鑑みれば、右のとおり、具体的な金額算定に必要な支給条件について協議が整わず、それ故、支給が遅れたとしても、それは何ら不法行為を構成するものではない。他の三労働組合の組合員が原告の組合員よりも早期に支給を受けたのは、他の三労働組合との間では、支給条件について原告よりも早期に合意が得られたためにすぎないものであり、被告会社は原告に対し何らの差別取扱いをしたものでもない。このように各労働組合間で支給の時期に差異が生じたことは、労働組合の自主性、独立性という本質に徴し、当然のことといわなければならない。

五 損害について

原告には、損害は何ら発生しなかつたか、あるいは発生しても被告会社の行為とは相当因果関係のないものであつた。

1 本件便宜供与の打切りに関する損害

労働協約の失効に伴う本件便宜供与の打切りは、現実には全く行われていないか、あるいは行われたとしてもごくわずかの期間であつた。しかも、労働組合法の精神に照らしても、労働組合の自主性を保持するために、使用者の労働組合に対する便宜供与は最小限にとどめられるべきところ、原告に対する会社の便宜供与は、それが原告の組合員数が二万人であつた当時に設定され、分裂後もそのまま承継された関係で、本件当時の原告の組織(約五六〇人)の維持に必要な最小限のものを大幅に上まわる内容となつており、被告会社がこのような便宜供与をごくわずかの期間打ち切つてもそれが原告の運営に対して重大な支障を与えるということはなかつた。したがつて、本件便宜供与の打切りにより原告に損害が発生することはなかつた。

2 五月暫定払及び六月払賃金並びに夏季一時金支払に関する損害

ベースアツプに伴う五月暫定払及び六月払賃金の新体系と旧体系との差額並びに夏季一時金については、裁判上の和解を契機として昭和四八年七月一七日に原告の全組合員に対して支払つた。支払いの時期が他の労働組合の組合員より遅くなつたことは事実であるが、これは前記のとおり原告との間で協議が続行になつていたからにすぎず、他の三組合についても各々妥結日の違いに応じて支給日は異なつているのであるから、原告には何ら損害は発生していない。

3 弁護士費用及び原告の組合員の裁判所出頭(傍聴)費用等

(一) 弁護士費用

弁護士費用は、不当な訴訟の提起に対する応訴の場合及び不法行為者の不当な抗争に対して訴訟を提起した場合すなわち、相手方の抗争行為そのものに違法性が認められる場合にのみ相当因果関係がある。被告会社が本件便宜供与をやめるに至つたのは、既に詳細に述べたとおり原告の無責任かつ不誠実な態度を原因として労働協約の期限後の更新ができなくなり、そのために便宜供与契約が終了したからである。また、被告会社が賃金の五月分暫定払及び六月分の増額分支払をしなかつたのは、労働条件である支給条件について原告との間で合意に達せず、支給額の決定ができなかつたからであり、原告が独立の組合として独立した団体交渉権を有する以上、これは当然のことである。したがつて、被告の右行為にはいずれも合理的な理由があり、不当抗争ということはできない。また、原告は、便宜供与の継続、未確定賃金部分の支払等について被告会社に履行を求める団体交渉をせずに、突然仮処分命令の申請や労働委員会に対する救済の申立てをしたのであつて、紛争はまず団体交渉によつて解決すべきという労使のあるべき姿に反しており、被告会社が不当に抗争したために原告がこれらの申立てを余儀なくされたということはできない。

契約違反その他一般の債務不履行は、多くの場合経済的活動における紛争であり、また当事者の関係は偶発的なものではなく、各自の意思によつて生じた結合関係であり、しかも契約の解釈その他契約をめぐる紛争は当事者間において潜在的に内在しているのであるから、債務不履行その他契約に争いのある場合に訴を提起するのに要した弁護士費用は訴を提起する者が負担すべきである。使用者と団結権、団体交渉権、争議権の保障された労働組合との間の関係は契約関係と同様に対等な立場での結合関係であり、労働組合は使用者と対等な立場で労働条件を決定し、協約等の契約を締結するのであるから、このような労使の関係における協約の解釈、賃金支払条件その他労使の権利義務をめぐる紛争については、訴えを提起するものが弁護士費用を負担すべきである。

原告が、権利を主張して労働委員会に救済の申立てをしたり、裁判所に仮処分を求めたりすることは原告にとつて本来の組合活動そのものであるから、これらの費用は、原告自ら負担すべきものであり、被告会社が負担することは組合活動経費の援助となり、許されない。

(二) 原告の組合員の裁判所出頭(傍聴)費用及び対策会議費、交通費

これらの費用についても右(一)で反論したところがあてはまるが、更につけ加えると、仮処分あるいは労働委員会の手続において、法律上出頭(傍聴)義務が定められているわけではないし、本件の出頭(傍聴)が必要不可欠なものであつたということもできない。また、これらの手続において弁護士である代理人が存するときに組合役員あるいは組合員の出頭(傍聴)あるいは対策会議が定型的に予定されているということはできない。したがつて、これらの費用が相当因果関係の範囲に含まれるということはできない。これらの未確定賃金部分の支払を求める労働委員会及び裁判所への申立て並びにこれらに関連する活動は原告の組合活動そのものであり、その費用は原告が自ら負担すべき組合活動費である。

4 非財産的損害

非財産的損害であつても損害賠償義務が発生するためには現実に損害が発生したことが要件となる。ところが、本件においては、便宜供与並びに五月暫定払、六月払賃金及び夏季一時金のいずれについても前記1、2記載のとおり現実の損害は皆無であつたのであるから、損害賠償義務は発生しない。

名誉毀損以外に法人に金銭で評価しうる非財産的損害が発生すると解する余地はないところ、本件においては、次のとおり、被告会社が原告の名誉を毀損した事実はないのであるから、原告に非財産的損害は発生していない。

法人も社会的に実在し活動し信用を持つものであるから名誉を有しているといえるが、精神を有せず名誉感情はあり得ない。従つて法人の名誉とはもつぱら法人の社会的活動における信用、名声という外的評価そのものにほかならず、法人の信用は法人の目的及び法人が活動し接触する社会領域の範囲によつて自ずとその態様を異にする。労働組合の目的は労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることにあり、かかる労働組合の目的に照らしたとき、労働組合を御用組合であるなどとひぼうした場合は格別、本件の被告会社の行為が原告の信用あるいは名誉を毀損したということはできない。また、原告が理不尽な行為を行つたので被告会社が便宜供与の打切り等の行為を行つた旨を被告会社が流布した事実は全くなく、かえつて原告が自ら教宣活動として広く流布したものであつて、これをもつて被告会社が原告の名誉を毀損したとはいえない。

六 謝罪文掲示について

1 民法七〇九条について

我が国の不法行為制度は明文上明らかなとおり、損害賠償は金銭をもつてその額を定めるものとしており(民法七二二条一項、四一七条)、同法七二三条、不正競争防止法一条の二第二項、著作権法一一五条、鉱業法一一一条のように法律で特に原状回復を定めたもの以外については不法行為の効果として原状回復を認めることはできない。

2 民法七二三条について

前記四の4記載のとおり、原告が被告会社の行為によつて名誉を毀損された事実はない。

3 そもそも、一般新聞紙の全国版への謝罪文の掲示は、本件事案の内容及び原告の損害の程度(現実に損害がないことは前記四の1、2記載のとおり)等を総合勘案すれば、著しく均衡を欠き、原状回復を超える報復的懲罰に他ならず、不法行為制度はかかる懲罰的制裁を容認するものではない。

第三証拠〈省略〉

理由

一  当事者

1  請求原因一の1(ただし、昭和四八年四月当時の原告の組合員数は少なくとも約五六〇名であつたこと。)は、当事者間に争いがない。

2  請求原因一の2は、当事者間に争いがない。

3  請求原因一の3は、被告会社の分裂攻撃により昭和四〇年一二月に重工労組が発足したことを除き、当事者間に争いがない。この争いのない事実に証人深見定男の証言及び弁論の全趣旨を総合すると、昭和四八年四月当時、被告会社の従業員が組織する労働組合としては、原告のほか、(一) 全日本労働総同盟全国造船重機械労働組合連合会三菱重工労働組合(重工労組、当時の組合員数は約七万五〇〇〇名。)、(二) 三菱重工長崎造船労働組合(長船労組、当時の組合員数は三〇余名。)、(三) 全日本造船機械労働組合横浜造船分会(横船分会、当時の組合員数は四〇余名。なお同分会は、昭和四八年七月、原告に加入し、その一分会となつた。)があつたと認められる。

二  被告会社の不法行為について

1  便宜供与打切りによる不当労働行為について

(一)  事実関係

(1) 本件便宜供与の存在

被告会社が昭和二〇年代から昭和四八年三月まで原告に対し本件便宜供与を行つてきたことは、当事者間に争いがない。

(2) 本件便宜供与の成立、継続の経緯

請求原因二の1の(二)の(3)のうち、原告が昭和二六年七月二〇日被告会社との間で東京事務所及び同事務所付設の電話に関する賃貸借契約(期限の定めなし、賃料一か月金五〇〇〇円)を締結し以後賃借してきたこと並びに原告福工分会が福岡地方裁判所昭和四三年(ワ)第一〇一号事件において被告会社との間で同会社は同分会に対し組合事務所(一カ所)を貸与する旨の和解契約を締結したことは、当事者間に争いがない。これらの争いがない事実に、前記(1)記載の事実、成立に争いがない甲第二号証の一、二、第一二号証の二ないし五、第一六号証、乙第一ないし第一七号証、第九一ないし第一〇〇号証、第一〇一号証の一ないし三、第一〇二号証の一、二、第一一二号証の一、二、第一一五ないし第一一七号証、証人畑田薫の証言により真正に成立したと認められる甲第六号証、第一〇号証の一、二、第一一号証の一、四、五、第一二号証の一、第一三、第一四号証、第二〇号証、証人深見定男の証言及び弁論の全趣旨を総合すると、本件便宜供与の成立、継続の経緯は、次のとおりであつたと認めることができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(i) 労働協約等について

(ア) 昭和二〇年から昭和二一年にかけて、被告会社の長崎造船所、下関造船所、福岡工場、広島造船所、広島精機製作所に勤務する従業員によつて、それぞれ労働組合が結成された。これらの労働組合は、結成後間もないころから本件と同様の便宜供与を被告会社から受けていた。しかし、便宜供与に関する労働協約は、一部のものを除いては存しなかつた。

(イ) 被告会社は、昭和二五年一月、東日本重工業株式会社、中日本重工業株式会社及び西日本重工業株式会社に分割された。右(ア)記載の各事業所は、いずれも西日本重工業株式会社に属することになつた。

(ウ) 昭和二六年二月六日、西日本重工業株式会社において、労働組合が一本化され、西日本重工労働組合が結成された。右(ア)記載の各労働組合は、西日本重工労働組合の支部となつた。

(エ) 西日本重工労働組合は、昭和二六年七月二〇日、西日本重工業株式会社との間で、東京事務所及び同事務所付設の電話に関する賃貸借契約(期間の定めなし、賃料金五〇〇〇円)を締結し、これらの引渡しを受けた。

(オ) 西日本重工労働組合と西日本重工業株式会社とは、労働協約締結のための交渉を行い、昭和二七年四月一日、労働協約を締結した。この労働協約には、次のような便宜供与に関する規定があつた。

「第一三条 (1) 組合員は左の各号の一に該当する場合は所定就業時間中に組合活動に従事することができる。

一 中央経営協議会、同専門委員会又は小委員会に出席するとき

二 場所経営協議会、同専門委員会又は小委員会に出席するとき

三 団体交渉に出席するとき

四 予め会社の了解を得たとき

(2) 前項の場合は賃金を支給しない。但し、第一号及び第二号の場合は、所定就業時間内を限り賃金を支給する。

第一四条 組合員が前条による組合活動のため会社業務を離れる場合は予め別に定める様式により所属上長を通じて会社に届出るものとする。

第一五条 会社は、組合が報道、告知及び教育宣伝のため、会社内所定の場所に掲示することを認める。

第一六条 組合は、会社の了解を得て、会社の諸施設その他を利用することができる。但し使用料については会社と組合とで協議する。

第一七条 組合は、組合費、組合加入費の徴収、専従者給与計算事務、専従者保険関係事務を会社に委託することができる。但し代行手数料については会社と組合で協議する。

……………………………………………………………………………………………………

第一九条 組合は組合業務に専従させるため会社の了解を得て組合員中より組合業務専従者を置くことができる。」

また、右労働協約の有効期間は、昭和二七年四月一日から一か年と定められた。

(カ) 西日本重工業株式会社は、昭和二七年五月二七日三菱造船株式会社と改名し、これに伴い、西日本重工労働組合は、三菱造船労働組合と改名した。

(キ) 三菱造船労働組合は、その後全日本造船労働組合に属し、同組合三菱造船支部となつた。これに伴い、三菱造船労働組合の各支部は、分会となつた。

(ク) 昭和三九年六月一日、前記のとおり分割された三社が合併して現在の被告会社となつた。一方、全日本造船労働組合三菱造船支部は、全日本造船機械労働組合三菱重工支部(原告)となつた。

(ケ) 右(オ)記載の労働協約は、昭和四六年五月三一日までは原則として一年ごとに、同年六月一日から昭和四八年二月二八日までは三か月ごとに更新されてきた。労働協約中の便宜供与に関する規定の内容は、ほとんど変わらなかつた。

(コ) 昭和四八年二月二八日当時の労働協約中の便宜供与に関する規定の内容は次のとおりであつた。

「第七条 (組合活動の時間および給与)

(1) 組合員の組合活動は所定労働時間外に行なうものとするが、次の各号の一に該当する場合はこの限りでない。

1 中央経営協議会に出席するとき

2  事業所経営協議会に出席するとき

3  団体交渉に出席するとき

4  あらかじめ会社の了解を得たとき

(2) 前項の場合は賃金を支給しない。ただし、第1号および第2号の場合は、所定労働時間内に限り賃金を支給する。

第八条 (組合活動参加と離席の手続)

(1)  組合は、前条第一項第四号により会社の了解を得る場合は、そのつど事前に会合の種類、日時、参加者等を記載した文書を会社に提出しなければならない。

(2)  組合員が、前条による組合活動のため会社業務を離れる場合は、あらかじめ、別に定める様式により、所属上長を通じて会社に届出るものとする。

第九条 (報道告知)

会社は、組合が報道、告知及び教育宣伝のため、会社内所定の場所に掲示することを認める。

第一〇条 (施設の利用)

組合は、会社の了解を得て、会社の諸施設その他を利用することができる。ただし、使用料については、会社と組合とで協議する。

第一一条 (組合業務の代行)

組合は、組合費および組合加入費の徴収、専従者給与計算事務ならびに専従者保険関係事務を会社に委託することができる。ただし、代行手数料については、会社と組合とで協議する。

……………………………………………………………………………………………………

第一三条 (組合業務専従者)

組合は、組合業務に専従させるため、会社の了解を得て、組合員中より組合業務専従者を置くことができる。

……………………………………………………………………………………………………

第一五条 (上部労働団体の業務執行)

(1)  組合は、会社の了解を得て、組合員中より上部団体の専従者を置くことができる。

(ii) 事業所協定等について

(ア) 長船分会

〈1〉 三菱造船労働組合長崎造船支部は、本件便宜供与と同様の便宜供与を受けていたが、昭和二八年八月六日三菱造船株式会社長崎造船所との間で、労働協約に基づきチエツク・オフの代行手数料を毎月五〇〇〇円と定めた。更に昭和二九年六月一八日には右造船所との間で組合事務所に関する賃貸借契約を締結した。

〈2〉 右支部は、右造船所との交渉を経て昭和三〇年三月一日、右造船所との間で労働協約付帯事業所協定を締結した。その中では便宜供与について次のように定められていた。

「第一条 (組合活動)

労働協約第一二条第一項四号(前掲(i)の(コ)記載の労働協約(以下単に「前掲」という。)第七条第一項第四号にあたる。)により支部が組合員を所定就業時間中に組合活動に従事させる為に場所(事業所)の了解を求めるに当つては原則として二四時間前迄に文書を以て組合活動の種類・日時・場所・参加人員及び所要時間につき勤労部長経由場所(事業所)の了解を求めるものとする

第二条 (離席手続)

労働協約第一二条(前掲第七条にあたる。)による組合活動のため会社業務を離れる場合は別紙(一)の様式に依り所属上長を通じて場所(事業所)に届出るものとする

第三条 (組合掲示)

労働協約第一四条(前掲第九条にあたる。)により支部が報道・告知及び教育宣伝のために掲示するときは場所(事業所)の定めた別紙(二)の掲示板を使用するものとする

第四条 (施設の利用)

労働協約第一五条(前掲第一〇条にあたる。)により会社施設を組合事務所として使用する場合の使用料は月額九〇〇〇円とし細部に関しては別紙(三)組合事務所賃貸借契約に依る

第五条 (代行手数料)

(1) 労働協約第一六条(前掲第一一条にあたる。)により場所(事業所)は毎月支部組合員の賃金より支部に代り支部組合員の組合費を徴収して之を支部に渡す

(2)  場所(事業所)は支部の専従者及び書記の健康保険及び厚生年金に関する事務を代行する

(3)  支部は前二項の代行手数料として毎月五〇〇〇円を場所(事業所)に支払うものとする」別紙(二)には掲示板の位置、大きさが、別紙(三)には、組合事務所の所在地、構造、建坪、使用料等が定められていた。

〈3〉 右協定は、その後原則として一年ごとに更新されてきた。その中の便宜供与に関する規定の内容は、一部変わつたところもあつた。

〈4〉 昭和四三年一〇月一日に原告長船分会と被告会社長崎造船所との間で更新された労働協約付帯事業所協定には、便宜供与について次のとおり定められていた。

「第二条 (組合活動)

分会が分会の組合員(以下組合員という)を所定労働時間中に組合業務に従事させるため事業所の了解を求めるに当つては、原則として二四時間前までに文書をもつて組合業務の種類、日時、場所、参加者氏名および所要時間につき勤労部経由事業所の了解を求めるものとする。

第三条 (離席手続)

組合員が前条の組合業務のため会社業務を離れる場合は、所定の離席票を所属上長に届出るものとする。

2 前項の場合離席票には組合業務の種類、行先、離席期間(時間)を明記するものとする。

第四条 (分会掲示板)

事業所は分会が報道、告知および教育宣伝のため別紙2の掲示板を使用することを認める。

第五条 (施設の利用)

分会は事業所の了解を得て、事業所の施設その他を利用することができる。

2 分会事務所の利用については別紙3の定めによる。

第六条 (組合業務の代行)

事業所は分会の委託により、組合費および組合加入費の徴収、専従者および書記の保険関係業務を代行する。ただし、一人一カ月一円五〇銭の代行手数料を徴収する。」

別紙2には掲示板の位置が、別紙3には組合事務所の所在地、使用料等が定められていた。

〈5〉 右〈4〉の協定は、昭和四四年二月二八日をもつて期間満了となつた。以後、労働協約付帯事業所協定は更新されなかつた。しかし、被告会社は、原告長船分会に対して本件便宜供与を行つていた。

(イ) 下船分会

原告下船分会は、本件便宜供与と同様の便宜供与を受けていたが、昭和四〇年九月一日、被告会社下関造船所との間で、労働協約付帯事業所協定を締結した。この協定には、便宜供与について次のように定められていた。

「第一条 (組合活動)

協約第一二条第一項第四号(前掲第七条第一項第四号にあたる。)により分会が組合員を所定就業時間中に組合活動に従事させようとするときは、原則として二四時間前までに書面を以て事業所に申出て、事前に了解を受けるものとする。

第二条 (離席手続)

協約第一三条(前掲第八条にあたる。)に定める様式は組合執務票とする。

第三条 (掲示)

協約第一四条(前掲第九条にあたる。)に定める所定の場所は分会掲示板とし、その設置場所は次のとおりとする。

(1)  江の浦総合事務所西北側面

(2)  第二船渠西側

(3)  第三通用門打刻場横

(4)  第二工場打刻場横

(5)  大和町工場変電所前通路北側

(6)  舟艇工場事務所玄関西側

第四条 (施設の利用)

協約第一五条(前掲第一〇条にあたる。)に定める諸施設のうち、常時利用できるものは次のとおりとする。

(1)  常時利用できる諸施設

(ア) 組合事務室 一八坪

(イ) 会議室 一四坪

(ウ) 大和町組合事務所 一二坪

(2)  使用料は次のとおりとし、毎月末分会は事業所に支払うものとする。

(ア) 事務所および会議室 月額一〇〇〇円

(イ) 電灯料金 月額 五〇〇円

(ウ) 電話料金 月額 実費

(エ) 水道料金 月額 五〇円

第五条 (代行手数料)

協約第一六条(前掲第一一条にあたる。)に定める組合業務の代行には、分会の雇用する者の給与計算事務ならびに保険関係事務を含めるものとし、代行手数料は月額二、一〇〇円とする。

第六条 (組合業務専従者)

協約第一八条および二〇条(前掲第一三条及び第一五条にあたる。)に定める組合業務専従者は合計一〇名以内とする。」

右協定は、昭和四一年一一月三〇日をもつて期間満了となつた。右協定は更新されなかつたが、被告会社は、原告下船分会に対して本件便宜供与を行つていた。

(ウ) 福工分会

〈1〉 全日本造船労働組合三菱造船支部福岡機械分会(なお、福岡工場は、このころまでに、福岡機械製作所と名称を変え、これに伴い分会の名称も福岡機械分会となつていた。)は、本件便宜供与と同様の便宜供与を受けていたが、昭和三八年一一月一日、三菱造船株式会社福岡機械製作所との間で労働協約付帯事業所協定を締結した。この協定には、便宜供与について次のとおり定められていた。

「第一条 (組合活動)

労働協約第一二条第一項第四号(前掲第七条第一項第四号にあたる。)により支部が組合員を所定時間中に組合活動に従事させるための場所(事業所)の了解を求めるに当つては原則として二四時間前までに別紙(1)の様式により文書を以て組合活動の種類、日時、場所、参加人員及び所要時間につき、総務課経由場所(事業所)の了解を求めるものとする。

第二条 (離席手続)

労働協約第一二条(前掲第七条にあたる)による組合活動のため会社業務を離れる場合は、所属上長を通じて場所(事業所)に届出るものとする。

第三条 (組合掲示)

労働協約第一四条(前掲第九条にあたる。)により、分会が報道、告知および教育宣伝のため掲示するときは、場所(事業所)の定めた別紙(2)の掲示板を使用するものとする。

第四条 (施設の利用)

労働協約第一五条(前掲第一〇条にあたる。)により、会社施設を組合事務所として使用する場合の使用料は月額三〇〇円とし、細部に関しては別紙(3)組合事務所賃貸借契約による。

第五条 (代行手数料)

(1) 労働協約第一六条(前掲第一一条にあたる。)により、場所(事業所)は毎月分会組合員の賃金より分会に代り、分会組合員の組合費を徴収してこれを分会に渡す。

(2) 分会は前項の代行手数料として毎月二〇〇円を場所(事業所)に支払うものとする。」

別紙(2)には掲示板の位置、大きさが、別紙(3)には、組合事務所の所在地、構造、建坪、使用料、被告会社が原告に貸与していた電話の使用料等が定められていた。

なお、組合事務所は、一か所であつた。

〈2〉 被告会社は、昭和四一年五月、原告福工分会(なお、福岡機械製作所は、このころまでに福岡工作部と名称を変え、これに伴い福岡機械分会も福岡工作分会と名称を変えていた。)に対し、右組合事務所の明渡しを求め、別個の建物を提供する旨申し入れた。原告福工分会はこれを拒否したので、被告会社は、昭和四三年に、右組合事務所の明渡請求訴訟を提起した。そして、昭和四四年一一月二五日、裁判上の和解が成立した。その内容は、(a) 原告福工分会は被告会社に対し右組合事務所を明け渡す、(b) 被告会社は原告福工分会に対し別紙「分会事務所及び付属設備使用貸借契約書」のとおり別個の組合事務所を貸与する、というものであつた。

右の「分会事務所及び付属設備使用貸借契約書」には、新たに被告会社が貸与する組合事務所の所在地、建坪、使用料、被告会社が原告に貸与していた電話の使用料、組合事務所等の貸与期間等が定められていた。貸与期間は、昭和四四年一二月一日から一か年であつた。

貸与期間は、昭和四五年一一月三〇日をもつて満了となつたが、被告会社は、その後も貸与を続けていた。

〈3〉 一方、被告会社は、昭和四二年一月及び三月に右の三か所の掲示板のうち二か所を徹去した。原告福工分会は、この行為は不当労働行為にあたるとして労働委員会に救済を申し立てた。昭和四五年一月三〇日、両者の間で、施設利用については労使双方が誠意をもつて協議する旨の和解が成立し、協議が行われていた。残る一か所については、引き続き貸与されていた。

(エ) 広船分会

全日本造船労働組合三菱造船支部広島造船分会は、本件便宜供与と同様の便宜供与を受けていたが、昭和三九年九月一日被告会社広島造船所との間で労働協約付帯事業所協定を締結した。この協定には、便宜供与について次のとおり定められていた。

「第一条 (組合活動)

(1)  協約第一二条第一項第四号(前掲第七条第一項第四号にあたる。)により分会が事業所の了解を求めるときは、原則として開催の前日までに所要事項を記載した書面により行なうものとする。

(2)  略

第二条 (離席手続)

協約第一三条(前掲第八条にあたる。)にいう離席手続には所定の休業票を使用するものとする。

第三条 (掲示)

協約第一四条(前掲第九条にあたる。)にいう所定の場所とは次の各号をいう。

1  観音及び江波工場正門掲示板

2  観音渡船場掲示板

3  各課工場内一カ所(分散している課工場にあつては事務所乃至作業場単位)

4  観音及び江波食堂前掲示板

第四条 (施設の利用)

協約第一五条(前掲第一〇条にあたる。)にいう分会が利用できる施設その他は次の通りとする。

1  事務室及び会議室

(ア)  広船分会

観音工場旧本館北端棟階上東側六九坪及び江波工場木工場西北側一六坪

(イ)  広船職員分会 以下略

2  分会が予め事業所の了解を得た施設その他

……………………………………………………………………………………………………

第六条 (代行手数料)

協約第一六条(前掲第一一条にあたる。)にいう代行手数料は次のとおりとする。

広船分会 月額三五〇〇円

広船職員分会 以下略」

右協定は、昭和四〇年八月三一日をもつて期間満了となつた。右協定は更新されなかつたが、被告会社は、原告広船分会に対して本件便宜供与を行つていた。

(オ) 広機分会

原告広機分会は、本件便宜供与と同様の便宜供与を受けていたが、昭和四一年一月、原告から一括脱退し、名称を三菱重工広島精機労働組合(以下「広機労組」という。)と変更して三菱重工労働組合西日本連合会(以下「西連」という。)に加入した。同年一一月、西連は、被告会社内の他の三労働組合(三菱重工本社労働組合、三菱日本重工労働組合連合、日本労働組合総同盟新三菱重工業労働組合)とともに、三菱重工労働組合連合会(以下「連合会」という。)を結成した。昭和四三年一二月、連合会は、連合会組織から単一組織の重工労組に移行することとなつたが、広機労組においては、この単一組織への移行をめぐつて内部対立が起つた。その結果、約一二〇〇名が広機労組を脱退して重工労組に加入し、広機労組の組合員数は、約一〇〇名となつた。昭和四四年四月、広機労組は解散し、約七〇名が重工労組に加入し、約三〇名が原告に加入して広機分会を構成した。

右広機分会と被告会社広島精機製作所との間で、労働協約付帯事業所協定締結のための交渉が行われた。右交渉は合意に至らなかつたが、被告会社は、右広機分会に対して本件便宜供与を行つていた。

(3) 本件便宜供与打切りに至る経緯

請求原因二の1の(三)の(1)のうち、被告会社は昭和四八年三月三〇日の第九回中経協において「労働協約については、三月末日までは締結することにしたいと前回言つたが、協約の規範的部分について本日の組合の態度から締結できないので、四月一日より効力を失うことになる。一切の便宜供与はなくなるが具体的には事業所より分会へ連絡する。」と通告したこと及び被告会社は原告が被告会社提案の労働者に不利益を強いる労働時間短縮に同意しないとみるや労働時間問題を除いては従前の労働協約事項に何ら争いがないにもかかわらず労働協約の更新を拒否したことを除く事実並びに請求原因二の1の(三)の(2)のうち被告会社が昭和四八年四月二日原告に対し東京事務所及び同事業所付設の電話について便宜供与打切り通告を行つたこと及び被告会社が同日長船分会に対し組合専従者のうち一名は四月一日から職場復帰させる旨通告したことを除く事実は、いずれも当事者間に争いがない。この争いがない事実に、成立に争いがない甲第一号証の一、第二号証の一、二、第二七号証の三、乙第一号証、第三号証、第八ないし第一二号証、第一四、第一五号証、第一七号証、第三二号証の二、第四四ないし第六四号証、第六六ないし第七二号証、第七四号証、第一〇四、第一〇五号証、第一〇六号証の一ないし三、第一〇七号証の一、二、第一〇八ないし第一一一号証、証人畑田薫の証言により真正に成立したと認められる甲第四号証、第五号証の一ないし六、九、第六号証、第二〇号証、第二三号証の三、証人深見定男の証言により真正に成立したと認められる乙第一九号証の一ないし三、第二一号証の一、二、第二二ないし第二五号証、第二六号証の一ないし三、第二八号証の一ないし四、第二九号証の一、二、第三〇号証、第三三号証の二、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第三二号証の一、第三三号証の一、第三四ないし第四〇号証、第四二号証、証人畑田薫(後記採用することができない部分を除く。)、同古木泰男及び同深見定男の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すると本件便宜供与打切りに至る経緯は次のとおりであつたと認めることができる。

(i) 広機問題

(ア)  昭和四四年四月から昭和四六年五月まで

右の間、原告広機分会は、次のようなことを行つた。

〈1〉 政治ストライキ

広機分会は、昭和四五年六月二〇日、「安保反対、三菱の侵略兵器製造抗議」のためのストライキ権を確立した。安保反対は政治的な主張であるし、また兵器生産については労働協約上広機と広機分会との協議交渉事項となりえなかつたので、広機は、同月二二日及び翌二三日午前八時三〇分ころ、広機分会に対し、右ストライキは違法であるから中止するよう申し入れた。しかし、広機分会は、これを無視して同日午後一時五五分から二時間右ストライキを実施した。これに対し、広機は、文書をもつて抗議するとともに、右ストライキを指導した広機分会執行委員長今川澄男及び同書記長山田忠文を同年九月出勤停止処分にした。

〈2〉 ストライキ権濫用による職場離脱

広機分会は、昭和四四年一二月二三日に「不当解雇撤回のための斗争体制」を、昭和四五年九月一八日に「分会二役の不当処分に伴う組織防衛のための斗争体制」をそれぞれ確立したと称し、これらのストライキ権に基づいて、ストライキを行つた。

右の「不当解雇撤回」の「解雇」とは、広機分会員であつた淵上正之及び鈴木範之が、昭和四四年一〇月二一日の国際反戦デー首都圏暴動に参加して逮捕勾留され無断欠勤したことを理由に、被告会社から同年一二月二三日付けで懲戒解雇されたことを、右の「不当処分」の「処分」とは、右〈1〉記載の出勤停止処分をそれぞれ指すところ、これらの事件については、広島地方裁判所で審理が行われており、広機と広機分会との間で団体交渉が行われていなかつたこと、右ストライキの対象者は特定の者に限られていたこと、右ストライキは頻繁に行われたこと、右ストライキの対象者は、ストライキの間政治活動等を行つていたことなどから、広機では、右ストライキは、労使間の紛争を解決する手段として行われるものではなく、政治活動等のための離席の手段にすぎず、ストライキ権の濫用にあたると判断した。そして昭和四六年四月、広機分会及び原告に対して、このことにつき文書をもつて抗議した。しかし、その後も広機分会の態度は変わらなかつた。

広機分会は、昭和四六年五月末日までに、発令回数一四五回、対象延人員二三七名、延時間一一六九時間右ストライキを行つた。

〈3〉 無許可集会等

広機分会は、昭和四四年四月二五日、広機の許可を得ることなく、昼休みに広機の食堂前で春闘総決起大会を開催した。勤労課員が解散するよう言つたが、広機分会は、これを無視した。これに対し、広機は、同年五月七日付け書面をもつて抗議した。

同年六月、広機分会は、広機に対して、同月二八日の昼休みに右食堂前広場で総決起大会を開催したいとの書面による申入れを行つた。広機は、同月二七日付け書面をもつて右食堂前広場の集会は許可できないが、組合事務所周辺の空地でなら差し支えない旨回答した。しかし、広機分会は、これを無視して同月二八日、右食堂前広場で右集会を行つた。これに対し、広機は、同年七月一六日付け書面をもつて抗議した。

その後、広機分会は、事前に広機に対し許可を求めることなく右食堂前において集会を行うようになつた。更に、同年一一月からは集会後に被告会社の許可を得ることなく構内デモ行進を行うようになり、昭和四五年四月ころからは、右食堂前及び食堂内において被告会社の許可を得ることなく拡声器を使つて従業員に演説を行うようになつた。同年六月三〇日には、集会の中止を求めに行つた勤労課員に対し、広機分会の幹部が暴行を加えた。

このような無許可集会は、昭和四四年四月から昭和四六年五月までの間に、三一回行われた。

〈4〉 ビラの掲示・貼付等

広機分会は、現に他の組合や被告会社が使用している掲示板に被告会社の許可を得ることなくビラを掲示した。これに対し広機は抗議をしたが、広機分会は抗議を無視して掲示を繰り返した。

広機分会は、昭和四五年四月二三日、午後〇時五五分から午後三時五五分まで重点指名ストライキを行つたが、その際、スト対象者が、広機の退去命令にもかかわらず、他の従業員が作業している工場内を歩き回り、スト対象者の機械に「スト決行中」と大書した半紙大のビラを貼付した。勤労課員がこれを撤去しようとしたところ、そのスト対象者は、大声でわめき、実力をもつて右撤去を妨害した。これらのために、周辺で作業していた従業員の正常な業務の運営が妨げられた。

広機分会は、同月二八日午後〇時〇五分から翌二九日午前八時〇五分まで全員ストライキを行つたが、その際、広機分会員が、ハチ巻、腕章姿で他の従業員が作業している工場内を歩き回り、被告会社の禁止命令を無視して「スト決行中」と書いたビラを広機分会員が使用していた機械、器具、机上等に貼付した。勤労課員が右貼付を制止しようとしたところ、広機分会員は大声でわめき、勤労課員に組みつくなど実力をもつて右制止を妨害し、勤労課員を負傷させた。これらのために、周辺で作業していた従業員の正常な業務の運営が妨げられた。このようなビラの掲示、貼付は、昭和四四年四月から昭和四六年五月までの間に四四回行われた。

〈5〉 ビラの配布

広機分会は、入場時又は退場時に不特定多数の者に門前でビラを配布することができたにもかかわらず、昭和四四年一〇月二一日及び三〇日、被告会社の許可を得ることなく、休憩時間中に広機の食堂前でビラを配布した。これに対し、広機は口頭で抗議したが、広機分会は、同年一一月五日及び七日にも同様の行為を行つたので、広機は、同月一〇日付けの書面をもつて、広機分会に対し抗議した。

その後も広機分会は、広機の抗議にもかかわらず同様の行為を繰り返した。このようなビラの配布は、昭和四四年一〇月から昭和四六年五月までの間に二四回行われた。

(イ)  昭和四六年五月から同年八月まで

〈1〉 被告会社は、右(ア)記載の各行為は、労働協約及びその精神に違背する行為であると判断した。そして、広機分会が、このような行為を広機の抗議にもかかわらず繰り返している以上、広機分会に対する原告の統制責任を問うほかはないと考えた。

〈2〉 昭和四六年五月二四日に行われた団体交渉において、原告は、同月末日をもつて期間満了となる労働協約を、そのままの内容で一か年間更新したい旨述べた。これに対し、被告会社は、「会社としては一部の分会の最近の争議行為等の状況を見ると、すでにこの点については該当勤労課より抗議を行つているが、どうも協約及びその精神にもとつた行為が多いのではないかと考える。このような行為が今後も引き続き行われるとすれば、協約の存在が無意味になると考えるので、そういう点の約束がどうしても必要であり、今の状況では、協約の更新を見合さざるをえないと考える。」と述べた。これに対し、原告は、「組合としては考え方として労働協約の精神に沿つたやり方で来たし、今後もそのとおり進めるつもりである。ただ、現実的、具体的な問題としては、広機の事業所・分会間で問題が発生しているかも知れないが、もし会社側で分会に行きすぎがあると判断されたのであれば、それはそれとして指摘されれば、支部においてまた必要があれば分会において論議すべきと考える。組合としては協約の精神に違反する運営をする意思は毛頭ないことを表明する。」と述べた。しかし、広機分会に対し協約を遵守させる旨の確約は行わなかつた。

同月三一日に行われた団体交渉において、被告会社は、「前回会社としては残念ながら今の状況では新協約の締結を見合せざるをえないと考えていると申し上げたが、率直にいつて協約の期限切れとなる本日においてもその気持に変わりはない。しかし、これまでの労使関係を考えると直ちに無協約にしたり一部の分会のみを適用除外にしたりすることは望ましくないと判断するので、取りあえず三か月間に限り延長のこととしたい。」と述べた。これに対し、原告は、同年六月二二日に行われた団体交渉において、三か月を限り延長するとの会社提案をやむをえず了承する旨述べた。

以上の結果、労働協約は、同月一日にさかのぼつて有効期間三か月間の約定で更新された。

〈3〉 右の間にも、広機分会は、同月一六日に広機の食堂前において被告会社の許可を得ることなく沖縄返還協定に抗議しようという趣旨のビラを配布し、同月一七日に右食堂前において被告会社の許可を得ることなく同趣旨の集会を開いた。そして、右集会を制止に行つた勤労課員に広機分会員が暴行を加えた。

また、広機分会は、前記(ア)の〈2〉記載のストライキを、同月から同年八月までの間に、のべ二四三時間行つた。

〈4〉 同年八月一八日に行われた団体交渉において、被告会社は、「去る六月一日付けで締結した労働協約に関する協定は八月末をもつて期間満了となるが、この協定締結の際にも申し上げた組合さん下の一部分会の協約の趣旨に反する行動は遺憾ながらその後も改まつていない。労働協約を締結するということは少なくとも協約の有効期間中は労使紛争の防止に努力しようということで、これが協約は労使のマグナカルタと言われる所以であるが、一部の分会では協約に規定がないことをいいことにして変つた形のストライキを多発しており、協約締結の趣旨にもとるものと言わざるをえない。こうした状況について会社としても検討した結果、この段階で労使関係を紛糾させるのは本意でないので、取りあえず九月一日以降も前回と同様有効期間三か月の労働協約を締結することとしたい。しかしながら、今後ともこうした紛争が続く場合は新たに締結する労働協約の有効期間満了となる一一月末の時点で、そのままの状態で協約を締結できるかどうか考慮せざるをえないと思われるので、あらかじめこうした会社の考え方を申し上げるとともに、組合として労働協約締結にふさわしい態度をとられるよう努力されることを要望する。」と述べた。これに対し、原告は、「組合としては期間一年間の協約を締結したいと考えている。現在のところ、会社と組合、事業所と分会の関係で一部に発生している事件を含めて考えてみても、これまでの労使慣行に照らして協約の精神に沿つて行われていると判断している。事業所と分会の紛争は当事者で解決すべきではあるが、それが組合全体の問題となるということであれば、なぜそうした問題が出るのかという点についてもつと具体的に論議し検討してみたい。」と述べた。

同月二七日に行われた団体交渉においても、原告と被告会社との間で、同様の議論が行われた。議論の後、原告は、「組合内部で解決すべきことは解決したい。統制の問題も十分認識している。協約締結についてはやむをえず会社提案どおりで了承する。」と述べた。

以上の結果、同年九月一日から三か月間の約定で労働協約が更新された。

(ウ)  昭和五六年九月から同年一一月まで

〈1〉 広機分会は、同年一〇月二一日、広機の食堂前において被告会社の許可を得ることなく拡声器を使つて「佐藤内閣打倒、沖縄返還粉砕」等の演説を行うとともに同趣旨のビラを配布し、更には、被告会社の許可を得ることなく被告会社が使用していた掲示板にビラを掲示した。そして、これらを制止しようとした勤労課員に対し広機分会員が暴行を加えた。

広機分会は、同年一一月一九日、昼休みに右食堂前において被告会社の許可を得ることなく集会を行い、拡声器を使つて沖縄返還協定阻止等の演説を行つた。更に、同日午後二時五五分から午後三時五五分までの全員ストライキの際には、赤旗やプラカードを持つてシユプレヒコールをしながら構内デモ行進を行つて、他の従業員の業務の正常な運営を妨げた。そして、これを制止しようとした勤労課員に対して、広機分会員が暴行を加えた。

広機分会は、右のほか、同年九月から同年一一月までの間に、無許可集会を二回、無許可のビラ掲示・貼付を五回行つた。

また広機分会は、前記(ア)の〈2〉記載のストライキを、右期間に、のべ一二三時間行つた。

〈2〉 右のような状況の中で、同年一一月一三日、原告と被告会社との団体交渉が行われた。この交渉において、原告は、同年一二月一日から一か年間労働協約を締結したい旨述べた。これに対し、被告会社は、「去る九月一日付けで締結した労働協約に関する協定は、今月末日をもつて有効期間満了となるが、この協定締結の際に、三菱支部全体として事態の改善を図られることをご要請した点については遺憾ながら依然として改まつていないと考える。したがつて、その時にも申し上げたように会社としては労働協約を存続していく基盤が欠如していると判断せざるをえないと考えるが、労使関係を紛糾させるのは本意でないので、再度三菱支部全体として事態の改善について努力することを条件として、一二月一日以降も前回と同様有効期間三か月の労働協約を締結することと致したい。」と述べた。

同月二六日に行われた団体交渉において、原告は、「三か月の締結には問題があり、きわめて不満であるが、やむなく了承したい。」と述べた。

以上の結果、同年一二月一日から三か月間の約定で労働協約が更新された。

(エ)  昭和四六年一二月から昭和四七年二月まで

〈1〉 広機分会は、同月二三日午後三時三〇分ころ、前記(ア)の〈2〉記載のとおり懲戒解雇された淵上正之及び鈴木範雄をして、広機所長執務室に乱入させた。淵上及び鈴木は、これを制止しようとした総務部長以下の者に暴行を加えた。更にその後、広機分会委員長ほか七名の分会員が、広機の事務所の玄関及び裏口を占拠し、トラツクを構内に乗り入れ、被告会社の退去命令を無視して、横断幕を張り、プラカードを掲げ、シユプレヒコールや座り込みを行つた。そして、これらを制止しようとした勤労課員に暴行を加え負傷させた。これらに対し、広機は、昭和四七年二月七日付け書面をもつて広機分会に対して抗議した。

また広機分会は、昭和四六年一二月から昭和四七年二月までの間に、無許可のビラ配布を三回、前記(ア)の〈2〉記載のストライキをのべ約一一二時間行つた。

〈2〉 右のような状況の中で、昭和四七年二月一二日、原告と被告会社との団体交渉が行われた。この交渉において、原告は、同年三月一日から一か年間の期間で労働協約を更新したい旨述べた。これに対し、被告会社は、同月二五日の団体交渉において「依然として協約の精神にもとるような状況が一部に見られ、このままでは協約の締結が難しいと思う。組合として責任ある回答を求める。」と述べた。両者の間で議論が行われた後、原告は、「我々としては、協約の精神を踏みにじる気持は毛頭ないし、また今後もそのようなことのないよう指導していくつもりである。」と述べた。これに対し、被告会社は、「釈然としないものはあるが、労働協約の精神を尊重してもらうということで、協約を三か月間締結することとしたい。」と述べた。この後休憩に入り、休憩後原告から「労働協約は最低一年間で締結したいと考えているが、会社提案をやむをえず了承する。」との回答があつた。その結果、同年三月一日から三か月間の約定で労働協約が更新された。

(オ)  昭和四七年三月から同年五月まで

〈1〉 広機分会は、昭和四七年三月三一日、昼休みに食堂内において集会開催と称し、被告会社の許可を得ることなく拡声器を使つて演説を行つた。そして、これを制止しようとした勤労課員に対し、広機分会員が、暴行を加え、負傷させた。

広機分会は、同年四月一一日出勤時に、広機の北門内において被告会社の許可を得ることなく拡声器を使つて演説を行つた。そして、これを制止しようとした勤労課員に対し、広機分会員が暴行を加えた。更に、同月一三日及び二一日にも、同様の行為を行つた。

広機分会は、同年四月一二日に全員ストライキを行つた際に、被告会社の退去命令を無視して、約一〇分間にわたり、赤旗やプラカードを押し立て、拡声器で呼びかけシユプレヒコールをする等しながら広機の工場内をデモ行進し、他の従業員の正常な業務の運営を妨げた。更に、同月一八日には約二五分間、同月二八日には約三〇分間、同様の行為を行つた。

広機分会は、同月二一日には、被告会社の退去命令を無視して約一時間にわたりプラカードを押し立てて右工場内を巡回し、他の従業員の正常な業務の運営を妨げた。更に、同月二六日には約三〇分間同様の行為を行つた。

広機分会は、同月二七日には、昼休み直前に、被告会社の許可を得ることなく右食堂の入口の扉に多数のビラを貼付した。

広機分会は、右のほか、同年三月から同年五月までの間に、無許可集会を二〇回、無許可のビラ配布を三回、無許可のビラ掲示・貼付を一〇回行つた。

また広機分会は、前記(ア)の〈2〉記載のストライキを右期間に、のべ約七二時間行つた。

〈2〉 右のような状況の中で、同月一二日、原告と被告会社との団体交渉が行われた。この交渉において、原告は、被告会社に対し、同年六月一日から一年間労働協約の期間を延長してほしい旨述べた。これに対し、被告会社は、同月一八日に行われた団体交渉において「会社としては既に何度も繰り返し申し入れているような協約の精神にもとる行為が一部で継続しており、全く不本意ではあるが、組合として是正に努力されているということであり、それに期待して再度三か月間協約を締結することと致したい。」と述べた。これに対し、原告は、同月三〇日に行われた団体交渉において「有効期間は一年間とすべきという組合の考え方は変つていないが、現実の処理として今回の場合三か月間ということでもやむをえず了承したい。」と述べた。その結果、同年六月一日から三か月間の約定で労働協約が更新された。

(カ)  昭和四七年六月から同年八月まで

〈1〉 広機分会は、昭和四七年六月二四日昼休みに、被告会社が使用している掲示板に被告会社の許可を得ることなくビラを掲示した。そこで勤労課員がこれを撤去し再度貼付しないよう言つたところ、広機分会員数名が、勤労課員に対し、暴行を加え、負傷させた。

広機分会は、右のほか、同年六月から同年八月までの間に無許可集会を四回、無許可のビラ配布を五回、無許可のビラ掲示・貼付を四回行つた。

また、広機分会は、前記(ア)の〈2〉記載のストライキを、右期間に、のべ九四時間行つた。

〈2〉 右のような状況の中で、同年八月七日に原告と被告会社との団体交渉が行われた。この交渉において、原告は、同年九月一日から期間一年間の労働協約を締結したい旨述べた。これに対し、被告会社は、同月二五日に行われた団体交渉において「会社としてはこれまで何度も申し上げてきたような状態が依然として継続していると考えるので、遺憾ながら更に三か月間協約を締結することとしたい。」と述べた。これに対し、原告は、同年九月四日に行われた団体交渉において「協約を三か月毎に締結するということは問題を感ずるが現実処理の必要からやむをえず今回は三か月間で締結することとしたい。」と述べた。その結果、労働協約は同月一日にさかのぼつて有効期間三か月間の約定で更新された。

(キ)  昭和四七年九月から同年一一月まで

〈1〉 広機の従業員であつた尾方正紀は、飲酒のうえ乗用車を運転して死傷事故を起こし有罪判決を受けた。同人は重工労組に所属していたので、広機は、重工労組広機支部と懲戒委員会を開いたうえで、同人を出勤停止処分にしようとしたところ、同人は重工労組を脱退して原告に加入した。そこで、広機は、広機分会と懲戒委員会を開いたうえで、同年九月一二日、同人を出勤停止一〇日間に処した。すると広機分会員七名ないし九名が、尾方の出勤停止期間である同月一三日から同月二六日にわたり、連日同人の強行就労と称して同人を先頭に広機の構内に入ろうとし、これを警告、制止しようとした勤労課員に暴行を加え、負傷させた。また、同月一八日、一九日、二二日には、広機分会員が尾方の職場である第一大型機械工場に被告会社の退去命令を無視して居座り、拡声器で演説をするなどして、他の従業員の正常な業務の運営を妨げた。更に、同月一九日には、広機分会員八名が勤労課長宅糾弾闘争と称して勤労課長宅に押しかけ、同人宅に無断で侵入するなどした。

また、広機分会は、同年九月から同年一一月までの間に、無許可集会を一四回、無許可のビラ配布を四回、無許可のビラ掲示・貼付を二回行い、前記(ア)の〈2〉記載のストライキをのべ約一一四時間行つた。

〈2〉 右のような状況の中で、同年一一月一三日、原告と被告会社との団体交渉が行われた。この交渉において原告は、現労働協約を同年一二月一日から一年間延長したい旨述べ、これに対し、被告会社は、「現状のままの状態では、お申入れどおり一年間協約を締結することは難しいと考える。」と述べた。同年一二月四日に行われた団体交渉において、被告会社は、「前回現在のような状況では組合案どおり一年間の協約は締結することは難しいと申し上げたが、会社としては再度組合側の事態改善のための努力を期待して、三か月間の協約を締結することをご提案する。」と述べ、これに対し、原告は、「現行協約の有効期限も切れており、やむをえず了承する。」と述べた。その結果、労働協約は、同年一二月一日にさかのぼつて有効期限三か月間の約定で更新された。

(ク)  昭和四七年一二月から昭和四八年二月まで

〈1〉 広機は、右(キ)の〈1〉記載の、尾方の処分に端を発した一連の事件について、広機分会執行委員長今川澄男及び尾方を処分することにした。そして、昭和四七年一二月一二日、一三日の両日、両名に対する事情聴取を行い、同月一五日に懲戒委員会を同月一八日開催する旨、広機分会に対して申し入れた。これに対し、広機分会は、合理的な理由を示すことなく延期の申入れを行つた。広機は、その後日時を改めて、何度か開催を申し入れた。しかし、広機分会は、これらについても延期を申し入れ、そのうえ、今川及び尾方に対する事情聴取は支配介入にあたると主張して、広機に対し団体交渉開催の申入れを行つた。広機は、団体交渉に応じることにし、団体交渉の会議場に交渉委員を待機させたが、広機分会は、団体交渉に出席しなかつた。そこで広機は、広機分会に対し、同月二六日に懲戒委員会を開催する旨申し入れた。広機分会側委員は出席しなかつたが、広機側委員は、同日懲戒委員会を開き、今川については出勤停止七日、尾方については出勤停止三日に処することを決定した。そして、同人らは、同年一二月二七日これらの処分を受けた。すると、広機分会員九名が、今川及び尾方の出勤停止期間である同月二八日、二九日及び昭和四八年一月八日ないし一一日(ただし、尾方の出勤停止期間は、昭和四七年一二月二八日、二九日及び昭和四八年一月八日)に、今川及び尾方(ただし、尾方は、右の三日間のみ)の強行就労と称して、同人らを先頭に広機の構内に入ろうとし、これを警告、制止しようとした勤労課員に対し、暴行を加え、負傷させた。

広機は、たび重なる暴行事件に耐えかねて、広機分会員を告発した。また、被害者らも各自告訴した。その結果、広機分会員九名が逮捕され、うち五名が傷害、暴行等により起訴され、うち四名がすでに有罪の判決を受けた。

また、広機分会は、昭和四七年一二月から昭和四八年二月までの間に、無許可集会を一〇回、無許可のビラ配布を五回、無許可のビラ掲示・貼付を一回行い、前記(ア)の〈2〉記載のストライキをのべ約二四二時間行つた。

〈2〉 右のような状況の中で、昭和四八年二月八日、原告と被告会社との団体交渉が行われた。この交渉において、原告は、現行の労働協約と同一の内容で同年三月一日から有効期間一年間の労働協約を締結したい旨述べた。これに対し、被告会社は、同月二七日に行われた団体交渉において「これまで一部の分会の行為につき、問題点が改善されることを期待して三か月ごとに労働協約を締結してきたが、現状は一段と厳しいものになつてきており、労働協約の有効期間の論議以前に労働協約自体をどうすべきかという基本的な問題を考えざるをえなくなつてきている。しかしながら、会社としても直ちに無協約とするのでなく、取りあえず次回交渉日までこれまでの協約に基づく便宜供与等の取扱いを継続するので、組合内部においても協約の趣旨を生かす道を検討されたい。」と述べ、労働協約の更新の問題は継続交渉となつた。

(ii) 労働時間短縮問題

(ア)  被告会社は、原告その他の各労働組合と合意のうえ、昭和四七年一月一日から隔週週休二日制を実施した。これは、従来、週休一日(日曜日)、一日の労働時間七時間であつたのを、日曜日に加え、毎月第一、第三、第五の各土曜日を休日にするとともに、一日の労働時間を七・五時間としたものであつた。

被告会社は、右隔週週休二日制を実施するにあたつて、原告その他の各労働組合と労働時間短縮に伴う生産諸対策について合意した。その中に始終業に関する基準があつたが、その内容は次のとおりであつた。

始業前

始業に間に合うよう更衣などを完了し、作業場に到着する。

始業

所定の始業時刻に作業場において実作業を開始する。

午前の終業

所定の終業時刻に実作業を中止し、その後、食堂、休憩所へ向う。

午後の始業前

午後の始業に間に合うよう遊戯などをやめて、作業場に到着する。

午後の始業

所定の始業時刻に作業場において実作業を開始する。

終業

所定の終業時刻に実作業を終了する。

終業後

手洗、洗面、入浴、更衣などを行う。

残業時

前記各項に準ずる。

(注)1 管理、設計部門等においても、この基準に準じて運営する。

2 船内作業者(沖係留船を除く。)については「船」を作業場とする。

したがつて、作業場到着とは乗船を完了することをいい、終業時に実作業を終了し作業場を離れるとは、下船を開始することをいう。

3  用語の定義は次のとおりとする。

(1)  実作業

始業付帯作業、本作業及び終業付帯作業

(2)  始業付帯作業

準備体操、朝礼、動力源・治工具・材料等の段取、図面・作業指示書等の点検、機械装置の注油・点検及びならし運転等の作業

(3)  本作業

本来の作業

(4)  終業付帯作業

製品・部品の整理・防錆その他保全処置、機械・装置・運搬車両等の停止・火止め・点検整備、治工具・計測具等の整理、残材の回収・整理等の作業」

(イ) 昭和四七年一〇月、一一月に、原告をはじめとする被告会社内の四労働組合から被告会社に対し完全週休二日制実施の要求が行われた。各労働組合の要求の内容は、次のとおりであつた。

〈1〉 原告の要求

「(a) 一日の所定内労働時間は現行通りとし、毎週土曜日を休日とする。

(b) 賃金は時間短縮前の基準内賃金を確保する。

(c) 実施期日は妥結後とする。

(d) 昭和四七年一月一日実施の始終業管理基準(前記(ア)記載の始終業に関する基準)を次の通り改正する。

更衣、手洗い、洗面(入浴)は時間内とし、休憩時間は完全に与えることとする。

具体的には事業所・分会間で協議する。」

〈2〉 重工労組の要求

「(a) 労働時間

(α) 労働日の労働時間は、一日八時間とする。

(β) 始業・終業時間及び休憩時間については、支部・事業所間で別途協議決定する。

(b) 休日

休日はつぎのとおりとする。

(α) 日曜日

(β) 土曜日

(γ) 以下略

(c) 賃金措置

(α) 所定内賃金は、現行賃金を維持する。

(β) 時間割賃金の算定にあたつては、一か月平均の所定労働時間数を一六五時間とする。」

〈3〉 長船労組の要求

実働一日七時間、週休二日とする。

〈4〉 横船分会の要求

原告とほぼ同じ。

(ウ) 昭和四七年一二月二五日に行われた団体交渉において、被告会社は、原告に対して、右要求に対する回答を行つた。その内容は、次のとおりであつた。

「別途、成案を得た後提示する生産対策上の問題、賃金取扱い上の問題、特殊勤務者の取扱いその他関連諸問題の具体的処理につき労働組合の協力が得られることを前提に、基本的には、次の内容にて完全週休二日制を実施する。

〈1〉 労働日の所定労働時間は八時間とする。

〈2〉 毎週土曜日を休日とし、その他の休日は現行どおりとする。

〈3〉 所定労働時間内賃金は現行どおりとする。

〈4〉 実施期日は昭和四八年四月一日からとする。」

右回答に対し、原告は、一日の労働時間の延長に反対するとの態度を示した。

また、被告会社は、昭和四七年一二月、他の三労働組合に対しても原告に対するのと同じ内容の回答を行つた。重工労組は、昭和四八年一月一六日、右回答を了承したが、長船労組及び横船分会は、原告と同様の態度を示した。

(エ) 昭和四八年一月二二日に行われた団体交渉において、被告会社は、原告に対し、完全週休二日制実施に伴う、生産諸対策、特殊勤務者の取扱い等について提案した。生産諸対策に関する提案の内容は、次のとおりであつた。

「〈1〉 隔週週休二日制実施時に協定した事項の完全励行

前回、時短に伴う諸対策として八項目にわたり協定し、事業所ごとに推進をはかつてきたが、不十分な点が多々みられ、この際次の点を中心に完全励行を期したいと考えているので御協力願う。

(a) 始終業管理の改善

改善すべきは改善し、前回設定した全社統一の始終業基準の完全励行を期す。

(b) 勤怠把握方法の改善

自己申告と所属長の確認に基づく新しい勤怠把握方法をいまだ導入していない事業所については、できる限り早期に実施する。

(c) 時差勤務の活用

連続操業を要する業務、事前準備作業、メインテナンス業務あるいはサービス応待業務等の時差出勤及び時差休憩はより一層積極的に活用する。

(d) 特定の者に関する休日振替の活用

特定の者についての休日振替は、週休二日制の趣旨を生かすためにも必要であり、この際、修繕船工事、現地据付工事あるいは動力及び設備の保守・整備部門、連続操業を要する部門をはじめとして、進水入出渠関係機械計算関係等についても、必要に応じ積極的に活用する。

〈2〉 休日労働の運用

時短の趣旨を生かすため、会社として、時間外労働及び休日労働の増加は、極力避けるよう努めるのは当然であるが、当面工事量消化のため、休日労働を従来以上に要請する場合も想定されるがその際はご協力願う。

〈3〉 変則勤務の活用

変則勤務は、工場設備の有効活用、稼動率の向上のため、あるいは公害(騒音)対策上有効な勤務形態であるので、積極的に活用をはかる。更に、今後は、一定の勤務割を組んで、交替で継続的に行う変則勤務も実施したいのでご了承願う。

〈4〉 修繕船部門対策

何とか時短の趣旨を生かし、かつ支障なく生産遂行をはかるため、(a)休日振替の活用、(b)交替制勤務の活用、(c)変則勤務の活用等の対策を積極的に講じる。

〈5〉 現地工事対策

現地工事関係は、その作業の特殊性から隔週週休二日制実施後も現実問題として休日出勤が多くなり時間外労働時間は減少していない。会社としては、時短の趣旨を生かしかつ支障なく生産遂行をはかるべく(a)客先に対するPR、(b)納期・工程の配慮、(c)現地工事管理体制の見直し、(d)要員の育成・増強に努力するとともに(a)交替制勤務の活用、(b)変則勤務の活用、(c)休日振替の活用等の対策も推進する。」

右提案に対し、原告は、右〈1〉の(a)記載の始終業基準の完全励行に反対するとともに、前記(イ)の〈1〉の(d)記載の始終業基準の改正を求めた。一日の労働時間の延長に反対するとの態度は変えなかつた。

また、被告会社は、昭和四八年一月、他の三労働組合に対しても、原告に対するのと同じ内容の提案を行つた。

(オ) 昭和四八年二月八日に行われた団体交渉において、被告会社は、原告からの質問に答えるとともに、時間短縮は、生産関係をはじめ経営全般に大きな影響を与えるものであり、実施期日の最低一か月前に妥結しておく必要があるので、原告においても早急に検討してほしい旨述べた。原告は、前回(同年一月二二日の団体交渉)と同様の態度を示した。

(カ) 昭和四八年二月二七日に行われた団体交渉において、被告会社は、原告に対し、完全週休二日制実施に伴う賃金取扱いについて提案した。そしてその後、前回(同月八日の団体交渉)今月末までには解決できるよう組合側の検討を求めていたが、その結果を聞きたい旨述べた。これに対し、原告は、前回と同様の態度を示した。

また、被告会社は、同月、他の三労働組合に対しても、原告に対するのと同じ内容の提案を行つた。

(キ) なお、重工労組は、昭和四八年三月七日に、被告会社との間で生産諸対策等を含めてすべて妥結した。長船労組は同年四月六日に、横船分会は同年三月二六日に、労働時間及び休日につき被告会社の回答を受諾した。

(iii) 労働協約の更新拒否

(ア) 昭和四八年三月一五日に、原告と被告会社との団体交渉が行われた。

〈1〉 右団体交渉において、原告は、広機問題につき特段の態度を示さなかつた。

〈2〉 また、労働時間短縮問題については、右団体交渉において次のようなやりとりが行われた。

原告は、被告会社に対して、「労働時間短縮に関する会社回答は、一日の労働時間を延長し、生産諸対策を前提とするものであつて、現段階では了承できない。」と述べた。これに対し、被告会社は、「生産諸対策は前回時間短縮に際して提案し組合の了解も得て実施しているものを基本的に変えようというものではなく、今回時間短縮に際し新たに提示した条件ではない。中央で妥結できないので事業所でその具体的内容を提案することもできず、このままでは事業所で協議する時間もなくなつてしまう。したがつて早急に事業所から分会に対して補完説明することとしたい。」と述べた。これに対し、原告は、四月一日に完全週休二日制を実施することを前提としての説明ならば受けられないが、中央での提案に対する補完説明であれば受ける旨述べ、被告会社もこれを了承した。

〈3〉 更に、右団体交渉において、労働協約の更新につき次のようなやりとりが行われた。

被告会社は、原告に対して、「協約締結についての会社の考え方は前回(同年二月二七日の団体交渉)申し上げたとおりであるが、これまでの労使関係も考慮して今月一杯は前回までと同じ内容の労働協約を締結する。」と提案するとともに、「四月一日以降は、一部の分会の問題もさることながら、労働協約の重要な要素となつている基本的な労働条件としての労働時間及び休日の問題について労使協議が整わない以上、協約は締結できないことになるので、あらかじめお含みおかれたい。」と述べた。これに対し、原告は、「労働時間及び休日の条項については話合いがつかないにしても他の条項で不一致はない。」など述べるとともに、「一か月間締結については検討のうえ、次回に返答する。」と述べた。

(イ) 昭和四八年三月三〇日に原告と被告会社との団体交渉が行われた。

〈1〉 右団体交渉において、原告は、広機問題につき特段の態度を示さなかつた。

〈2〉 また、労働時間短縮問題については、右団体交渉において次のようなやりとりが行われた。

原告は、被告会社に対し、「会社提案は、生産諸対策への協力を前提に時間短縮を実施するというものであり、これを了承することはできない。我々は、一日の労働時間を延長せず週休二日制を実施するよう要求しており、会社はさらに検討し、我々の要求を受け入れてほしい。また、始終業管理について、我々はその改善を要求しているにもかかわらず、会社は何らこれに応えていない。会社の再考を要請する。」と述べた。これに対し、被告会社は、「時間短縮については、秋に組合の要求を受けて以来、長期にわたつて協議を重ね、会社としては事業所において生産対策上の具体案を妥結前に分会に示す等前例にないようなことまでして、誠心誠意解決の努力を図つてきたが、こうした土壇場になつて本日のような組合態度をうかがい、誠に遺憾である。ご承知のように、会社の業務は各人が同じ労働時間帯で働かなければ意味がなく、むしろ安全上問題のある業務がほとんどであり、それだけに会社としてはこれまでも共同作業については同一の勤務・賃金取扱いで終始してきた。四月一日以降は、大多数の社員が先般来会社が回答申し上げてきた内容で勤務につくことになつており、貴組合員についてこれと異なる取扱いをすることは、すべての業務管理上ゆゆしい問題に発展することになるので、会社としては、全社員に同一の労働条件で働いていただく以外は方法はないと考える。なお、会社としてはあくまで本件の妥結を希求しているので、今後とも協議を続けたいと考える。」と述べた。

〈3〉 更に、右団体交渉において、労働協約の更新につき、次のようなやりとりが行われた。

被告会社は、「労働協約については、今月末まで締結する旨前回回答し、組合から検討する旨態度を承つているが、広機問題はさておいても、その規範的部分の中できわめて重要と考えられる労働時間について、本日妥結できない旨組合態度を表明された結果、会社としては四月一日以降協約を締結しようにも締結できない立場に追い込まれた次第である。したがつて、四月一日以降労働協約は効力を失うこととなるので、会社としては、残念ながら労働協約に基づく一切の便宜供与を撤廃せざるをえないことになる。具体的には事業所から分会に対して申入れのこととする。」と述べた。これに対し、原告は、「休日、労働時間が会社として重要な問題であるとしても、それについて合意が成立しないことを理由に、これまで一つ一つにつき十分協議し存続してきた労働協約全体を破棄するということは、組合が、労働時間短縮についての会社提案を了承しないことに対する報復措置であり、宣戦布告をされたとしかいいようがない。」と述べた。

(iv) 本件便宜供与の打切り

被告会社は、東京事務所及び同事務所付設の電話以外の本件便宜供与につき、別紙便宜供与一覧表「通告日」欄記載のとおり昭和四八年四月一日あるいは二日、原告及び各分会に対し、同表「通告内容」欄記載の便宜供与打切り通告(ただし長船分会の組合専従に関する打切り通告は、「組合専従者のうち一名は四月二〇日から、二名は六月一日から職場復帰させる」との内容であつた。)を行つた。更に、同月三日以降一部の便宜供与の打切りを行つた。

なお、証人畑田薫は、被告会社は同年四月二日原告に対し東京事務所及び同事務所付設の電話につき便宜供与打切り通告を行つた旨証言するが、この証言は証人深見定男の証言に照らしにわかに信用することができず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

(二) (一)で認定した事実に基づき、本件便宜供与の打切りに関し不当労働行為が成立するかどうかについて判断する。

(1) 本件便宜供与の法律関係について

(i) 労働協約上の権利としての本件便宜供与

(ア) 前記(一)の(1)及び(2)記載の事実を総合すると、〈1〉原告(その前身の労働組合)は、昭和二〇年代から昭和四八年三月まで、被告会社(その前身の会社)から、本件便宜供与と同様の便宜供与を受けてきた、〈2〉昭和二七年四月、原告の前身である西日本重工労働組合と被告会社の前身である西日本重工業株式会社との間で労働協約が締結され、本件便宜供与のうち、時間内組合活動については一三条及び一四条で、掲示板については一五条で、組合事務所、電話及び構内郵便については一六条で、チエツクオフについては一七条で、組合専従については一九条でそれぞれ定められた、〈3〉右労働協約は、その後昭和四八年二月まで更新され続けたが、その間、便宜供与に関する規定の内容はほとんど変わらなかつた、〈4〉原告の各分会と被告会社の各事業所との間では、労働協約付帯事業所協定が締結され、便宜供与の細部について定められた、と認められる。これらの事実からすれば、昭和二七年四月以降、本件便宜供与は労働協約及び労働協約付帯事業所協定に基づいて継続されてきたものと解するのが相当である(ただし、東京事務所及び同事務所付設の電話は、後記のとおり労働協約に基づいて継続されてきたものではない。)。

(イ) 右労働協約には、前記(一)記載のとおり期間が定められていたが、原告は、本件便宜供与に関する労働協約の規定は昭和二八年以降約二〇年間にわたり期間満了ごとに更新されてきたのであるから、昭和四八年四月当時には、本件便宜供与に関する労働協約上の権利は期間の定めのない労働協約上の権利に転移していた旨主張する。しかし、本件便宜供与に関する労働協約の規定が長年にわたつて期間満了ごとに更新されてきたからといつて、本件便宜供与に関する労働協約上の権利が期間の定めのある権利から期間の定めのない権利に転移すると解することはできないから、右主張は失当である。更に、原告は、本件便宜供与に関する労働協約上の権利は、昭和二八年以来労働協約の期間満了ごとに更新を重ねて昭和四八年四月当時には実質上期間の定めなき労働協約上の権利と異ならない状態になり、単に期間が満了したという理由だけでは被告会社において便宜供与の打切りを行わず、また原告もこれを期待、信頼し、このような相互関係が存続、維持されてきた旨主張する。しかし、前記(一)の(3)記載のとおり、〈1〉被告会社は、昭和四六年五月から昭和四八年二月まで、労働協約の期間満了ごとに、原告に対して、広機問題についての善処を求めるとともに、広機問題が解決しないかぎり労働協約を更新することは困難であるが労使関係を紛糾させるのは本意でないので原告の努力に期待して有効期間三か月間の約定で労働協約を更新したい旨述べ、三か月ごとに労働協約を更新してきた、〈2〉しかし広機問題は一向に解決しないばかりか、被告会社が提案した完全週休二日制の実施に原告が合意しなかつたので、被告会社は、昭和四八年三月、労働協約の更新を拒否した、と認められるのであり、このことからすれば、被告会社が、労働協約は期間満了時に当然に更新されるべきものと考えていたと解することはできない。よつて、本件便宜供与に関する労働協約上の権利は昭和四八年四月当時に実質上期間の定めなき労働協約上の権利と異ならない状態になつていたと解することはできず、右主張は失当である。

(ii) 賃貸借契約又は和解契約上の権利としての本件便宜供与

原告は、本件便宜供与のうち、東京事務所及び同事務所付設の電話は賃貸借契約上の権利としても、また、福工分会の組合事務所及び電話は和解契約上の権利としても維持継続されてきた旨主張する。

まず、東京事務所及び同事務所付設の電話についてみるに、前記(一)の(1)及び(2)記載の事実を総合すると、原告の前身である西日本重工労働組合は、昭和二六年七月二〇日、被告会社の前身である西日本重工業株式会社との間で、これらについての期間の定めのない賃貸借契約を締結して引渡しを受け、以後原告(右組合)は、これらを使用してきたと認められること並びに証人畑田薫及び同深見定男の各証言を総合すると、原告、被告会社ともに、これらの便宜供与は労働協約上の権利ではなく賃貸借契約上の権利に基づくものであるとの認識を有していたと認められることからすれば、これらの便宜供与は労働協約上の権利ではなく、賃貸借契約上の権利に基づいて継続されてきたものであると解するのが相当である。

次に福工分会の組合事務所及び電話についてみるに、右(i)で述べたところに、前記(一)の(1)及び(2)記載の事実を総合すると、(ア)原告福工分会は労働協約及び賃貸借契約に基づいて被告会社から組合事務所(一か所)及び電話(二本)の貸与を受けていた、(イ)被告会社は、昭和四一年五月、原告福工分会に対し、右組合事務所の明渡しを求め、別個の建物を提供する旨申し入れた、(ウ)原告福工分会はこれを拒否したので、被告会社は、右組合事務所の明渡請求訴訟を提起した、(エ)昭和四四年一一月二五日、この訴訟において、〈1〉原告福工分会は被告会社に対し右組合事務所を明け渡す、〈2〉被告会社は原告福工分会に対し別紙契約書のとおり別個の組合事務所を貸与する、との内容の裁判上の和解が成立した、(オ)別紙契約書には、組合事務所の所在地や組合事務所等の貸与期間(昭和四四年一二月一日から一か年)などのほか、右電話の使用料などについても定められていた、(カ)その後原告福工分会は、右〈2〉の組会事務所の引渡しを受け、貸与期間経過後も使用してきた、と認められる。これらのことからすれば、右和解契約は、被告会社が原告に対して新たに組合事務所や電話を貸与することを定めたものではなく、被告会社が原告に対して労働協約に基づいて組合事務所や電話を貸与することを前提として、いかなる建物を組合事務所として貸与するか、電話の使用料はどのようにするかなどについて定めたものにすぎないと解するのが相当である。したがつて、福工分会の組合事務所及び電話は、和解契約上の権利としても維持継続されてきた旨の原告の右主張は、失当である。

(iii) 労働慣行上の権利としての本件便宜供与

原告は、本件便宜供与は労働慣行上の権利としても維持継続されてきた旨主張する。しかし、本件便宜供与は、いずれも右(i)(ii)記載のとおり労働協約、労働協約付帯事業所協定、賃貸借契約という明示の合意に基づいて継続されてきたものであり、このように明示の合意がある以上、本件便宜供与が労働慣行上の権利としても継続されてきたと解する余地はない。したがつて、原告の右主張は失当である。

(iv) 使用者の団結承認義務の履行としての本件便宜供与

原告は、本件便宜供与は憲法二八条の保障する団結権の下での使用者の団結承認義務の履行としても維持継続されてきた旨主張する。しかし、勤労者の団結権を保障している憲法二八条が、勤労者が使用者から便宜供与を受ける権利まで保障していると解することはできないから、原告の右主張は失当である。

(v) 結論

以上のとおり、本件便宜供与のうち、東京事務所及び同事務所付設の電話以外のものは、期間の定めのある労働協約及び労働協約付帯事業所協定に基づき、東京事務所及び同事業所付設の電話は賃貸借契約に基づきそれぞれ継続されてきたものと解することができる。

(2) 東京事務所及び同事務所付設の電話以外の本件便宜供与の打切りについて

(i) 右(1)で述べたところに前記(一)の(3)記載の事実を総合すると、東京事務所及び同事務所付設の電話以外の本件便宜供与は、期間の定めのある労働協約に基づいて継続されてきたところ、労働協約は被告会社が期間満了に伴う更新を拒否したため失効し、原告は右便宜供与を受ける権利を失つたということができる。そして、このように労働組合が右便宜供与を受ける権利を失つた以上、使用者が右便宜供与を打ち切つたとしても、原則として不当労働行為(支配介入)は成立しないと解すべきである。しかし、使用者が、組合を弱体化する意図の下に、労働協約の更新を拒否したうえ、それに藉口して右便宜供与を打ち切つたと認められる特段の事情がある場合等には、例外的に不当労働行為が成立すると解すべきである。

(ii) そこで、本件が右のような例外的な場合にあたるかどうかについて判断する。

(ア)〈1〉 前記(一)の(3)の(i)記載の広機問題のうち、(ア)の〈1〉及び〈2〉記載の各ストライキは(ア)の〈1〉及び〈2〉記載の事実に照らすと違法であるということができる。次に、(ア)の〈3〉ないし〈5〉等記載の無許可集会、ビラの掲示・貼付、ビラの配付等について検討するに、労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで企業の物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが使用者の権利の濫用と認められるような特段の事情がある場合を除いて正当な組合活動として許容されるものということはできないと解されるところ、成立に争いがない甲第二号証の一、二、乙第一ないし第一七号証によれば、当時の原告と被告会社との労働協約は、一〇条において、組合は、会社の了解を得て、会社の諸施設その他を利用することができる旨定め、二七(二八)条において、組合員が事業所の許可なく事業所内又は施設(社宅及び寮の私室を除く)で集会、演説、放送、各種印刷物の掲示・貼付・配付、署名活動、募金その他これに類する行為をしたときはけん責に処する旨定めていると認められること及び前記(ア)の〈3〉ないし〈5〉記載の事実関係に照らすと被告会社が原告に施設の利用を許さないことが権利の濫用にあたるとまで認めることはできず、右の無許可集会等は労働協約に違反し、許されないものであるということができる。更に、前記(エ)の〈1〉、(キ)の〈1〉及び(ク)の〈1〉記載の構内への乱入や暴行等が許されないことは明らかである。そして、これらのことに、被告会社には労働協約を更新する義務はないことを併せ考えると、前記(一)の(3)記載のとおり、被告会社が、原告に対して、広機問題についての統制責任を問うとともに、三か月ごとに労働協約を更新してきたが、広機問題は一向に解決しなかつたので、このことを一つの理由として労働協約の更新を拒否したのも、やむをえなかつたということができる。

〈2〉 前記(一)の(3)記載のとおり原告は完全週休二日制実施に関する被告会社の提案に同意しなかつたのであるが、証人深見定男の証言によれば、被告会社の右提案が実証されると、一日の労働時間は以前よりも三〇分長くなるが、年間の労働時間は以前よりも四八・五時間短くなると認められること、前記(一)の(3)の(ii)の(エ)記載のとおり、被告会社は、右提案に伴い完全週休二日制実施に伴う生産諸対策について提案したが、このうち「隔週週休二日制実施時に協定した事項の完全励行」は、原告が被告会社との間で隔週週休二日制実施時に協定した事項を完全に励行するというものにすぎなかつたし、「休日労働の運用」等のその他の項目は、いずれも抽象的な内容で特に原告に不利益を与えるというものではなかつたこと、証人深見定男の証言によれば、被告会社は共同作業が多く従業員が同じ時間帯で働く必要性が高いため、組合員数約七万五〇〇〇人の重工労組が、完全週休二日制実施に関する被告会社の提案に同意し、新しい時間帯で勤務する以上、組合員数六〇〇人足らずの原告の従業員のために別個の時間帯を設定することは困難である、と認められることなどからすれば、被告会社が完全週休二日制に関する提案に同意するよう原告に求めたことは合理性があつたということができ、労働時間に関する定めは労働協約中の重要な条項であること、被告会社には労働協約を更新する義務はないことをも考慮すると、原告が完全週休二日制に関する提案に同意しないことを理由に被告会社が労働協約の更新を拒否したのもやむをえなかつたということができる。

〈3〉 右〈1〉及び〈2〉で述べたとおり、被告会社が労働協約の更新を拒否し、労働協約を失効させたことにはやむをえない理由があつたということができ、このことからすれば、被告会社が、原告を弱体化する意図の下に、労働協約の更新を拒否したうえ、前記便宜供与を打ち切つたと認めることはできない。

(イ) 他に、前記便宜供与の打切りが不当労働行為にあたると解することができる事情は、認められない。

(3) 東京事務所及び同事務所付設の電話の便宜供与打切り通告について

前記(一)の(3)記載のとおり、被告会社が原告に対して東京事務所及び同事務所付設の電話について便宜供与打切り通告を行つたとは認められない。

(4) 結論

以上を総合すると、本件便宜供与の打切りに関し不当労働行為が成立すると解することはできない。

2  増額分の賃金及び夏季一時金不払による不当労働行為

(一)  事実関係

請求原因二の2の(一)の(1)ないし(4)、同(5)のうち、被告会社は昭和四八年五月一八日に同月の賃金増額分を原告の組合員に対して支払わなかつたこと、同(6)、同(7)のうち、改訂案中ことさらに就業規則所定の労働日、労働時間としているのは、賃金増額分の支払と同様に原告が「時間短縮」問題との関連でこれを保留した場合にはたとえ他のすべてについて妥結を表明してもそれだけでは妥結にならないとして、一時金を支払わないことを暗に匂わすものであつたことを除く事実、同(8)、同(9)のうち、回答に対し原告は不満を表明し検討を求めたこと、同(11)、同(12)のうち、回答に対し原告は金額、配分については了承し勤怠系数の改訂についても了承するが就業規則所定の労働日及び労働時間という部分は保留したいとの態度を表明したこと及び交渉はもの別れに終つたこと並びに請求原因二の2の(二)は、当事者間に争いがない。この争いがない事実に、前記1の(一)の(3)記載の事実、前掲甲第五号証の四、六、九、第二〇号証、第二三号証の三、乙第四二号証、成立に争いがない甲第一一号証の一四、第二一号証の一、第二二号証、第二三号証の一、第二四、第二五号証、第二七号証の五、九、一〇、一一、二七、三二、三三、乙第一八号証、第四一号証、第八一、第八二号証、第一一三号証、証人畑田薫の証言により真正に成立したと認められる甲第五号証の一〇ないし一四、第一一号証の一三、第二三号証の六、証人畑田薫及び同古木泰男の各証言により真正に成立したと認められる甲第二一号証の二ないし五、証人畑田薫及び同永島嘉司の各証言により真正に成立したと認められる乙第二三号証の二、四、五、証人麻生立雄の証言により真正に成立したと認められる乙第七八号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第二八号証の二、一二、一四、一五、乙第七六、第七七号証、第七九号証、第八〇号証の一、二、第八三号証の一、二、第八四、第八五号証、証人畑田薫、同古木泰男、同永島嘉司、同深見定男及び同麻生立雄の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すると、増額分の賃金及び夏季一時金不払の経緯は次のとおりであつたと認めることができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 完全週休二日制実施に伴う賃金取扱いについての提案

被告会社は、前記1の(一)の(3)の(ii)記載のとおり、原告との間で、完全週休二日制実施に関する交渉を行つていたが、昭和四八年二月二七日に行われた団体交渉において、原告に対し、同(カ)記載のとおり、完全週休二日制実施に伴う賃金取扱いについて提案した。そのうち、時間割賃金算定の基礎数値等改正の件、本給控除方法改正の件及び期末一時金勤怠系数改正の件の内容は、次のとおりであつた。

(i) 時間割賃金算定の基礎数値等改正の件

(ア) 時間割賃金算定の基礎数値

時間割賃金算定にあたつて用いる一年における一か月平均所定労働時間数を、一七〇時間(完全週休二日制実施前の年間所定労働時間二〇三二・五時間を一二で除したもの。)から一六五時間(完全週休二日制実施後の年間所定労働時間一九八四時間を一二で除したもの。)に改める。

(イ) 賃金控除の基礎数値

所定労働日の一部勤務を欠いた場合には、勤務を欠いた時間三〇分につき、基準内賃金の三四〇(完全週休二日制実施前の一か月平均所定労働時間数一七〇時間の二倍)分の一を控除することとしていたのを、三三〇(完全週休二日制実施後の一か月平均所定労働時間数一六五時間の二倍)分の一を控除することに改める。

所定労働日の一日分勤務を欠いた場合には、基準内賃金の二三(完全週休二日制実施前の一か月平均所定労働日数二三日)分の一を控除することとしていたのを、一日の所定労働時間分すなわち一般者については一六五分の八を控除することに改める。

(ii) 本給控除方法改正の件

(ア) 改正内容

〈1〉 所定労働日の全日勤務を欠いた場合

業務外の傷病欠勤(健康保険法に定める傷病手当金が支給される日は除く。)及び真にやむをえない事情による事故欠勤で会社の認めたものについては、一か月につき通算三日まで、このほか、傷病手当金の支給対象となる業務外の傷病による連続欠勤については、傷病手当金の支給開始までの待期期間中の所定労働日に限り、一か月につき通算三日まで、それぞれ本給を控除しないこととしていたのを、廃止する。

〈2〉 所定労働日の一部勤務を欠いた場合

遅刻・早退・私用外出については、一か月につき通算三回までは各回一時間に限り本給を控除しないこととしていたのを、一か月につき通算三回まで各回三〇分以内と改める。

業務外の傷病又は真にやむをえない事情による場合には一時間を超える時間についても本給を控除しないこととしていたのを、廃止する。

(イ) 還元措置

前記改正に伴い、現在右控除容赦取扱いの対象となつている総時間に対応する賃金部分は全体に還元する。

(iii) 期末一時金勤怠系数改正の件

(ア) 昭和四八年夏季支給分に用いる勤怠系数は、次のとおりとする。

勤怠調査期間を通算し、就業規則所定の労働日の欠勤三日以内の者は一〇〇パーセント支給するものとし、欠勤三日を超えるごとに一パーセントを減ずる。三日未満の端数は切り上げる。

遅刻又は早退により就業規則所定の労働時間の勤務を一部欠いた場合には、遅刻・早退四回をもつて右欠勤一日とみなし、四回未満の端数は切り上げる。

(イ) 昭和四八年末以降の支給分に用いる勤怠系数は、完全週休二日制実施に伴い次のとおり改める。

勤怠調査期間を通算し、就業規則所定の労働日の欠勤三日以内の者は一〇〇パーセント支給するものとし、欠勤三日を超える一日につき〇・四パーセントを減ずる。

遅刻又は早退により就業規則所定の労働時間の勤務を一部欠いた場合には、遅刻・早退四回をもつて右欠勤一日とみなし、四回未満の端数は切り上げる。

また、被告会社は、前記1の(一)の(3)の(ii)の(カ)記載のとおり、他の三労働組合に対しても、同じころ、同じ内容の提案を行つた。

(2) 就業規則の変更

右(1)記載の完全週休二日制実施に関する原告と被告会社との交渉は、前記1の(一)の(3)記載のとおり、同年三月三〇日までには、妥結するに至らなかつたが、被告会社は、同年四月一日付けで前記1の(一)の(3)の(ii)の(ウ)記載の同会社の提案どおり就業規則を変更し、同日から完全週休二日制を実施した。

(3) 賃金増額交渉及び五月暫定払について

(i) 各労働組合は、同年三月、被告会社に対して、賃金増額等の要求を行つた。そのうち、原告の賃金増額要求及び所定時間外労働割増率引上げ要求の内容は次のとおりであつた。

「(ア) 賃金増額要求

〈1〉 金額 一人平均税込み二万円

〈2〉 配分

(a) 一律給六〇パーセントとし、新賃金項目を設定して一律同額配分とする。

(b) 本給比四〇パーセントは、平均本給により支給率を算出し、勤務給に繰り入れる。

〈3〉 実施期日 三月支払分よりとする。

(イ) 所定時間外労働割増率引上げ要求

〈1〉 所定時間外労働割増率を三割五分とする。

〈2〉 休日出勤割増率を三割五分とする。

〈3〉 深夜割増率を三割五分とする。

〈4〉 早出割増率を一割五分とする。

〈5〉 休日超過労働手当を三割五分とする。

〈6〉 以上はそれぞれ併給する。

〈7〉 実施期日 妥結後よりとする。」

(ii) 被告会社は、同月三〇日に行われた団体交渉において、原告に対し、右の賃金増額要求については、検討中である旨、右の所定時間外労働割増率引上げ要求については、応じられない旨、それぞれ回答した。

(iii) 被告会社は、同年四月一八日に行われた団体交渉において、原告に対し、前記(1)の(ア)記載の賃金増額要求につき、次のような内容の回答を行つた。

「(ア) 金額 一人平均税込み九五〇〇円

(イ) 配分

賃金増額分の内五〇パーセントを職能給に、五〇パーセントを勤務給にそれぞれ繰り入れることとする。具体的内容については金額妥結後協議したい。

(ウ) 実施期日 三月支払分賃金からとする。」

これに対し、原告は不満を表明し、再検討を求めた。

(iv) 被告会社は、同月二〇日に行われた団体交渉において、原告に対し、前記(1)の(ii)記載の本給控除方法改正の件を賃金増額交渉の一項目として改めて提案した。

(v) 被告会社は、同月二五日に行われた団体交渉において、原告に対し、前記(i)記載の賃金増額要求及び所定時間外労働割増率引上げ要求につき、次のような内容の修正回答を行つた。

「(ア) 賃金増額要求の件

〈1〉 金額 一人平均税込み一万二五〇〇円に修正する。

〈2〉 配分 前記(iii)の(イ)記載のとおり

〈3〉 本給控除方法の改正 前記(1)の(ii)記載のとおり

(イ) 所定時間外労働割増率引上げ要求の件

〈1〉 改正内容

(a) 時間外労働割増金

就業規則所定の始業時刻前の労働並びに就業規則所定の終業時刻後二時間以内の労働について現行二割五分を二割八分とする。

(b) 休日労働割増金

就業規則所定の休日につき現行二割五分を二割八分とする。

(c) その他

現行どおり

〈2〉 実施期日

妥結時から実施する。」

これに対し、原告は不満を表明し、再検討を求めた。

(vi) 被告会社は、同月二七日に行われた団体交渉において、原告に対し、前記(i)記載の賃金増額要求及び所定時間外労働割増率引上げ要求につき、次のような内容の修正回答を行つた。

「(ア) 賃金増額要求の件

〈1〉 金額 一人平均税込み一万三五〇〇円に修正する。

〈2〉 その他 前記(v)の(ア)記載のとおり

(イ) 所定時間外労働割増率引上げ要求の件

〈1〉 時間外労働割増金

就業規則所定の始業時刻前の労働並びに就業規則所定の終業時刻後二時間以内の労働について現行二割五分を三割とする。

〈2〉 休日労働割増金

就業規則所定の休日につき現行二割五分を三割とする。

〈3〉 その他 前記(v)の(イ)記載のとおり」

これに対し、原告は、不満を表明し、再検討を求めた。

(vii) 被告会社は、同年五月八日に行われた団体交渉において、原告に対し、前記(i)の(ア)記載の賃金増額要求については、金額を一人平均税込み一万三八〇〇円及び調整金二〇〇円と修正する、その他は前記(v)の(ア)記載のとおり、との回答を、前記(i)の(イ)記載の所定時間外労働割増率以上げ要求については、前記(vi)の(イ)記載のとおり、との回答をそれぞれ行つた。

(viii) 原告は、同月一一日に行われた団体交渉において、被告会社に対し、右(vii)記載の同会社の回答につき、次のとおり態度を表明した。

「(ア) 賃金増額要求の件

〈1〉 金額 了承する。

〈2〉 配分

金額妥結後協議したいとのことであつたので会社側から具体的な提案をされたい。

〈3〉 本給控除方法の改正 反対である。

(イ) 所定時間外労働割増率引上げ要求の件

現行二五パーセントの割増率を三〇パーセントに引き上げることは了承する。しかし、就業規則による労働時間及び休日については現在話合いを続けており組合としては認めていないので保留する。」

(ix) これに対し、被告会社は本給控除方法の改正については配分の提案を行う際に改めて会社の見解を明らかにする旨述べるとともに、金額が妥結したので、賃金増額に伴う三月払及び四月払賃金の精算方法(賃金の増額は三月払賃金より実施されることとなつたが、妥結時期はすでに五月に入つていたので、既往の三月払及び四月払賃金について、賃金増額分を精算する方法)並びに賃金増額に伴う五月暫定払の方法(金額のみならず配分についても同日妥結したとしても、支払日が一週間後の同月一八日に迫つている五月払賃金を新しい賃金体系で支給することは事務的に困難であるので、五月払賃金の増額分を比較的簡易な算式を用いて算出、支出する、その方法)につき提案する旨述べ、これらの提案を行つた。このうち、五月暫定払の方法の提案の内容は、次のとおりであつた。

「(ア) 支給額

〈1〉 一般社員

次表の算式により算定した額とする。

〔算式〕

(本給6万円未満の者 本給×0.1467+1150円 本給6万円以上の者 本給×0.0709+5700円)+職群等級別金額

〈2〉 雇用延長者 略

(イ) 支給条件その他

〈1〉 本支給額は、時間割賃金及び平均賃金の算定基礎額に算入する。なお、時間割賃金の算定に際しての「一年における一か月平均所定労働時間数」は「一六五時間」とする。

〈2〉 割増金の算定に際しての所定労働日、所定休日、所定就業時刻及び所定終業時刻は社員就業規則に定めるところによる。

〈3〉 勤務を欠いた場合については、勤務給に準じ社員賃金規則又は同細部取扱いの定めるところにより控除を行う。」

(x) 右提案に対し、原告は、賃金増額に伴う三月払及び四月払賃金の精算方法については直ちに了承したが、賃金増額に伴う五月暫定払の方法については休憩をとつて検討したのち次のとおり態度を表明した。

「第一項の算式については了承する。第二項の支給条件については割増率引上げの場合と同様の理由で保留する。現在労使に意見の不一致があるので保留という他ない。これによつて処理されたい。」

これに対し、被告会社は、「全体の提案に対する組合回答としては反対と考える。」と述べた。また、原告も「了解を得られなかつたので協議を続けることとしたい。」と述べた。

(xi) 他方、被告会社は、前記(ii)ないし(vii)及び(ix)記載の原告に対する回答及び提案と同じ内容の回答及び提案を、他の三労働組合に対しても行つていたが、重工労組は、同年五月八日に、長船労組は、同月一一日に、横船分会は、同月一五日に、それぞれ、前記(vii)記載の賃金増額の金額並びに前記(ix)記載の賃金増額に伴う三月払及び四月払賃金の精算方法及び賃金増額に伴う五月暫定払の方法につき、了承した。

(xii) 被告会社は、重工労組の組合員に対しては同月一八日及び二二日に、長船労組及び横船分会の組合員に対しては同月二五日に、賃金増額に伴う三月払及び四月払賃金の精算並びに賃金増額に伴う五月暫定払を行つた。一方、原告の組合員に対しては、同月二五日に賃金増額に伴う三月払及び四月払賃金の精算を行つたが、賃金増額に伴う五月暫定払については交渉が妥結に至つていないとの理由で行われなかつた。

(4) 六月払賃金について

(i) 被告会社は、同月二一日に行われた団体交渉において、原告に対し、本給控除方法改正の件につき次のような内容の修正提案を行つた。

「(ア) 本給について

傷病手当金の支給対象となる業務外の傷病による連続欠勤については傷病手当金の支給開始までの待期期間中の所定労働日に限り一か月三日までは本給を控除しないこととしていたのを廃止するとの前記(1)の(ii)記載の提案を、一か月三日までは就業規則所定の当該日の労動時間/165×0.3を控除すると改める。

(イ) 勤務給、職能給等について

常に勤務を欠いた日一日につき二三分の一を控除することとしていたのを、傷病手当金の支給対象となる業務外の傷病による連続欠勤については、傷病手当金の支給開始までの待期期間中の所定労働日に限り一か月三日までは一日につき就業規則所定の当該日の労動時間/165×0.3を控除すると改める。」

更に、被告会社は、右団体交渉において、増加賃金額の約五〇パーセントを職能給に約五〇パーセントを勤務給にそれぞれ繰り入れるとの賃金増額の配分に関する提案及び本給控除方法改正に伴う還元措置としての賃金増額を含む賃金体系一部改正の提案を行つた。そして、これらの提案は、本給控除方法の改正が条件である旨述べた。

(ii) 原告は、同年六月五日に行われた団体交渉において、被告会社に対し、右(i)記載の提案に対する態度表明を行つた。その内容は、次のとおりであつた。

「(ア) 本給控除方法改正の件

会社提案は内容的には労働条件の低下する部分、良くなる部分があるが、会社提案を了承する。ただし、所定労働時間及び休日に関する問題については、現在、労働時間、休日について労使間で協議中であるので保留する。

(イ) 賃金増額の配分及び賃金体系一部改正の件

我々の考え方は終始して職能給の拡大には反対であり、会社提案は組合の配分案とは異なつている。我々の主張は変えないが、問題解決のため、やむをえず会社提案を了承する。」

(iii) 他方、被告会社は、他の三労働組合に対しても、前記(i)記載の、原告に対する提案と同じ内容の提案を行つた。これに対し、重工労組は同年五月一八日、長船労組は同月二八日、横船分会は同月二九日、右提案を了承した。

(iv) 被告会社は、原告を除く他の三労働組合の組合員に対しては、賃金増額後の新しい賃金体系に基づいて六月払賃金を支払つたが、原告の組合員に対しては、本給控除方法の改正につき妥結しない限り賃金増額交渉は妥結に至つていないとの理由で、賃金増額前の賃金体系に基づいて六月払賃金を支払つた。

(5) 夏季一時金について

(i) 原告は、同年六月一一日に行われた団体交渉において、被告会社に対し、次のような内容の夏季一時金要求を行つた。

「(ア) 金額

一人平均税込み三か月分(三か月分の金額設定は昭和四八年四月末理論月収プラス賃上げ分「四月精算払金」

(イ) 配分

昭和四八年四月末における各人理論月収プラス賃上げ分(四月精算払金)の三か月分とする。

(ウ) 支払日 七月六日」

(ii) 一方、被告会社は、右団体交渉において、原告に対し、前記(1)の(iii)記載の期末一時金勤怠系数改正の件を、期末一時金交渉の一項目として、改めて提案した。

(iii) 被告会社は、同月二五日に行われた団体交渉において、原告に対し、前記(i)記載の要求につき、次のような内容の回答を行つた。

「(ア) 金額 一人平均年間税込み四三万円

(イ) 配分

〈1〉 夏季一時金 二一万円

〈2〉 年末一時金 二二万円

〈3〉 各人への配分 略

なお、先に提案している期末一時金勤怠系数改正の件のうち、昭和四八年年末以降の支給分に用いる勤怠系数について「私傷病による長欠者の欠勤控除は四五パーセントを限度とする。」との項目を追加する。この件も期末一時金問題の一項目として同時解決したい。

(ウ) 支給日

〈1〉 夏季一時金 七月五日

〈2〉 年末一時金 一二月三日

なお、支給日については妥結日が遅れれば当然支給日も延びることになる。」

これに対し、原告は、不満を表明し、再検討を求めた。

(iv) 被告会社は、同月二九日に行われた団体交渉において、原告に対し、次のような内容の修正回答を行つた。

「(ア) 金額 一人平均年間税込み四五万五〇〇〇円

(イ) 配分

〈1〉 夏季一時金 二二万二五〇〇円

〈2〉 年末一時金 二三万二五〇〇円

〈3〉 各人への配分については既に提案しているとおりである。

(ウ) 勤怠系数については既に提案したとおり。

(エ) 本日期末一時金についてのすべての問題が解決した場合には、支給日は、夏季は七月五日、年末は一二月三日となる。」

(v) 原告は、休憩をとつて検討したのち、右(iv)記載の回答につき、次のとおり態度を表明した。

「(ア) 金額については要求に比し低いし、組合の夏季のみ要求に対し年間で回答され不満であるが夏冬とも妥結したい。

(イ) 配分についても不満であるが了承する。

(ウ) 勤怠系数の改正については年末以降若干条件低下となるが、内容的には了承する。ただし、提案の中にある「就業規則所定の労働日、労働時間」については今日なお協議中であるので保留したい。」

これに対し、被告会社は、「一部保留ということでは解決にならない。」と述べた。

(vi) 他方、被告会社は、他の三労働組合からも期末一時金に関する要求を受け、これらの組合に対しても、前記(ii)ないし(iv)記載の、原告に対する提案及び回答と同じ内容の提案及び回答を行つた。これに対し、重工労組は、同年六月二九日に、長船労組は、同年七月二日に、横船分会は、同月三日に、右提案及び回答を了承した。

(vii) 被告会社は、重工労組の組合員に対しては同月五日に、長船労組の組合員に対しては同月六日に、横船分会の組合員に対しては同月一〇日に、それぞれ夏季一時金を支払つた。しかし、原告の組合員に対しては、交渉が妥結に至つていないとの理由で夏季一時金を支払わなかつた。

(8) 原告の組合員に対する賃金の増額部分及び夏季一時金の支払

(i) 原告の長船分会の組合員約四四〇名は、同年六月二二日、長崎地方裁判所に対し、同年五月分(ただし一部の者については六月分)以降の賃金の増額部分の支払を求める仮処分申請を行つた。そしてその後、同人らは、夏季一時金の支払を求める仮処分申請も行つた。

同年七月一一日、右仮処分事件につき右組合員と被告会社との間で裁判上の和解が成立した。その和解の内容は、次のとおりであつた。

「被告会社は、右組合員ら(ただし一部の者については五月分を除く。)に対し、次の方法によつて算定される金員を昭和四八年七月一七日限り、支払う。

(ア) 賃金(ただし増額部分)

〈1〉 五月分

前記(3)の(ix)記載の暫定払方法により算出された金額から後記控除すべき金額を控除した金員

〈2〉 六月分

賃金増額後の新しい賃金体系(本給控除方法の改正を含む。)により算出される金額から賃金増額前の賃金体系により算出され、既に右組合員らに支払われた金額並びに後記控除すべき金額を各控除した金員

(イ) 夏季一時金

前記(5)の(iv)記載の期末一時金支給方法(勤怠系数の改正を含む。)により算出された金額から後記控除すべき金額を控除した金額

(ウ) 控除すべき金額とは、所得税及び社会保険相当分、その他通常控除すべき金額をいう。」

(ii) 被告会社は、同月一七日、右組合員のみならず、原告の組合員全員に対し、右(i)記載の各金員を支払つた。

(iii) 被告会社は、七月の賃金については、賃金増額後の新しい賃金体系に基づいて、原告の組合員に対し、支払つた。

(iv) 原告は、同月二三日に行われた団体交渉において、被告会社に対し、「会社より提案のあつた労働時間及び休日については、七月一日以降につき時短の提案と切り離して了承したい。したがつて賃金増額、割増金について労働時間と休日との関係で保留していた部分についても同様解決したい。」と述べ、本件の問題は解決するに至つた。

(二)  (一)で認定した事実に基づき、原告の組合員に対する増額分の賃金及び夏季一時金の不払に関し不当労働行為が成立するかどうかについて判断する。

(1) 前記(一)記載の事実からすれば、(i)被告会社は、賃金増額、賃金増額に伴う五月暫定払及び期末一時金につき、原告及び他の三労働組合に対し、同じ内容の回答及び提案を行つた、(ii)他の三労働組合は、被告会社の回答及び提案を了承し、これらの組合と被告会社との右の各事項に関する交渉は妥結するに至つた、(iii)一方、原告は、被告会社の回答及び提案のうち、金額等については了承したが、「就業規則所定の労働日、労働時間」という部分については了承せず、原告と被告会社との右の各事項に関する交渉は妥結するに至らなかつた、(iv)その結果、被告会社は、他の三労働組合の組合員に対しては、五月暫定払並びに六月払賃金の増額部分及び夏季一時金の支払を行つたが、原告の組合員に対しては、これらを行わなかつた、(v)その後、原告の組合員は、裁判上の和解等により、被告会社から、右の各金員の支払を受けた、と認められる。

(2) このように、使用者が併存する複数の労働組合のいずれに対しても同一の回答(提案)を行つたところ、他の労働組合は、これを了承して、交渉を妥結させたが、一部の労働組合は、これを了承しなかつたため、交渉が妥結せず、その結果、妥結しなかつた当該労働組合が妥結した他の労働組合よりも不利益に取り扱われることとなつたとしても、これは、原則として、当該労働組合の自由な意思に基づく選択の結果に他ならないから、この場合に、不当労働行為(不利益取扱い又は支配介入)が成立することは原則としてないものと解すべきである。しかし、この不利益な取扱いが、当該労働組合の組合員であること又は当該労働組合の組合活動をしたことのゆえに行われたものであるとか、ことさら当該労働組合の運営への支配介入を意図して行つたものであるとかと認められる特段の事情がある場合には、不当労働行為が成立するものと解すべきである。

(3) そこで、本件において、右特段の事情があるかどうかについて判断する。

(i) 前記(一)記載の事実によれば、原告が了承しなかつた「就業規則所定の労働日、労働時間」という部分についての合意が成立しない限り、五月暫定払、六月払賃金の増額部分及び夏季一時金について勤務を欠いた場合の控除額等を算定することができず、各人に対する右各金員の支払額が定まらないと認められるから、右部分は、右各金員の支払と密接な関係を有しているということができる。

(ii) 右の「就業規則所定の労働日、労働時間」を被告会社が原告に対して了承するよう求めたことは、前記2の(二)の(ii)の(ア)の〈2〉記載のとおり合理性を有していたということができ、決して不法あるいは不当ということはできない。

(iii) 右(i)及び(ii)で述べたところからすると、原告は、被告会社の回答及び提案中、右各金員の支払と密接な関係を有し、かつ合理性のある「就業規則所定の労働日、労働時間」という部分を了承しなかつたため、被告会社は右各金員の支払をしなかつたものということができる。そして、このことからすれば、被告会社が右各金員の支払をしなかつたのは、原告ら組合員が原告の組合員であること若しくは原告の組合活動をしたこと又はことさら原告を弱体化させる等原告の組合運営に支配介入する意図からであつたとは解されないから、右特段の事情があるということはできない。

(4) 以上を総合すると、原告の組合員に対する増額分の賃金及び夏季一時金の不払に関し、不当労働行為が成立すると解することはできない。

3  結論

以上のとおり原告主張の不当労働行為の成立が認められず他に被告会社による原告に対する団結権侵害の主張立証がない以上、団結権侵害を理由として被告会社が不法行為を行つたとの原告の主張は、理由がない。

三 結論

よつて、その余の点について判断するまでもなく、本訴各請求は理由がないから、いずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 越山安久 吉野孝義 森義之)

謝罪文

当社は、昭和四八年四月から同年七月にかけて、日本労働組合総評議会全日本造船機械労働組合三菱重工支部の組織壊滅を企図し、同組合が会社提案の「時間短縮」について労働者の不利益になると同意しなかつたことに藉口し、組合事務所、電話、掲示板、構内郵便、チエツク・オフ、組合専従、時間内組合活動についての便宜供与の全面打切を通告し、実力で掲示板の撤去等をおこない、さらにベースアツプ賃金分および夏季一時金の不法行為を行なつたことを認め、今後このような不法行為は絶対行なわないことを誓約し、謝罪するものであります。

右、東京地方裁判所の判決により掲示します。

昭和  年  月  日

三菱重工業株式会社

代表取締役 末永聡一郎

便宜供与一覧表

事業所(従業員数)

(原告)

長崎造船所

(一五〇〇〇)

下関造船所

広島造船所

広島精機製作所

(二〇〇〇)

(一六〇〇)

(一六〇〇)

分会(分会員数)

長船分会

(四五〇)

福工分会

(一六)

下船分会

(四〇)

広船分会

(五〇)

広機分会

(二二)

通告日

四月二日

四月二日

四月二日

四月二日

四月一日

四月二日

便宜供与項目

組合事務所

三月三一日現在

一か所

(東京事務所)

六か所

1か所

2か所

1か所

1か所

通告内容

五月末まで猶予

五月末まで猶予

五月末まで猶予

五月末まで猶予

五月末まで猶予

五月末まで猶予

仮処分の状況

原状固定

原状固定

電話

三月三一日現在

一本(上記事務所付設の電話)

八本

二本

一本

一本

一本

通告内容

五月末まで猶予

四月三日から、一本を除き、撤去

四月三日から、一本を撤去

五月末まで猶予

五月末まで猶予

仮処分の状況

回復

原状固定

原状固定

掲示板

三月三一日現在

三五か所

一か所

五か所

通告内容

四月八日まで猶予

四月九日撤去

四月五日撤去

仮処分の状況

原状固定

回復

回復

構内郵便

三月三一日現在

通告内容

四月三日から停止

四月三日から停止

四月三日から停止

四月二日から停止

仮処分の状況

回復

回復

回復

チエツク・オフ

三月三一日現在

通告内容

四月分から廃止

四月分から廃止

四月分から廃止

四月分から廃止

四月分から廃止

仮処分の状況

回復

回復

回復

回復

組合専従

三月三一日現在

三名

通告内容

一名は四月一日から、二名は六月一日から職場復帰

仮処分の状況

時間内組合活動

三月三一日現在

通告内容

失効に伴い一部を除いて廃止

即日・禁止

仮処分の状況

仮処分申請月日

四月六・一六日

四月九日

四月九・二五日

四月一九日

四月一八日

(注) チエツク・オフについては、福工分会を除く四分会が仮処分決定により継続することとなつたが、四月分は時間的に間に合わなかつた。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例